日本科学研究機関によるスルメイカ韓国西海(黄海)の漁獲情報除外の不具合はさらに悪化
2024年04月04日
リポート 北海道機船漁業協同組合連合会 原口聖二
[日本科学研究機関によるスルメイカ韓国西海(黄海)の漁獲情報除外の不具合はさらに悪化する]
日本の科学研究機関によるスルメイカ韓国西海(黄海)の漁獲情報除外の不具合が、さらに重たい問題としてとらえられる情報に今回接した。
2020年度漁期枠後半から近海網(근해자망)にもTAC管理が導入されており、当該漁業の漁場規制に関する情報を持ち合わせていなかったため、報告担当者(原口聖二)は、この漁獲量を東海(日本海)に仮振り分けしていたが、今般、WEBにアップされた九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センターの山口忠則様の韓国出張現地リポートhttps://ika-otoko.net/ により、当該漁業の主漁場が西海(黄海)であることが分かった。
スルメイカの韓国漁獲の半島東西沿岸沖合のバランスはより西海(黄海)に大きく寄ったことになる。
日本の科学研究機関は2023年度のスルメイカの資源評価のための情報として、韓国黄海(西海)での漁獲量を除外してしまった。
日本の科学研究機関は韓国のスルメイカの月別漁獲量を4月-10月が秋季発生群、12月-3月を冬季発生群、11月を半々と分類していた。
日本の科学研究機関によると、黄海(西海)での漁獲量を、2022年漁期まで1%未満-20%と推定していた。
しかし、韓国管理機関の情報をもとにすると、東経128度以西に操業海域が限定されている大型トロール、西海トロール、そして西南海区中型トロールの2017年漁期から2022年漁期までの間、黄海(西海)での漁獲量のシェアは34.9%-53.8%で推移していたが、これに近海網(근해자망)を加算すると、4割から実に8割に達する。
韓国西海での漁獲量を除外した理由について、秋季発生系群と冬季発生系群の親魚量算定の時のアンバランスの発生等が考えられるが、日本の科学研究機関からは、明確な説明はなく、“考慮回避”状態とうかがえる状態となっている。
2018年、西海トロール(二艘引き)試験枠が新設され、翌2019年実績枠となった。
2021年、2020年度漁期枠後半から近海網にTAC規制が導入された。
2023年、西海海区中型トロール(二艘引き)に2,075トンの試験枠が新設された。
次は、九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センターの山口忠則様の韓国出張現地リポートhttps://ika-otoko.net/ となる。
九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センターの山口忠則様の韓国出張現地リポート
https://ika-otoko.net/
2024年4月3日 最終更新日時 :2024年4月3日 ika-otoko
2024年4月1日に釜山にある国立水産科学院(National Institute of Fisheries Science)を訪問しました。ここは日本の水産研究所にあたる機関です。海洋学の研究セミナーに参加したところ、たまたま水産資源の担当をしているキム博士とお話しする機会があったので、黄海で漁獲されるスルメイカについて教えてもらいました。キム博士は、国立釜慶大学校(Pukyong National University)在学中に対馬海峡の韓国海域でスルメイカのふ化について調査・研究(Kim et al. 2014)をおこない、長崎大学との共同研究で日本海域でも調査したことがあるとのことでした。2018年から小規模ながら韓国海域における稚イカの分布調査を再開し、まだ若いですが、韓国では今いちばんスルメイカについて詳しい方だと思います。
キム博士によると、黄海と日本海側のスルメイカの公式な漁獲量はほぼ半々の状態になっているそうです。黄海でのイカ漁業の主体は釣りではなく、近海網とよばれる流し刺網漁業とのこと。これは、以前自身がブログで紹介した漁業者情報を裏づけるものでした。「5年くらい前に刺網の目合いを調整したところ、ちょうどイカが刺さる目合いを発見した」という話は正直半信半疑でしたが、本当だったのです。近海網は2020年度後の漁期枠後半からTAC(Total allowable catch)規制の対象になり漁獲可能量の上限が定められています。また、漁場は黄海と対馬海峡の海域に限られ、4月と5月は禁漁(もっとも漁獲はほとんど7~10月ですが)、網を水深15m以下に設定することも禁止。スルメイカの漁獲量総量が減少しているなか、黄海で漁獲されるスルメイカを守るために韓国も相応に努力しているようでした。しかし、黄海は韓国だけでなく、中国にもスルメイカの漁獲可能な海域があります。両国の境は南北帯状の入会い海域になっていますが、近海網漁業者はそこまでは出漁せず、せいぜい東経125度付近までが漁場。しかし、釣りとは違って、昼間に操業する網漁業であるため、人工衛星夜間画像では確認できないとのことでした。
翌日はほぼ10年ぶりにチャガルチ市場に行って、スルメイカを探してみました。しかし、韓国産はごく僅かで、中国産や南米産がほとんどでした。南米産はもちろんスルメイカではありませんが、中国産がスルメイカかどうかも遺伝子鑑定しなければ分かりません。
中国産の「スルメイカ」
自身が昨年9月に韓国の日本海側にある江陵(カンヌン)市でスルメイカのサンプリングをしたことは以前ブログで紹介しましたが、実は鮮魚店で台湾から輸入したという「スルメイカ」が売られていたのです。日本海で漁獲されるスルメイカがあまりにも少ないため、やむなく緊急で輸入したとのこと。たしかに台湾でもたまにスルメイカが獲れることがあります。実際に自身も昨年の3月に基隆市で30個体程度のケンサキイカをランダムにサンプリングしたとき、1個体だけ混じっているのを発見しました。その時自身は自分はなんて幸運なんだ!と喜んだのですが、そもそも私はそれほど善行を積んだ人間ではありません(単なるイカ男です)。ひょっとしたら、これが当たり前の確率だったのか?または、スルメイカはもっと多く混じってもおかしくないほどいたのか(つまり不運だった!)?
いずれにしても、今回見かけた中国産イカも併せて、もはや国内産だけではとうてい需要をまかなえない状況です。市場に出回っている「スルメイカ」はどこまでスルメイカなのか、研究者も無関心ではいられないとおもいます。
Jung Jin Kim et al. (2014) Seasonal Characteristics of Todarodes pacificus Paralarval Distribution in the Northern East China Sea. Kor J Fish Aquat Sci 47(1), 059-071