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仕事帰りはなるべく、現地の店で酒を飲むことにしている。
だが、仕事の終了が早すぎて、開いている店が見つけられない場合や仕事先の人から気をきかせていただき、クルマで大きなターミナル駅に送っていただく場合があったりする。
今回の大阪出張でもそうだった。
大阪は町を歩くと、簡単に立ち飲み屋を見つけることができる。
クルマで送ってもらっている道中、流れる車窓の風景に何軒も立ち飲み屋を発見した。
ボクはどうにも我慢できなくなり、「この辺りでいいですよ」とクルマから降ろしてもらうことにした。
この辺りというのが、大阪のどの辺にあたるのか、皆目見当もつかなかったが、それでもかまわなかった。
クルマを降りると近くに地下鉄の乗り場があった。
南森町といいう駅名が書かれている。
全く知らない場所だったが、庶民的な地域だった。
ここならすぐ、立ち飲み屋が見つけられそうだ。
繁華な通りから1本の筋に入って、彷徨ってみたが、店は見つからない。
10分歩き、20分歩いたが、立ち飲み屋が見つからないのだ。
仕方がない。
ケータイで検索するか。
連日のケータイ検索。実に不本意であるが、仕方がない。
すると「ミナミカワ」という立ち飲みがヒットした。
自分の今いる地点からそう遠くない。
ケータイ地図を頼りに行ってみたが、店が見つからない。確かに、その立ち飲み屋のポイントにいるのだが。
すると、何人かのサラリーマンらが、出入りする入口を見つけた。そこに看板などはない。
その扉の向こうを見遣ると、大勢の男どもが気勢をあげていた。
「ミナミカワ」は角打ち酒場だった。
しかし、これは手ごわそうだ。
昨日行った、北小岩の「銚子屋」よりも入りにくさは強力だ。
中を覗くと、店はすでに満員のようであある。
関西弁が飛びかい、サラリーマンらが大声で笑う。角打ちの様相がまるで東京とは違う。
東京の人間は関西人が苦手である。
あの関西弁にまずはたじろぐ。勢いに気圧されそうな気がする。
あのノリに同調しないと「なんやねん」とけなされそうな気がする。
しかし、ここまで来て尻尾をまいて逃げ出すことはできない。ボクはこれまで、どんな状況でも毅然と店に入ってきた。
大阪人のペースにはまらなければいい。落ち着いてオーダーすればいいのだ。
ボクは深呼吸をして、店の扉を開けた。
案の定、「こちらへどうぞ」という店員のエスコートはない。
自力で立ち位置を探すしかない。しかも瞬時に。
パッとみると、コの字カウンターの右手側に若干の隙間がある。ボクはそこに向けて歩きだし、手刀でかき分けながら、なんとか立ち位置を確保することができた。
だが、問題はこれからである。
何を飲もうか。角打ちの場合は瞬時に判断しなければならない。案の定、店のおばちゃんが眼前に現れ、飲みもののオーダーを促した。怖そうなおばちゃんだった。まるでバットマンの悪役ジョーカーのような、そんなおばちゃんに睨まれ、ボクはまたしてもたじろいだ。
「ちょっと待ってください」。
すると無言のまま、ぷいとボクの前から遠ざかった。
さて、何を飲もうか。
店内の周囲をうかがうと、店のメニューがものすごく多いことが分かった。短冊メニューにびっしりと日本酒の銘柄が書きこまれている。いや、焼酎も洋酒もふんだんにラインナップされている。さすが、角打ち。
だが、これはまいった。ますます、何を飲もうか、悩んでしまう。
洋酒は得意ではないし、ここは酒だろうと思って、銘柄を見ても、ほとんどがどんな酒なのか分からない。
いよいよ困って、ボクは知っている銘柄を半ばやけくそに頼んだ。
「『立山』を常温で」。
だが、ボクの声は店内の喧騒にかき消されてジョーカーの耳に届かない。すぐさま声のボリュームを上げて、同じフレーズを口にしたのだが、またしてもかき消されてしまった。
そんなときほどバツの悪いことはない。
少し待ってみることにしたが、なかなかジョーカーの動きが止まることはない。
完全に浪速の角打ちのリズムにボクは取り残されていることに気づく。
本当は、おばちゃんにオーダーが聞こえていない時点で躊躇していはいけないのだ。大阪人ならばなりふり構わず、オーダーするはずである。ここが東京人のへボイ部分だ。どうしてもかっこつけてしまうから、そういう結果を招くのである。注文を受ける側も厚顔の客に対応する姿勢で構えている。だから、おばちゃんは一様に愛想がない。
しかし、ここはボクもなりふり構わず、オーダーした。
「『立山』を常温で」。
ジョーカーが理解したのか、分からない。うんとも笑顔もない。
さて、次は酒肴だ。
この酒肴のラインナップも素晴らしい。角打ちとは思えない肴がずらりと並ぶ。
各種刺身。
「トンテキ」250円。
「若鳥からあげ」300円。
「牛豆腐玉子煮」300円は煮込みに目玉焼きがのっている。
居酒屋顔負けの酒肴がずらり。だんだんワクワクしてきた。
日本酒にはまず刺身だろう。
「たこぶつ」(300円)でスタート。
これが至福の組み合わせだった。
うまし。
だが、この浪速の角打ちはすさまじかった。
サラリーマンとブルーカラーは半々。
大声で関西弁が飛びかう。
ボクはその強力な気に押され気味。
ボクは「立山」をおかわりし、「シューマイ」(250円)を頼んだ。
酒場自体は面白くてワクワクするのだが、どうも落ち着けない。
アウェイだからか。
このアウェイ感は入ったものしか分からない。
次回もし来る機会があったら、もう少し落ち着いてオーダーできるだろう。
次は絶対「牛豆腐玉子煮」を頼みたい。
その最大の原因は「ノリが悪い。」からのような気が俺はする。
でも、関西でも関東でもノリの良い人も悪い人も、愛想の良い人も悪い人もいて、色々だ。
気にすることなく、いつも通りの師でいいんじゃないの?
俺が関東風を装っても、結局無理なように・・・。(笑)
大阪、京都の立ち飲み屋は、ちょっと構えちゃうよ。
でも、個々のグループが凄くうるさいから、その全員が仲間みたいに見えるところがあるかも・・・。
それは、関西のエエトコでもあり、悪いところでもあるね。
ちなみに、俺もそういう場所はすこぶる苦手だよ。立ち入ろうと全くしない。だから、一人呑みとか出来ないんだよね。
確かに、全員が仲間じゃないんだ。
しかし、どうしても集団VS一人という構図になってプレッシャーを感じるんだ。
あとね。
慣習や作法が違うから、それらが気になって、余裕もなくなっているというのもあるかも。