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「その部屋の壁紙は、近頃売り出されている、 丁度花壇のような具合に 草花をあしらったようなものでしたわ。 庭の中にいるような感じを受けましてね ―― でも、私、あんなのは どうかと思いますのよ ―― だってあれだけの花が いちどきに咲くなんて事は、 金輪際ないんですものね ―― (中略) 「でも、滑稽ですわ。 釣鐘水仙とらっぱ水仙、野薔薇に藤、 立葵と友禅菊がみんな一緒に咲くなんて」 【A・クリスティー作 「火曜クラブ」】 |
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昨日より一層、日光を出し惜しみする空となりました。
おまけにパラッ並みの雨ですが、目まぐるしく変わる空。
気温も2、3度低くなり、俄かに冬の様相です。
こんな時。暖炉を中心に集まる 『アンの世界』 を思います。
一方、日本では炬燵。
その昔、居間には大きな掘り炬燵があって、学校から帰ると、
宿題は勿論、何から何までそこで終えた事が思い出されます。
冬は、とりわけ寒い自分の部屋になど行く気になりませんから。
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【青いゼラニウムならぬ、青いセージを栞代わりに】
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と言っても目まぐるしく
過ぎ去る日々なものですから、
随分、前のような気もします。
今日は、A・クリスティー作、
「青いゼラニウム」 の事を。
これは 『火曜クラブ』 に
収められた13編から成る、
短編の1つです。
現実には青いゼラニウムなど
存在しませんが、このような
植物のタイトルは、私などには
それだけで強く惹かれます。
それは青という色に感じる
ロマンティシズムかも知れません。
尤もこの小説は、
そんなものとは無縁なのですけれど。
その物語は・・。
手前勝手で我儘放題の半病人の妻と、そんな妻を献身的に支える夫。
妻はある心霊術師に自分の未来を透視させます。
「満月の晩が危ない。青い 桜草 は警告、
青い 立葵 は危険信号、青い ゼラニウム は死の象徴・・・」
~と告げられた妻。
そして妻の部屋の壁紙(上記の引用文)に描かれた桜草、
立葵がいつしか青に変り、ゼラニウムまでもが青くなった時、
その妻は死体となって発見されるのです。
トリックも然る事ながら、犯人の手掛かりとなる、
ミス・マープルの解明も相変わらず冴えています。
短編ならではの醍醐味がたっぷり味わえる秀作です。
同時に、クリスティらしく花を題材にした作品で、そちらの方でも楽しめます。