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時折、社長は自分のルーティンからはずれた行動に出る。
「村役場」か「かっぱ」にしか行かない社長が「天山」に入った。
この行動にボクもA藤君も驚いた。
社長の中で何があったのだろうか。
天変地異の前兆か。
よく動物が突然とる謎の行動である。
それとも、ただの気まぐれか。
ともかく、あまり多くを語らない社長が何を考えているのか、全くもって分からない。
社長はとにかくビールにうるさい。
ビールは瓶ビール。値段と出てくるスピード。この条件をクリアしなければ、すこぶる機嫌が悪くなる。
だが、この「天山」には瓶ビールはなかった。
社長が生ビールのジョッキを持っている。
それはどこか不自然な光景だった。
イチロー選手が右打席に立っているような。
だが、社長の機嫌は悪くない。
「天山」に入った瞬間、もしかすると社長は道を間違えて、この店にたどり着いてしまったのではないかと考えた。
社長が大好きな「村役場」と。
ボクが飼っていた犬は晩年、散歩の帰りに入る家を間違えた。必ず、隣の家に入ってしまうのだ。
もしかすると、社長もそんなふうになってしまったのではないかと思った。仕事のしすぎか、それとも加齢による影響か。ともかく帰巣本能に支障をきたしたのかと。だが、嬉々とした顔で生ビールを飲んでいる社長を見て、その考えが違うことをボクは悟った。
社長は串焼きの盛り合わせをガンガンと頼んだ。この行動から鑑みても、やはり能動的に、この店に入ったことがうかがえた。
「天山」は串焼きに独自の辛味噌を添えてくれる。これが、ともかくうまい。社長もガツガツと串焼きを口にしている。
その姿を見て、社長はただ、この店の串焼きが食べたかっただけなんだと思った。
確かに、「村役場」にも串焼きはあるが、専門店でない分、うまいといえるほどでもない。「かっぱ」は閉店したし、この界隈で串焼きが食べられるのは「一会」か「串八珍」か。台東に行けば、「まーちゃん」という名店があるが、社長は多分「まーちゃん」を知らないだろう。
「一会」にも「串八珍」にも社長と行ったことがあるが、どうやらあまり社長の好みではないらしい。
そこで入ったのが「天山」だったのかもしれない。
珍しく社長は機嫌よく酒を飲んでいる。
この店の串焼きが気にいったのだろうか。
いや、そうじゃないんだろうな。
社長を気まぐれにさせた、なんないいことがきっとあったんじゃないかと思う。
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