「BBB」

BASEBALL馬鹿 BLOG

居酒屋放浪記 0372 - マスターはスローハンド - 「立ち飲み屋 潤平」(千代田区内神田)

2010-09-20 19:00:33 | 居酒屋さすらい ◆立ち飲み屋
記者会の帰り道、KKRホテルより歩いて神田駅へ。
神田の立ち飲み「伊勢」に寄ろうと画策した。
だが、店の前まで行くと、開いていない。
以前もこういうことがあって、どうもわたしは「伊勢」とは相性が悪いらしい。
そこで、しばし神田を物色することにした。

神田は新橋に次ぐ立ち飲みの激戦区である。
「cuvee」「味の笛」「一大」「秋吉ニュー神田」「かどころ」「開運横丁」「バルデピンチョス」「角打 きよし」と幾つかの立ち飲みを回ったが、実際はこの倍以上の店が存在しているのだという。

そのまだ見ぬ立ち飲み屋を見つけに散策してみようかなと思い、わたしは西口商店街の方に向った。
西口商店街をそのまま歩いても面白くない。
商店街のアーチをくぐり、すぐさま南へ折れてみることにした。すると、あまり馴染みでない小さな路地があることに気付き、そこを曲がってみると、まだ見ぬ立ち飲み屋はいとも簡単に見つかった。
「潤平」。
10人も立てば、いっぱいになってしまいそうな小さな店である。

時刻は5時を少し回った頃。
客はまだ誰もいない。
思い切って入ってみることにした。

店の奥の小さな厨房にはまだ若いお兄ちゃんがいた。
厨房といってもシンクと冷蔵庫とレンジしかなく、男一人がようやく立てる広さのものである。どうやら、その若い男がマスターのようである。

わたしはカウンターに立って「生ビール」を注文した。
「生ビールは麒麟端麗ですけど、いいですか?」
男は調子のいい声で聞いた。
「あ、えぇいいですよ」。
いいも悪いもこの期に及んで、選べる状況ではない。

「麒麟端麗」は小さなジョッキで出てきた。300円。
3日前に「立呑み処 くら」で飲んだそれと比べてみる。「くら」は大ジョッキで350円。どう見ても「潤平」の方が貧相に見えてしまう。

マスターの名前は店の名前と同じ潤平さんといった。
釣りとクラプトンが好きな、わたしと同世代のお兄ちゃんである。
店にはルアーやブラックバスを釣り上げた写真が壁に飾られている。
我々の世代はルアーフィッシングとエリッククラプトン好きが多い。恐らく、そのど真ん中世代であろう。そんな話を潤平さんは矢継ぎ早に話す。

その潤平さんのお喋りの間を縫って、「もつ煮込み」(400円)を頼んだ。
だが、この「もつ煮」がわたしをおおいにがっかりさせた。
潤平さんは冷蔵庫からタッパを出すと、それをレンジで温めだした。どうやらそれが「もつ煮」のようである。
居酒屋の中にはレンジで温めなおす店など多くあることだろう。だが、目の前でそれをされてしまうと、急に興醒めしてしまうのである。
そんな、わたしの思いも知らず、潤平さんは何も悪びれることなく、「もつ煮込み」をわたしの前に置いた。

一応は熱々である。
そして、見たところ、自宅かどこかで仕込んできた手作りのようである。
だが、それでいいかといえばそういうものではない。
内容的にはごく普通の「もつ煮」だが、それにしてもレンジでチンが400円とは高い。高くても350円。立ち飲み的プライスなら300円がいいところだ。

潤平さんは悪びれた様子もなく、話を続ける。
「最近までこの隣で小料理屋をやっていたんですよ」。
それがどういうわけか、立ち飲み屋に転身したのだという。
別にあまり興味がなかったので、その理由は聞かなかった。


「麒麟端麗」を飲み終えて、酎ハイを貰うことにした。
メニューには書いてなかったが、サワー類がある点を考慮すれば作ってくれると思ったからだ。
だが、メニューにないものを頼む危険性をわたしは充分考えていなかった。
つまり、「それいくら?」という質問をするタイミングを逸したたからである。
ちなみに、「潤平」はキャッシュオンデリではなく、会計制である。
したがって、酎ハイの値段が分からないまま、わたしはそれを口にした。
わたしの中には「麒麟端麗」の値段が基準になっていたので、それほど高いものではないだろうという読みもあったのだ。

その後潤平さんの話しはますます熱を帯びてきた。
ジュリアナ東京に通った話、アメ車を乗り継いできた話、神田をはじめ、新橋の立ち飲み屋事情などなど、彼は間断なく、一見であるわたしに向って滔々と喋り続けた。
わたしの「もつ煮」の小鉢がすっかりきれいに平らげられていても、彼は意に介さないようだった。

わたしは、何かつまみがほしかった。
店の壁に短冊でもあれば、それを見ながら注文が出来る。或いは、黒板でも用意されていれば、すぐに目を向けられるが、カウンターに置いてある、小さなメニュー表ではそう容易くもうかない。
わたしは、少し苛立ちながら、彼の話が終わるのを待った。
だが、話は一向に終わる気配がなかった。
そのうち、わたしは、この店にわざわざお金を落としていく価値はないだろう、ということを考え始めた。

お客の気持ちを読めずして、何がサービス業だと。
彼は、「お店にプラスアルファがないとダメだよね」と言った。
「潤平」にとってのプラスアルファが何を指しているのか、よく分からなかったが、話の流れから推測すると釣りとクラプトン好きだということで、共通の客がついてくれた、ということらしい。

そういうプラスアルファも大切であることは、わたし自身否定しない。
だが、それよりももっと重要なことが居酒屋にはあるはずだ。
居心地がいいか。普段家では飲めない酒や食べ物があるか、そしてそれの対価の問題である。
残念ながら「潤平」にはその要素が見当たらなかった。

キリのいいところで、勘定してもらった。
計算すると「酎ハイ」は300円だった。
またもや3日前の「くら」を思い出した。
同じジョッキのサイズで供される酎ハイは「潤平」が倍の値段である。
それにしても、「麒麟端麗」と同じ料金ということもなかろう。

自分の話を喋り続け、ほとんど手が動かない潤平さんは、ギターの神様と同様、まさにスローハンドであった。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 居酒屋放浪記 0371 - こだわ... | トップ | 続 Kuma-Changレシピ 「鶏と... »

コメントを投稿