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「まこちゃん」を出てOさんと駅の方へ。てっきりこれで会はお開きかと思ったが、Oさんは「コーヒー飲んで帰ろうよ」と、駅前のカフェに立ち寄った。飲み屋街の入口にある、あの喫茶店。新橋駅のホームから店内が丸見えの、喫煙サラリーマンの溜まり場。
Oさんはブレンドで、俺は「カフェ・オ・レ」。
2階の席に着いてOさんはおもむろに煙草をくわえた。今や酒場も禁煙のところが多く、「まこちゃん」も禁煙だった。Oさんは煙草を我慢していたのだろう。今や煙草が吸える喫茶店も珍しい。その点、このカフェは貴重な存在かもしれない。駅前の好立地、営業は朝の6時から夜の11時まで。まさにおはようからおやすみまで暮らしを見つめる、なんとかみたいな。その営業時間のレンジはサラリーマンだけでなく、この飲み屋街の住人をはじめ、危ない橋を渡っている人も、総じてこのお店を使っているはずだ。
時刻は20時20分。この時間も怪しげな人が幾人もいて、一人寂しく煙草を吸いなから、静かな時間を過ごしている。中にはサラリーマンもいるが雰囲気的には怪しい。皆それぞれの理由と事情があり、ここにいるのだろう。
喫茶店にはコミュニティのお店と孤独者ためのお店の2種類がある。前者はコーヒーと食事を楽しむ店だが、後者は様々な事情を抱えた人が席と引き換えにコーヒーを買うのである。「つばきCAFE」は後者だった。都内随一の飲み屋街を抱えた喫茶店は、いろんな人と思いが交錯する。まるで縁と念を凝縮した人生の縮図のようだった。
Oさんはただ単に煙草を吸うためだけに寄ったのではなかった。仕事は順調か、どんな仕事をしているか。ぽつりと自分に聞いてきた。
「ぼちぼちですよ」とはぐらかすと、「ちょっと独立するのは早かったんじゃないか」とOさんは言った。
独立する時に誓ったのは、「仕事をください」とは絶対に言わないこと。いただいた仕事は断らないこと。そして仕事の依頼先の情報は秘匿すること、である。だから、こういうシリアスな場面ではあまり饒舌になる必要はない。だから、ほとんど黙っていた。やがてOさんが3本目の煙草を吸い終えて、我々は席を立った。
2021年が暮れようとしていた。Oさんとは2021年で、この日初めて飲んだだが、喫茶店にご一緒させてもらったのはもう5回目くらいだろうか。もしかすると一番シリアスな話しをしてきたかもしれない。
一年間、ありがとうございました。
そう言って新橋駅の改札前でOさんと別れた。
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