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店には入って、「こんにちは」と挨拶した。店の厨房で作業する熟年の男女二人は、確かにこっちを見たが、またすぐに視線を元に戻し、何事もなかったかのように作業を始めた。
挨拶がないのである。いや、無視と言ってもいい。
ボクは呆れてしまった。聞こえないのなら、仕方ないが、聞こえているにも関わらず、お客の挨拶を無視するなんて。
ボクは居酒屋に入るときは必ず「こんにちは」と言って店に入る。
ほとんどの店が必ず挨拶を返してくれるが、ボクにとって、この「きらく」という店が挨拶を返さない二店目の店となった。ちなみに、一店目は赤羽の「いこい」本店である。
「なんだ、この店」。
ボクは正直そう思った。こういう店にお金を落とす必要はないとも思った。
挨拶ができない人をボクは軽蔑する。
子どもが通っていた保育園の園児のママの3割くらいは挨拶をしない人たちだった。そうした親に限って、子どもに厳しい。挨拶は心の窓だと思う。
「生ビール、頂戴」。
ボクのオーダーに対して、返事はない。通じているのか、そうでないのか分からない。
しばらくすると、「生ビール」が出てきた。生ビール、350円。値段は悪くない。
「あと、『もつ煮込み』ね」。
やはり、返事がない。空虚だ。あまりにも空虚である。
「もつ煮込み」300円。これも良心的な値段設定である。
この店主、とりあえずは強欲ではないらしい。
改めてメニューをみると、「もつ焼き」各種が100円の値段設定でずらりと並ぶ。
もつ焼きのお店であるらしい。
「たん」と「かしら」「レバー」を(各1串 100円)タレで頼む。
相変わらず、うんともすんとも言わない対応である。
まず「もつ煮込み」。
シロを基本線に、白味噌ベース。ねぎたっぷりのせは、正直おいしい。塩味がなんともたまらない。
うまいじゃん。
次にもつ焼きをいただく。素材は確かなようだ。柔らかくて悪くない。
数日前に、成田の「寅屋」で極上の串焼きを食べたものだから、たいした感動はないが、一串100円に恥じない内容だと思う。
でも、相変わらず客に対して何も発しない態度といい、キャッシュオンデリの際、乱暴にお金を、まさにぶんどっていくような対応といい、胸糞悪い。
最後の1杯にしようとチョイスしたのが、「酎ハイ」(280円)。ほほぅ。これも値段は悪くない。
帰り際に5,6人の大勢客が一斉に入ってきた。それと入れ替わりにボクは店を出た。
後日、この店の「食べログ」を見ていささか嫌な気持ちになった。
どうやら、客に店のルールを押しつける店らしい。すでに飲んできた人は入店お断り。これは、赤羽を中心にそういう店が少なからずあるので、別段不思議ではないが、身をとって食べると注意されるとか。1料理につき、1杯酒を頼まないと、これまた注意されるというのは、少し窮屈だ。「せっかく一生懸命串に刺したのだから」という小言や「うちは飲み屋なんだから、酒を頼んでもらわないと」言われるのは、かなり不愉快だ。
挨拶のひとつもしないで、客に自分らの都合を求めるのは、いかがなものか。
「飲ませてやってる」。そんな横暴な気持ちが透けてみえる。
この態度、この値段設定、そして酔客お断りの3要素をみて、ボクは赤羽の「いこい」を連想した。もしかすると、この店主、「いこい」で修業した経験があるのではないか。
店を出て、写真を撮ろうとして思わず苦笑した。
店の看板に「きらくにおいでよ きらくに″ノモ”」と書いてある。
どうも気楽には飲めない雰囲気がおおいにあるような気がする。
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