2024年02月10日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[#75 洋上風力発電と漁業 海外の経験 米英 相次ぐプロジェクトのキャンセルに現政権無理筋支援]
日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。
世界中の漁業者は共通に、洋上風力発電プロジェクトについて、自らが知らない間に選定地が決まって唐突に説明会が始まり、漁業当局に十分なヒアリングを行うことなく、他の部局が主導する地方自治体の前傾姿勢による拙速な取り組みが行われ、事業開発者から漁業分野の科学的知見を理解しようとしない姿勢を感じていると指摘している。
一方、新型コロナウイルスのパンデミックを発端とするサプライチェーンの混乱は、ウクライナ紛争で一段と深刻化しており、輸送コストや原材料費の高騰、金利の上昇、そして、インフレにより、風力発電事業者の利益が圧迫され、内容が悪化しており、このような環境で、漁業分野を含め満足な補償等に対応がなされるのか、はなはだ疑問な状況が伝えられている。
この中にあって、米国と英国は、現政権が示したエネルギー政策のために、無理筋とも言える政府支援の準備を始めた。
当然、負担は両国国民からの税収であり、特に、今後、次期米国大統領選挙の動向との連動性が注目されるところとなる。
2024年2月8日付日本経済新聞(ロンドン=湯前宗太郎様/ヒューストン=花房良祐様)は、“米英、洋上風力発電の支援拡充 開発費膨張に対応”と題し、次のとおりリポートしている。
昨年2023年はバッテンフォールなどエネルギー大手の間で洋上風力を巡る停滞感が強まった。
米国と英国が洋上風力発電事業の立て直しに動き始めた。米国では開発事業者を募る好条件の入札が実施された。英国は今年、電力販売価格の目安となる入札の上限価格を前年から約7割引き上げる。2023年に開発費の膨張で企業の損失や事業中止が相次いでおり、支援拡充で停滞に歯止めをかける。
米ニューヨーク州は1月25日、洋上風力発電について開発事業者に有利な条件を導入して実施した入札を締め切った。事業者が過去の入札で決めた契約を保有していても、キャンセルして開発費や売電価格を見直せる。
背景には洋上風力に吹く逆風がある。インフレや高金利などが重なり、洋上風力の開発費は膨らんでいる。米ブルームバーグNEFによると風力発電設備の世界平均価格は、23年後半に1000キロワットあたり99万ドル(約1億5000万円)だった。新型コロナウイルス禍前と比べて3割高い水準だ。
風力発電は稼働を始める数年前に、事業者が開発コストなどを基に顧客と売電価格を決めるのが一般的だ。米国では費用の膨張を受けて、事業者のコストが2年前の見積もりと比べて約5割増えているという。
コストが想定以上に高くなると、事業者は採算が取れず計画を中止せざるを得ない。ニューヨーク州が過去の契約を変更できる入札を実施したのは、事業者のリスクを減らす狙いがある。
英国は3月から募集を始める入札で、電力販売価格の目安となる上限価格を23年に実施した前回から66%引き上げる。米国と同様に事業費の膨張に対応する。
英政府は風力発電に「差額決済契約」と呼ぶ制度を導入している。政府が示した上限価格の枠内で入札を実施し、事業者が収益を受け取れる固定価格を決める。電力の市場価格が固定価格を下回った場合でも、政府による差額の補塡で事業者の収益を実質的に保証する仕組みだ。
入札の上限価格の引き上げで、応札価格が上がれば、固定価格も上昇し、事業者は収益を確保しやすくなる。
23年に実施した入札では「プロジェクトの費用が40%上昇した」(スウェーデンの電力大手バッテンフォール)といい、応札がゼロだった。英政府は支援を手厚くして事業者に参画を促す。
米英が洋上風力の立て直しに動くのは、カーボンニュートラル(温暖化ガスの実質排出ゼロ)の達成に欠かせない電源だからだ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、22年時点で世界の洋上風力の累計導入量は約6300万キロワット。再生エネ全体に占める比率は2%弱にとどまる。
中国と英国、ドイツが約8割を占め、一部の国でしか導入が進んでいない。米国など今後導入を増やす国が多く、潜在力への期待は大きい。国際エネルギー機関(IEA)は開発が加速した場合、23〜28年の新規導入量は約1億8000万キロワットと、17〜22年比で4倍弱に拡大すると試算する。
だが、23年は特に米英での急ブレーキが目立った。英BPとノルウェーの石油大手エクイノールは10月、ニューヨーク州沖で進めていた3つのプロジェクトに関し、計8億4000万ドルの減損損失の計上を発表。24年に入ると一部事業が中止に追い込まれた。
ニュージャージー州沖では11月、洋上風力最大手でデンマークのオーステッドが2つのプロジェクトからの撤退を公表した。英国でもバッテンフォールが7月、東部沖での世界最大級のプロジェクトの中止を決めた。
バイデン米政権は30年までに洋上風力で、3000万キロワットの導入を目標とするが、最近では半分程度にとどまるとの予測も出ている。累計導入量で世界2位の英国も、同年までに導入量を22年比で3.6倍の5000万キロワットまで引き上げる計画を掲げる。
英国に本部を置く気候問題シンクタンク、E3Gのサイモン・スキリングス氏は「23年のような状況が続けば目標達成は厳しくなる」と指摘する。