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BASEBALL馬鹿 BLOG

オレたちの「深夜特急」~ヴェトナム編 ハノイ~ 

2007-03-31 10:03:39 | オレたちの「深夜特急」
 ラオカイ駅行きのジープには総勢12人の旅行者が詰め込まれた。
 わたしともうひとりの日本人組。そして、韓飛野さん。このほか、フランス人、豪州人、スコットランド人、ニュージーランド人、そしてイスラエル人など、多くの国のバックパッカーが、それほど広くもない軍用ジープに身を寄せた。
 そして、ラオカイからハノイ行きの列車に我々は無事に乗ることができた。
 テトによる混雑から、切符が買えないのでは、という心配は全くの杞憂だった。

 9時40分に出発した列車がハノイに着いたのは夜の8時半だった。
 ハノイ駅に着くと、西洋人たちは三々五々タクシーをシェアしてどこかへ消えていった。残った東洋人はそれぞれ別々に行動することになり、その場で別れた。
 わたしは、ガイドブックのコピーを頼りにハノイの旧市街を目指して歩くことにした。
 宿は食品市場に隣接したAnh sin Hotelに腰を落ち着けた。ドミトリーが3ドルの3階建ての宿だった。ドミトリーで3ドル。今度はきっかり3万3000ドン支払った。

 バイクはけたたましく走り、クルマはクラクションを頻繁に鳴らして通り過ぎるが、ヴェトナムの首都ハノイは穏やかなしっとりとした古都だった。
 人々はおっとりとして、あくせくするところがない、旧市街の中心にはホアンキエム湖という湖があり、それがまた町を落ち着いた雰囲気にしていた。

 宿の前の路地は市場が近いこともあり、賑わっていた。50mくらいの小路だったが、道の両端にフォーの屋台が出た。どちらも、甲乙付けがたいほどおいしいお店のため、朝は東側の店。夜は西側の店と決めて毎朝、毎晩フォーを食べに出かけた。
 1杯が僅か3000ドン(約30円)というこのヴェトナム独特の米の麺は、とにかくさっぱりとした味で、添えられている香草がまた食欲をそそる。スープの中にたっぷりと味の素をまぶしてくれるのには閉口したが、毎日食べても全然飽きがこなかった。

 朝食を食べ終えると、わたしはしばしホアンキエム湖を散策した。
 ヴェトナム人も朝は早いらしく、7時くらいからあちらこちらで老若男女がバトミントンに興じている。湖のほとりを歩いていると、湖上にうかぶ靄が浮かんでいるのが見える。その白く透き通った柱が朝日に照らされ、キラキラと光り輝くのがなんとも清々しかった。
 散歩を一通り終えるとわたしはカフェに立ち寄ることにしていた。カフェといってもそんなに洒落たものではない。3000ドンのヴェトナムコーヒーを飲んで、タバコを吸うのが至福の時間だった。
 このヴェトナムコーヒーがまた傑作だった。アイスコーヒーに練乳を入れるのだ。練乳はコーヒーより重いから、当然グラスの底の方に沈む。ストローで掻き回すと、甘いカフェオレだ。
 ヴェトナムの甘い、コーヒーをわたしは好んで飲んだ。歩き疲れたときは、決まってコーヒー屋さんに入って休息をとった。

 そう、わたしは歩き疲れるほど、ハノイの町を縦横に歩き通したのである。
 朝のコーヒーを飲み終えると、ふらりとどこかへ出かけた。昨日は北に向かったから今日は東に。明日は西へ行ってみようという具合に。
 すると、必ず何かに出くわした。戦争博物館、革命の指導者の亡骸を安置したホー・チ・ミン廟。教会やムスリムのモスク。
 交通手段にはシクロという輪タクもあったが、必ず自分の足でハノイの町を歩いた。シクロを使わなかったのはお金を倹約するという意味もあったが、何よりも自分の足で歩くことで発見することも多かった。
 片道10kmはあると思われる日本大使館にも徒歩で行った。大使館にはとりたてて用事はなかったが、もしかするとわたし宛の手紙が届いている可能性があったからだ。
陽朔で別れた師とは、お互いに立ち寄りそうな都市の日本大使館宛に手紙を出す、という約束を交わしていた。
 
 1時間半もかけて大使館に辿り付き、守衛の人間にかくかくしかじか訳を話して、中に通された。この時分の日本大使館は少し神経質になっていた。と、いうのもその前年に発生したペルー大使公邸の人質事件は発生から3ヶ月が経過していたが、未だ解決されていなかったからだ。毎朝、短波ラジオの日本語放送にダイヤルを合わせると、決まってニュースの冒頭には、その事件の続報が読み上げられた。
 ともあれ、館内に入り、わたし宛の手紙を箱の中から自ら物色すると、わたしの名前が書かれた封筒を2通発見した。1通はハノイを通過していった師が置いていったもの。もう1通は日本から出された女友達からのものであった。
 2通の封筒を受け取れたことに、1時間半も歩いてきた甲斐があったと嬉しくなった。
 わたしは、その場で封を開けず、元来た道を再び徒歩にて戻った。行き着けのカフェでおいしいコーヒーを飲みながら、ゆっくり読もうと考えたのである。

