立ち飲みの日のチケットが残り一枚。
これをどの店に使おうか。「龍馬」「こひなた」、新橋のお気に入りの立ち飲み屋は以上。最後の1枚を新規開拓に費やしていいものかとY澤さんにお願いすると、あっさりと「いいよ」と返ってきた。
新橋の立ち飲み制覇まで、あと2店。
そのうちの1店。「ろっきー」に行くことにした。
しかし、新橋の立ち飲み屋、恐るべし。
坂本龍馬から、イタリアの種馬、ロッキー・バルボアまで、その世界観は計り知れない。そう思いながら、新橋烏森の最南端を歩く。
すぐそこは、だいぶ工事が進んだマッカーサー道路だ。
店頭にサンドバッグがぶら下がっている。このお店で働くスタッフはいずれも格闘技に携わっているという。
ともあれ、店に入った、おっさん2匹はカウンターに陣取り、生ビールを各一つずつ頼んだ。しばらくすると、ビールがハラミの串とともに出てきた。
このハラミが絶品だった。柔らかく肉汁が口の中で滴るようだ。
「こひなた」で淡白なものを食べてきたおかげで、このハラミはずいぶんと鮮烈である。
だが、60代と40代のおっさん2匹、既に立ち飲み4軒目で足に来ていた。腸のように舞い、もとい蝶のように舞い、蜂のように刺すというキレはない。
おっさん2匹、まだ千鳥足にはなっていないものの、そろそろ座りたい気持ちがむくむくと沸き起こっていた。
おっさんらは、過酷な減量はしない。むしろ、過酷な増量というべきか。とにかく不摂生を繰り返している。
生ビールを飲み乾したのが10分後か、すでに3Rに突入。ビールをおかわりして、あっと言う間に8Rを無難に闘った。
ロッキーは、アポロとの試合で勝つことを目標にしていたわけではなく、あくまで最終15ラウンドまでリングに立ち続けることが目標だった。
おっさんらは、最終12Rまで立ち続けることができるか。
すると、Y澤さんが、お店の女の子をからかい始めた。上手な時間稼ぎだと思ったが、実はそうではないとボクは内心思った。
本当は、女の子にクリンチしようと思ったのではないか。つまり、クリンチに逃げようと思ったのではあるまいか。
ボクらは最後に酎ハイをおかわりした。お姉さんをつい「エイドリア~ン」と呼んだ。
もうボクらはヘロヘロだった。やっとの思いで立っていた。
「凡戦なんてものはない」といった佐瀬稔氏(「敗れてもなお 感情的ボクシング論」)。
ビールと酎ハイで3杯、撃ち合いという試合ではないが、4軒目ということを考慮すれば、ボクらは善戦といえたかもしれない。
カウンターに肘をかけ、ともすれば、それはスリップにとられることもあったが、狡猾なおっさんらはなんとかやり過ごした。
ボクの頭の中では「立て~、立ってくれ~」と拳キチのおっさんの声が鳴り響いていた。
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