京王電鉄では、世界有数の登山客を誇る高尾山とその周辺の更なる魅力向上を目指して2015年4月24日に高尾山口駅リニューアル、10月27日に同駅前に天然温泉施設「京王高尾山温泉/極楽湯」を開設し、沿線外へ向けて発信を行っています。その一環として同年9月30日より8000系8713Fに緑色をベースに高尾山の四季と若草の5パターンのイラストを配したラッピングを施し「高尾山トレイン」として運転を開始しました。かつて京王では初代5000系・3000系登場以前から運用していた車両に緑色の塗装を施しており、京王社内のみならず乗客からもグリーン車と呼ばれ親しまれていましたが、この高尾山トレインは広告電車であるものの、リバイバル塗装車(公式の文書にもグリーン車の2000系をベースにした旨の記述が有り)とも言えます。
車体のフルラッピングで大きく印象を変えた8713F。車体修繕工事・10両貫通化改造は比較的早めの2014年7月に施工されましたが、VVVFインバーター制御装置の更新は2022年7月現在も行われておらず、登場以来のGTOサイリスタを維持しており発車・停止時には独特の大きな磁励音を耳にする事が出来ます。
2017年には、第10回東京屋外広告コンクールの「建築物及び周囲の景観と調和の取れているもの」「デザインが優れ、人々に親しみを感じさせるもの」「関係法令に適合しているもの」を基準に選定される第4部門(車体利用広告)にて107作品の内から最優秀賞の東京都知事賞を受賞しています。これは大手私鉄では初の事例となりました。なお、高尾山トレインのベースになった2000系列を始めとする京王線系統のグリーン車は、原則特急・急行運用には入らず各駅停車専用の位置付け(初代5000系の車両不足時にアイボリー+臙脂色の帯に塗装変更され運用された実績はあります)でした。
こちらが元になったグリーン車の一系列である2010系デハ2015号車。2000系列は架線電圧の引き上げを見据えて1956年に登場した京王線初の高性能車ですが、2010系は経済性重視で付随車を挟むことを想定して1959年から製造され、主に戦前製の14m車両を付随車化して編成を組み、異様な凸凹編成は名物と化していました(1968年までにサハ新造と他形式からの改造編入で解消)。塗装の色合いは時代によって変化しており、1950年代まではダークグリーン、1956年登場の2700系からライトグリーンになり、1965年頃から更に明るいスタンリットライトグリーンと称する緑になりました。1984年11月18日の2010系引退で完全に消滅しています。
車内設備は通常の修繕車と特に変わるところは無く掲出している広告物も登場から暫くの間、高尾山関連の物で統一されていた時期もありましたが、他編成と同じ扱いになりました。
ステンレス車体と色帯で統一され、全体塗装車が消滅した京王線の中は一際目立つ存在ですが、今後とも末長く運用されることを願いたいですね。筆者個人の欲を言えば、9000系30番台でアイボリーホワイト+臙脂色の細帯と井の頭線1000系後期車のグリーン車再現を強く希望します。