
やきとんの白煙に加齢臭、そしてオーデコロンの臭いが充満した新橋烏森。
その様々な臭いが入り混じった煙にまぶされたような男たちは、文字通りねずみ色の背広を身にまとう。
チャコールグレイのスーツではない。汗でよれよれになったその背広はともすればどぶねずみなどとも形容されながらも、新橋に集う男たちはたくましく生きる。そのねずみ色が、また積年の様々な物体の化学変化で変色した居酒屋の漆喰と極めてよく合うから不思議である。
だが、大相撲の土俵のように女人禁制とも噂されたこのエリアにも、太田房江元大阪府知事のように、敢然と立ち向かっていく女子が増えてきたのもまた確かだ。頑なに守られてきた新橋のサラリーマンによる純潔の生態系も、少しずつ変化を見せるのだが、しかしながら、まさかここにスタンディングのワインバーができるなんて、考えもしなかった。
牛串とワインというコンセプトを持った「Borracho」という店である。
真紅の赤いキャンバスに白地の壁は赤と白のワインを表現しているのだろうか。小窓のガラスにはキッチンのドローイング、店頭に掲げられた黒板には、その日のお奨めのメニューが書き込まれている。
まるで、違う風が吹いているようだ。タバコと加齢臭とやきとんの白煙、そしてオーデコロン、それにデオドラントが入り混じった風が、ここだけ西欧の陽気なそよ風に変わっている。
「こんなはずじゃねぇ」とその店に勢いよく飛び込んだ御仁がいた。
長年、烏森に通ってきたその御仁は髪を振り乱し、「生ビール」(530円)をオーダーした。
店の丸テーブルに陣取って、ビールを待つ彼が凝視したのは、店内の壁である。白いタイルがピカピカと輝いている。時折、赤いタイルがアクセントをつけ、店はとにかく異国の情緒に富んでいる。いよいよ、ここが新橋烏森であることを忘れさせてしまう。
「こんなはずじゃねぇ」と彼はまた、悪態をつくように、壁に埋め込まれている鏡の中のまぬけづらに向かって吐き捨てるようにいった。
ビールを運んできたのも烏森の住人では見かけない清々しい若者であった。この人が同店の店長、下田さんである。とにかく、物腰が柔らかく、親切だ。ルックスも振る舞いも烏森人とは全く違う。
ビールは「プレミアムモルツ」。どうにも御仁には納得がいかないようである。
つまみのチョイスに迷っている。すんなりと「牛串」にすればいいものの、何故か「バジルチキン」(550円)を頼んだ奇特な御仁。バジルソースの芳香な薫りがパリパリに焼き上げられたチキンの食感とともに溢れる肉汁に融合する。
「最高じゃねぇか」。
その御仁は頷きながら、ビールを飲み干した。
そして、ハイライトとなるのが、ワイン。 店長がキャペーン中といって出してくれた赤ワインは「ランブルスコ セツコ」(530円)。エッジのきいたワインは厳正なチョイスで仕入れているのがよく分かる。
やはり、ワインの選定は、店の命運を賭す最大のポイントだ。
「牛串」を軸に太陽と風の恵みをラインナップしているようにみえる。
その「ランブルスコ セツコ」はややくどいバジルソースをきれいに洗う爽やかさだった。
気が付けば、周囲には、数人の客がいる。
中には、キャバクラの同伴と見られる輩もいるが、ねずみ色をしていない。
店の壁が映えると、客の服装も違ってみえるのか。
烏森に新しい世界が広がった。
その様々な臭いが入り混じった煙にまぶされたような男たちは、文字通りねずみ色の背広を身にまとう。
チャコールグレイのスーツではない。汗でよれよれになったその背広はともすればどぶねずみなどとも形容されながらも、新橋に集う男たちはたくましく生きる。そのねずみ色が、また積年の様々な物体の化学変化で変色した居酒屋の漆喰と極めてよく合うから不思議である。
