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大学の口頭試問が終わった。
一度、ゼミに戻り、指導教員と話しをして、ボクは帰宅の途についた。
なんとか、卒業できそうだ。
もうトコキャンに来ることもないかもしれない。いや、小手指にすらもう来ないかもしれない。
駅に向かうバスの中でボクはぼんやりと考えた。
酒でも飲んで帰るか。思い出の小手指ショッピングアーケードで。
ボクは気分がよかった。
たいした研究ではなかったが、淀みなく時間通りに説明を終えることができた。
小手指ショッピングアーケードに入り、ボクはまだ入ったことのない店を選んだ。
座りの居酒屋。「よしの」。
暖簾にかわいいふくろうの刺繍が入っている。
落ち着いた雰囲気の店だった。お父さんとお母さんが経営する小さな店。
カウンターに座って、ボクは生ビールを頼んだ。
丁寧に注がれたジョッキをボクは喉を鳴らしながら飲んだ。
やっと終わった。
座ってビールを飲み始めたとき、一気にボクの感情は解放された。
厳しい質問も浴びせられることなく、ボクの口頭試問は無事に終わった。
そういう思いに浸りながら酒を飲むのは嫌いではない。
少しの満足感と少しのカタルシスを抱えながら。
2杯目の生ビールを飲み干して、ボクはお酒を熱燗でいただいた。
つまみは「厚揚げ」。
素朴な料理が一番酒に合うという単純なことに気が付いた。
いいあんばいだ。
酒も肴も。
うまい酒っていうのは、店や酒や酒肴だけで決まるものではない。
心の内面が充実していなければおいしく感じないだろう。
口頭試問の余韻をつまみにボクはひとりうまい酒を飲む。
長い5年間だった。
ひとりで酒を飲んでいるが、それが最も自分らしいなと今は思う。
今、ボクが小手指アーケードの小さな店で酒を飲んでいるって、多分誰も知らないはず。
それがかえって面白かった。
いや、ボクのことを気にしている人など多分、この世界中にいやしないわけだから、それでおあいこっていうことで。
とにかく、ボクは今うまい酒を飲んでいるんだ。
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