Uち〜さんと飲みに行くことになった。本当は行きたくなかったけど。何回か誘いを断ったが、「なんとかお願いします」という言葉に負けてしまい、行くことにした。けれど、その日は朝から憂鬱だった。心踊るものがなくて。でもそんなメンタリティの時は大抵のことがうまくいかない。
Uち〜さんとは大学のサークルで、カープファンということで仲良くなった。最初は意気投合したが、徐々に会うのが苦痛になった。話しが面白くないのである。異様に話しが長く、結局何を言っているのかが分からない。はじめはなんとか理解しようと務めたが、ひどく疲れることが分かって、途中から適当に相槌を打つことにした。そして、もう一つが居酒屋の好みが合わないのである。いつも会う時は店を予約をしてくれてマメな人だなと思ったが、要は自分が行きたい店を選んでいることが分かった。いつか、野球観戦の帰りにお店を探す時、「町中華でまったり飲みましょ」と提案したら、「そんなところより、いいとこあります」と、言い、その後延々と歩き回ったことがある。彼が探しあてた店はひどくつまらない酒場だった。
この日も、「予約してます」と言って店に向かったが、あまり期待はしていなかった。着いたお店が、「四十八漁場」。予想通り、企業系の酒場だった。土曜日ということもあり、混雑していたが、お店に魅力は感じなかった。
まずは瓶ビールで乾杯。
すると、一風変わったお通しが出てきた。わかめのスープなのだが、そのわかめは朝採りした若芽のわかめらしい(一応駄洒落)。
なかなか採れない希少なもののようで、店員はやたらとそれを強調した。そんな高級なものがお通しに出てくるなんて。お通し代だけでも、バカ高いんじゃないかと心配になった。
料理の手配も彼は積極的である。メニューを見て、開口一番、「これにしよう」と言ったのは、「刺身 本気盛り」。お約束、「本気」と書いて、「マジ」と読む。「四十八魚場」の看板メニューらしい。
一人前1,500円。確かにすごい刺盛りだが、これにはちょっと躊躇した。もうちょっと、効率のいい頼み方があるんじゃないかと。
一通り、オーダーが終わると、Uち〜さんは切り出した。
「実は結婚するんですよ」。
あぁ、その報告が目的だったか。なら、最初から言えばいいのに。
「おめでとうございます」。
何年か前に、後楽園の酒場で、広島の女性とお付き合いしていることを聞いたが、どうやらその女性とゴールインすることが決まったようだ。
Uち〜さんは、終始ご機嫌だった。
自分が日本酒に切り替えると言うと、タブレットの日本酒欄にアクセスして、ページを開いてくれた。そこで、広島のお酒を見つけると、「お、この酒があるのか」と独りごちて、「これ、おいしいですよ」と勧めてくれた。おいしいのかもしれないが、いかんせん高い。一合でも1,000円近くする。一番安価な日本酒でも一合が600円。高い酒場だなー。ただ、その広島の酒は品切れ中だったので、一番安酒をもらった。
店員が酒を持って来た時、Uち〜さんは、その店員さんに、広島のお酒の名称を出して、「このお酒、なかなか置いているところないですよね」と言った。店員さんは、「よくご存知ですね」と返し、「妻が広島で、この酒が大好きなんです」と言った。「奥様、広島ですか。実は自分も広島です」となったところで、Uち〜さんはさらに相好を崩した。「え、広島なんですか。自分らもカープファンなんですよ。東京在住で珍しいでしょ」。
いや、今時東京のカープファンは珍しくない。にわかと思われたくないから、自分なら言わないなと思った。
Uち〜さんはいつになく、ご機嫌だったのである。
酒も刺身もうまかったが、どうにも酒場は落ち着かなかった。混雑していて、騒がしかったし、酒も酒肴も値段が高いので、そればかりが気になった。