だが、大相撲の土俵のように女人禁制とも噂されたこのエリアにも、太田房江元大阪府知事のように、敢然と立ち向かっていく女子が増えてきたのもまた確かだ。頑なに守られてきた新橋のサラリーマンによる純潔の生態系も、少しずつ変化を見せるのだが、しかしながら、まさかここにスタンディングのワインバーができるなんて、考えもしなかった。
牛串とワインというコンセプトを持った「Borracho」という店である。
真紅の赤いキャンバスに白地の壁は赤と白のワインを表現しているのだろうか。小窓のガラスにはキッチンのドローイング、店頭に掲げられた黒板には、その日のお奨めのメニューが書き込まれている。
まるで、違う風が吹いているようだ。タバコと加齢臭とやきとんの白煙、そしてオーデコロン、それにデオドラントが入り混じった風が、ここだけ西欧の陽気なそよ風に変わっている。
「こんなはずじゃねぇ」とその店に勢いよく飛び込んだ御仁がいた。
長年、烏森に通ってきたその御仁は髪を振り乱し、「生ビール」(530円)をオーダーした。
店の丸テーブルに陣取って、ビールを待つ彼が凝視したのは、店内の壁である。白いタイルがピカピカと輝いている。時折、赤いタイルがアクセントをつけ、店はとにかく異国の情緒に富んでいる。いよいよ、ここが新橋烏森であることを忘れさせてしまう。
「こんなはずじゃねぇ」と彼はまた、悪態をつくように、壁に埋め込まれている鏡の中のまぬけづらに向かって吐き捨てるようにいった。
ビールを運んできたのも烏森の住人では見かけない清々しい若者であった。この人が同店の店長、下田さんである。とにかく、物腰が柔らかく、親切だ。ルックスも振る舞いも烏森人とは全く違う。
ビールは「プレミアムモルツ」。どうにも御仁には納得がいかないようである。
つまみのチョイスに迷っている。すんなりと「牛串」にすればいいものの、何故か「バジルチキン」(550円)を頼んだ奇特な御仁。バジルソースの芳香な薫りがパリパリに焼き上げられたチキンの食感とともに溢れる肉汁に融合する。
「最高じゃねぇか」。
その御仁は頷きながら、ビールを飲み干した。
そして、ハイライトとなるのが、ワイン。 店長がキャペーン中といって出してくれた赤ワインは「ランブルスコ セツコ」(530円)。エッジのきいたワインは厳正なチョイスで仕入れているのがよく分かる。
やはり、ワインの選定は、店の命運を賭す最大のポイントだ。
「牛串」を軸に太陽と風の恵みをラインナップしているようにみえる。
その「ランブルスコ セツコ」はややくどいバジルソースをきれいに洗う爽やかさだった。
気が付けば、周囲には、数人の客がいる。
中には、キャバクラの同伴と見られる輩もいるが、ねずみ色をしていない。
店の壁が映えると、客の服装も違ってみえるのか。
烏森に新しい世界が広がった。
ご無沙汰しています。こんばんは。
こりゃ、またぞろ行ってみたくなるようなお店だねぇ。
それよりも何よりも、素敵な文章に魅かれたよ。
腕を上げたな。
オイラみたいな最低のネズミでも、こちらへお邪魔したら、少しは垢抜けて…見える訳ねぇよなぁ…
LCCが飛び始めてから、東京との距離が一気に縮まった
感じがする。
今後ともよろしくお願いします。
>それよりも何よりも、素敵な文章に魅かれたよ。
腕を上げたな。
文章のスキルを上げようと,立ち上げたブログも今年が9年目。
居酒屋の文章は、わたしが敬愛する藤島大さんの「スポーツ発熱地図」に触発されて書いてまきました。それがいつしかこんな形になり、ここ2年間はつまらない文章を書いてきました。
4月の始めころ、それを反省し、しっかりと文章の鍛錬の場として初心に帰るつもりで、真剣に取り組んでいます。
ここ数年間、ただただ書くだけということはわたしとしてとても恥ずかしく、もっと精進してまいりますので、今後ともよろしくお願いをいたします。
小樽はもう春の訪れですか?
ピーチを使って、小樽を訪れたいです。