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「レーサーめし」という名前の料理があるわけでもないし、そのようなカテゴリーもあるわけではない。
ただ、エスニックフードがあるように、職種や集団が食べる「めし」があってもいいし、現にそれらは存在するだろう。
例えば、お相撲さんは「ちゃんこ」を食べる。一般社会にはない独特なものだ。また、多くの日本の小学生は給食を食べる。これも集団として特殊だ。
このような特定の集団や組織がどのようなものを食べるかということに興味がある。そこにどのような意味があって、どのような合理性があるのかを。
「レーサーめし」というものが存在するのだろうか。
富士スピードウェイのレストラン「ORIZURU」に入った瞬間、ボクはそう思った。
「レーサー」は体力勝負である。運転は意外に疲労が激しく、ましてや競技としての運転ともなると、極限的な体力と精神力が求められる。そのうえ、比較的長時間、競技を続行するので、かなり過酷なスポーツといえるだろう。
その彼らが何を食べてレースに臨むのだろうか。
「ORIZURU」の前のパドックでは、多くの人が、車両の整備に余念がなかった。きっと、すでにもう小腹を満たし、これから始まるサーキットの走行に思いを馳せていたのだった。
ボクはボクのほうで、約半日のドライビングをこなしていた。
「モビリタ」でドライバーコミュニケーションを受講し、VSCを解除させたマークXのケツを砂利道想定のカーブで流して楽しんだ。
3時間あまりの走行だったか、ボクはもうすっかり疲れ果ててしまった。
そうしてやってきた「ORIZURU」。
体力勝負のドライバーに何を食べさせてくれるのか。
ボクの予想では、どかっと肉厚な300g級のステーキ定食が出てくるか、それとも肉などを食べてしまい鈍重な躰とキレない感覚にならないためにも、ウイダーゼリーのような宇宙食が出てくるか、どっちかだろうと読んでいた。
だが、その予想は脆くも崩れ去った。
「キーマカレー」(サラダ―バー付)=(1,000円)
「ロコモコプレート」(850円)
「焼き鳥丼」(900円)
そして極め付けが「富士宮焼きそばカレー」(950円)
etc
なんと、なんと俗っぽいのか。
そして、この自分はといえば、仕事の都合で自ら選べない立場にあって、出てきたものは「松花堂弁当」。
ちょっと待ってくれ、せめて「富士宮焼きそばカレー」くらい食べさせてくれないのか。
オレは無性に腹が減っているんだ。
周囲を見渡すとメーカーのテストドライバー風のレーシングスーツのままの男や午前中の試走を終えたセミプロレーサーらが、思い思いにランチをとっている。
彼らの一番人気は丼ものだった。
そうか、レーサーめしはこんなに俗っぽいものだったか。
ボクはドリンクバーでコカ・コーラゼロを注いで、ご飯をそれで流し込んだ。
眼前のヘアピンカーブを攻めるクルマの一群を眺めながら。
ロケーションは最高だった。少しずつ、雲行きが怪しくなり、明日からまた爆弾低気圧のせいで大雪が降るという予想だった。
期待していたレーサーめしはなかったけれど、エンジンの轟音とタイヤが鳴る音のハーモニーの中で、松花堂弁当をたいらげたのだった。
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