
突然、Mキンから連絡が来た。切迫した様子のラインで、用件が書いていない。とにかく、会いたいという内容だった。
Mキンは、21歳から25歳にかけて働いたショボい会社の同僚である。この会社では月の残業時間が平均120時間。それでも月給は手取りで18万円だった。一人暮らしをしていて、クルマも持っていたボクは、生活はかなり苦しかった。
Mキンは、その中でも仲のよい同僚であり、良き友人であった。
Mキンとは、ボクらが過ごした思い出の地、浦安で落ち合うことにした。
久しぶりの浦安だった。
今夜は、飲むのが目的ではなく、Mキンの話を聞くのが目的だ。店はもうどうでもよく、目に止まったのが、駅前の「金の蔵」だった。
この店の存在は知っていた。確か280円とか290円の安価な居酒屋。そういうニーズが世間で高まっているのも分かる。けれど店に入って、愕然とする。客が少ないのだ。
ボクらは、テーブルに通され、暗がりの中で、タブレットをいじり、オーダーをした。どこも人材不足だった。
ボクとMキンは生ビールを飲んだ。こうして、一緒に酒を飲んだのは、もしかすると20年ぶりかもしれない。しばらくするとMキンは泣きはじめた。彼の話しはシリアスだった。23年くらい前、ボクは南行徳の「天狗」で、Mキンの前で泣いた。そのとき、Mキンは、「泣くなよ」とボクに言った。この日同じことを言おうとして、ボクはやめた。だって、あの時、ボクは思う存分泣きたかったから。
生ビールをお代わりする注文のタッチパネルに彼の涙が落ちた。ボクは、彼にかけられる言葉が見つからなかった。
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