東久留米の駅からひばりヶ丘の駅まで歩いてみた。西武池袋線は立ち飲みラリーを敢行していないが、悲しい性である。
立ち飲みに行こうと決意すると、どうも歩きたくなってしまう。
都心の立ち飲みラリーはビルの谷間を歩くが、都下のラリーは景色が一変する。本物の谷間を歩くからだ。ここでは駅間に立ち飲みは存在しない。あるのは無人の野菜売り場だけ。しかし、自然を歩くのは気持ちがいいものだ。
ひばりヶ丘の駅に来たのは18年ぶりだった。かつてボクは花小金井に住んでいたことがあるが、一度バスに乗ってひばりヶ丘に行ったことがある。
だが、駅に着いてみると、広いロータリーがある。
ボクの記憶では細い路地があって、昔ながらの中華料理屋があった記憶があるが、記憶違いだろうか。それとも駅の北口が雑多な街並みになるのだろうか。
今回、立ち飲みラリーの戒律に触れてしまった。
実はネットで立ち飲み情報を検索してしまったのである。魔が射したのだ。つい手っ取り早く店に辿り着きたかったその一心で。
すると「たなきん」という酒場がヒットした。
若干、駅から遠いらしい。
駅を背にして南へ歩く。
駅から10分は歩いただろうか。三叉路の中州に一風変わった建物が現れた。携帯の地図では、その建物が「たなきん」と示されている。
一見すると街の公衆トイレに見える。店の用には見えない。
だが、近づいてみると、そこは焼き鳥の立ち飲み屋だった。
薄暗い店内にまだ若いインテリ風の男が店の準備をしている。
客は誰もいない。
ひどく無口な店主だった。
ボクの「生ビールください」というオーダーに何も答えなかった。いや、微かに反応した形跡があった。恐らくそれが店主の精一杯の相槌だったか。
串焼きもオーダーした。
店を仰ぎ見た時には気づかなかったが、焼き台からは景気よく白煙が立ち上っている。
ももとネギ間、ハツ。
やはり、店主からのレスポンスはない。
焼きあがるまでは「ポテトサラダ」で時間をつないだ。
店内をぐるりとうかがうと本棚があり、数冊の本が置いてある。そのうちの1冊を手に取ってみた。
経済学の本だった。
店主の素顔の一端が垣間見えた。
店主はチャリダーらしかった。ロードレースのフレームが飾られ、店主と思しき人物が自転車に乗った写真が飾られている。とても眼前にいる不愛想な店主と同一の人物とは思えなかった。
店は焼き台で焼かれる串焼きの音とクルマが行きかう走行音以外は何もしなかった。ボクはビールを飲み干し、酎ハイを飲んで串焼きに手を伸ばした。
身はそれほど大きくないが、肉の仕入れは悪くない。柔らかくておいしい。
すると、焼き台の向こう側に女の子とお父さんと思しき客が来て、事前に注文していたと思われる大量の串焼きを持ち帰ろうとしていた。店主は優しい声で「ありがとうね」と言った。
優しい声だった。
その声を聞いて少し安心した。
店主は愛想が悪いのではなく、口下手なのだと。
その後酎ハイを2杯お代わりした。うんともすんとも言ってくれなかった。
ボクに対して発したのは1回だけ。
お会計の金額を簡潔に伝えただけだった。
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