今でこそ、カープの25番といえば新井さんだが、ボクが子どもの頃は、スマートな口髭の男だった。
いぶし銀、恐怖の7番バッター。パンチョ。派手さはないが、絶妙の仕事をする選手だった。守備、打撃、走塁、いずれも高いレベルの能力を持ち合わせ、カープの黄金期を支えた。
様々な形容詞で語られた木下富雄さん。ボクが大好きな選手だった。
カープ25年ぶりの優勝にあたり、会いに行こうと決めたのが、木下さんのお店。憧れだった選手とハグをしたいと思った。
懇親会が終わり、ひとり街を出た。
21時を越えていた。電車やタクシーを使えばよかったが、ボクは徒歩を選択。土地勘など、全くないが、すぐに着くだろうとたかをくぐっていた。
けれど、歩けども歩けども、木下さんのお店には着かない。結局、「カープ鳥きのした」に着いたのは、10時を回った頃。
「やれやれ」。
さぁ、祝杯をあげるぞ。
と意気込んでいると、どうにも様子がおかしい。
店の前に、多くの人がいて、長身の人が見送りをしている。店の灯りは消えかかっていた。
店はどうやら閉店のようだ。しかし、まだ22時を回ったばかり。広島の店は早じまいなのか。
その長身の人は、木下さんだった。髭はすっかり白くなったが、憧れの人、木下さん。
木下さんに、話をきいてもらいたかったが、大事なお客さんの見送りに忙しく、「東京から来た」とだけ告げると、「そうなの?」といちいち驚いてくれた。
今時、東京からのカープファンも珍しくないだろうに。
そして、ハグをお願いすると、優しく抱擁してくれた。木下さんの背中は大きかった。
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