今季のカープの順位予想やら、投手のローテーションと打順予想をしながら、楽しく過ごしていたが、風向きが変わったのが、さっきタブレットで見た、広島の酒を隣の客がオーダーしていた時である。Uち〜さんはめざとくそれを見ていて、「あれ、その酒はさっき売り切れだったはず」。しかし、やがて店員が来て、隣の客にその酒を注ぎ始めた。すかさず、彼は店員さんに尋ねた。
「そのお酒、売り切れって出てましたよ」。
「あれ、何かの手違いでしょうか。お酒はあります」。
すると、終始ご機嫌だった彼のテンションは下がった。
話題を変えて、お互いの仕事の話しをした。Uち〜さんは個人事業主の先輩なのだ。
「社会保険料、どうしてますか」と尋ねると、普通に払っているという。普通というのがよく分からないので、突っ込んできくと、やや先輩風を吹かせながら、上から目線な感じになった。
あぁ、土曜日の夜、わざわざ新宿の高い酒場に来て、楽しくない雰囲気になるなんて。極め付けは会計時だった。つまらない会だったし、二人で8,000円以上の会計になったから、自分もこの場を経費にしようと、折半してそれぞれの領収を貰うことにした。Uち〜さんもそれに同意した。実は前回、所沢で飲んだ時、割り勘だったのに一人でレシートをかっさらって行ったから、今回はそうさせたくなかった。ところがいざ、領収書が来ると、Uち〜さんは真剣な顔つきになり、「レシートはないの?」と店員さんに迫った。
店員さんは領収を発行するとレシートはないと言った。Uち〜さんは、「それは困る」となり、膠着状態になった。「これで充分、経費で落とせるじゃないですか」と説得しても聞き耳を持たなかった。他の仕事で忙しい店員さんをそのままにしているのは忍びないと、自分が「もういいですよ」と言って、その場を離れさせた。自分とUち〜さんの間に微妙な空気が流れた。
やっぱり、つまらなかったな。
Uち〜さんの住む駅は小田急線ですぐだが、自分は小一時間かかる。気怠い気持ちで家路についた。
カッコ悪いです。
そういう人は自分の馴染店にはお連れできないですな。
熊猫さんって、ホントは一緒に飲みたくない人が複数いたりしませんか?
>そういう人は自分の馴染店にはお連れできないですな。
ホント、そう思います。
>ホントは一緒に飲みたくない人が複数いたりしませんか?
今回の人も含めて3人います!
一人は仕事関係なので仕方ありません。もう一人は悪い奴ではないのでOKですが、飲む前のプロセス(約束とか)が面倒なので、気が重いのは確かです。
よほど君のことが好きなのでは??
領収書もらってレシートもらうとなんか良いことがあるの?サラリーマンにはわからん・・・・。
自分の中では「なんとかお願いします」だったと記憶していて、今LINEを確認してみたら、違ってた。
「週中、週末でも大丈夫ですので分かりましたらご連絡ください。よろしくお願いします」(原文ママ)
でした。懇願ではなかった(苦笑)。
レシートの件は分からない。
結局、全額表示されているのが欲しかったんだと思う。
でも確かにそう言われちゃうと断るのが難しいね。
2か月くらい余裕が無い、とでも言うしか無いもんな。懇願に近いよ。
自分はそういう人が居ないな。
上手にかわして来たのか、そもそもあんまり誘われないのか・笑
確かに圧倒的に一人か妻と飲んでる機会が多いなあ。それか3人~4人か。
サシで飲める人って結構限られるよね。
>確かに圧倒的に一人か妻と飲んでる機会が多いなあ。
それが一番いいと思う。
フリーランスになってからは一人飲みが減りました。
「居酒屋さすらひ」も画像が全くない回が増えたし。ビジネスモードだと画像が撮れないんです~。
数えると、ここ1年でサシで飲んだ人は君を含めて5人しかいなかった。
ま、コロナ禍だったり、酒類の提供制限あったしねえ~。なんか3人~4人が多いぞ、不思議!
自分もサシは5人だね。
3〜4人は6回かな。そのうち送別会が4回。3人以上は得意じゃないなぁ。
ありがとうございます。
なるほど、なるほど。
まぁ、そんなことしていたら商売の神様は逃げていきますよ。