 だが、わたしは日本語が恋しかったわけではない。ハノイのゲストハウスには若い日本人の旅行者が日に日に増えていった。どうやら、季節は卒業旅行の時期になっているようだった。
 ある夜、隣のベッドになった日本人の学生が翌日、わたしのあとをついて回った。悪いやつではなかったが、ひとりで行動もしないくせに、やけに大口を叩く。面倒臭くなって、相手にしなかったら、いつの間にかいなくなっていた。
 いや、ひとりだけ濃厚に関わった日本人がいた。カフェで知り合った斎藤という起業家だ。彼はまだ若く、わたしと同じくらいの年格好で顎に髭を蓄えていた。
 毎朝カフェに行くと仕事前の彼がガラムのメンソールをくわえながらコーヒーを飲んでいた。ヴェトナムを舞台にどんなビジネスを展開していたのかは分からなかったが、ある日「明日、会社の女の子を誘ってカラオケに行くけど、君も行かないか?」と誘われた。翌日、出かけてみるとまだ10代と思しきハノイっ子が2人現われ、流行歌を夜通し歌いまくった。
 わたしはイーグルスの「Hotel California」を歌った。

 ともあれ、2通の手紙はわたしをおおいに勇気づけてくれた。急いで、わたしも師に返事を書いた。しかし、はてどこに出せばいいのか、わたしは考え込んでしまった。    師の手紙が書かれたのは1月の中旬。それから既に約3週間も時間が経過している。師は今頃、どこにいるのだろうか。
 彼は、ヴェトナムを縦断して、マレー半島に渡ると言っていたと記憶している。
 わたしは試しにマレーシアのクアラルンプールの大使館に宛てて手紙を出してみた。

 ハノイで最も感激したのは、水上人形劇だった。全13話のヴェトナムの民話を文字通り水上で人形が演じるのだ。言葉は分からなくとも、朴訥と、時にはコミカルな演技が郷愁を誘う。たとえ、人々は貧しくとも、為政者に搾取をされようとも、災いが人々を困窮に陥れようとも、人形劇のそれぞれの主人公は、気丈に生き抜いていく。
 人形の演技はリアルでわたしはその世界にぐいぐい引き込まれていった。

 翌日、申請していたカンボジアのヴィザが発給された。
 わたしは、ヴェトナムを南下してカンボジアに入国しようと考えていたのである。
 気が付けば、2月も13日になっている。
 ヴェトナムヴィザの期限は2月いっぱい。わたしはあと2週間でヴェトナムを走りきらなければならない。

 ゲストハウスをチェックアウトして、カンボジア大使館に寄り、その足でフエ行きのバスに乗ろうと考えた。
 バスターミナルに行くと、韓国人女性作家の韓飛野さんとばったり会った。
 彼女もこれからフエに向かうところだという。

■写真はハノイの食堂でくつろぐ熊猫刑事

※当コーナーは、親愛なる友人、ふらいんぐふりーまん師と同時進行形式で書き綴ってい
ます。並行して語られる物語として鬼飛(おにとび)ブログと合わせて読むと2度おいしいです。

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4 コメント

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ハノイの日本大使館までは (ふらいんぐふりーまん)
2007-04-01 15:41:17
片道10kmもはないんだよなあ・・・。

実は俺もそれくらいあると思ってた。けど、宿に帰って地図を調べたら確か5kmくらいだった記憶があるよ。

さて、師のハノイは中々アクティブだった様だね。俺のハノイは寂しかったけど・・・。(笑)

フエやホイアンでどんな風に師が過ごしたか、楽しみだな。
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5km? (熊猫刑事)
2007-04-01 17:32:40
ってことはないだろう?だって、1時間半も歩いたよ。せめて、7~8kmくらいはあるんじゃないか?
しかし、俺の服装って全然中国編と変わらないってことを師は突っ込んでくれると思ったんだが。

フエやホイアンは1枚も写真撮ってないんだ。どうしよっかなぁ。
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服装 (ふらいんぐふりーまん)
2007-04-01 23:48:31
バックパッカーの服装が全く変わっていかないのは、俺の中では特に不思議ではなかったんで、突っ込みをすることなど思いもよらなかったよ。(苦笑)

俺よりも、他の方々の方が、「いつも同じ服着てるじゃねーかよ!」という魂の叫びを発していたんじゃないかと思うんだけどどうだろうか?

なお、距離の件はコメントにするには長すぎたので、ネタにして俺のブログで一発書いてみたよ。
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同じ服 (熊猫刑事)
2007-04-02 14:11:42
っていうのは、基本形だよね。
その点、師の写真は自身が出てこないから分からないね。

これから、段々暑いところに行くから、オレの服装も変わってくるのでお楽しみに。
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