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草野球の帰り。
さて、飲みに行こうかと思案して、ボクはふと江戸川駅周辺を散策したことがなかったことに気づいた。
ちょっと歩いてみようか。
バットケースとスポーツバッグを抱えて、ボクはあてどなく歩き始めた。
しかし、行けども行けども住宅街だった。時折、町中華がある程度で酒場など皆無だった。
仕方ない。
ネットで検索するか。
すると、ボクの今いる場所に非常に近いところで、酒場がヒットした。
「銚子屋」。
だが、この住宅街に本当に店などあるのだろうか。
にわかに信じられない。
ひたすら歩いて行くと、その店は見つかった。
住宅街にたたずむその店は看板の文字が消え、半ば朽ちているようにも見える。
異様な光景だった。
何故、こんなところに居酒屋があるのだろうか。
昼間からオープンしている居酒屋はたいていどこもにぎわっている。
ボクは自然に身構えた。
きっとこの「銚子屋」も混雑していることだろう。ボクはその火中に今飛び込もうとしている。それはある種、タフなメンタルが必要だ。
ボクは様子をみるように店に近づいた。
木戸のガラスはすりガラスになっていて、中をうかがうことはできない。
ボクは今ままでこうした入りにくい居酒屋の修羅場を何度も潜り抜けてきたはずだった。だが、やはり初めての店に入るときは緊張してしまう。
木戸に近づき、店内を聴覚でうかがう。
きっと、騒がしいに違いない。日曜日の昼間、酔っ払いたちが騒いでいるはずだ。
だが、耳を近付けてみたが、ほとんど店内から音は聞こえない。
皆、しんみりと飲んでいるのだろうか。
ボクは恐る恐る木戸を開けてみた。少しずつ、開けていく視界に人の気配はなかった。
客は僅かにひとりだった。
ボクは思わず拍子抜けして、躰の力が一気に抜けた。
店に入って、カウンターに座った。
だが、店員は現れない。しばらく待ってみよう。ボクは店内に貼られた、もう何十年も経過したであろう古ぼけた短冊を眺めた。
「チューハイ」270円。
「オムレツ」500円。
この2品だけで、この店を十分語ることができるだろう。
よし、この2つで攻めるかと決意したものの、店員は一向に現れない。
どこへ行ってしまったのだろうか。もしかすると、ボクの横で「チューハイ」を飲んでいるおっさんが店員なのだろうか。
まさか。
そう思った瞬間、店の奥から、ひとりの男性が現れた。
ぶっきらに「お待たせね」という。
助かった。
どうやら、厨房が店の奥にあるらしい。店の奥というよりも自宅の台所が厨房なのかもしれない。
とにかく、ボクは注文にこぎつけられそうだ。
だが、好事魔多し。
「チューハイ」を頼むつもりが、間違えて「ホッピー」(380円)と言ってしまったのだ。
ボクが言いなおそうとしたときはもはや後の祭り。店主は店の奥へと入って行ってしまった。
ジョッキに注がれた焼酎に浮かぶスライスレモン。
そして、お通しに「卯の花」。
これだけでここに来た甲斐があるというもの。
そこで、ボクは「オムレツ」をオーダーする。
多分、このメニューは間違いないんだろうなと思う。
まさか、こんな空いている状態で飲めるとは思ってもみなかった。
外からは柔らかい陽射しが降り注いでいる。
テレビは競馬中継。背後の小上がりには古ぼけた巨大なラジオが置かれている。
「オムレツ」は期待を裏切らない酒肴だった。
居酒屋の「オムレツ」。
武骨でパワーで押す「オムレツ」。
これにホッピーがよく合う。
隣のおっさんと少しだけはなしをした。
その話によると、店は朝の7時から開いているらしい。
この住宅街において一体どんな客が朝の7時に飲みにくるというのだろうか。
朝の7時と言えば、アメ横の「たきおか」よりも早い。
凄まじき「銚子屋」。
一度、その7時に是非うかがってみたいとそのとき、ボクは強く思った。
自分でも、何しているんだろうって気持ちはあるなぁ。
次回の「居酒屋さすらい」はもっと緊張します。
来週火曜以降で飲みましょう。
次はどこかねえ・・・・。
清澄白河の、あの食堂とか。
メールします。
焼酎ハイボールが辛くて。
「注文いいですか?」って聞くと「いいですよ」って返してくるんですよね。
もしかすると、炭酸が強いのかもしれませんね。
「注文いいですか」のやりとりは、なんか文学的ていいですね。
瓶のせいかウィスキーっぽい風味もして。
ちょうどこの記事を読んでいる時に、オンデマンドで酒場放浪記の銚子屋編を観てました。
それは気付きませんでした。
なかなか、興味深い話しです。
この店は、類さんも来たのですか。
やっぱりなって、感じです。