町田営業所業務日報

地元周辺の鉄道・バス車両について気紛れに綴ります。

江ノ島・鎌倉観光復権の立役者、異彩を放つ江ノ電10形

2020年08月18日 | 小田急グループの鉄道・路線バス

江ノ島電鉄の輸送人員は1991年をピークに減少傾向に転じ、1992年度に増備された2000形2003編成で旧型車代替が一時的に中断されました。しかし、課題になっている観光客誘致と共に1997年で開業95周年を迎えることから、新形式が導入されることになり、設計に当たっては19世期のヨーロッパの路面電車やオリエント急行、バーミンガム鉄道の王室客車など、古典的要素や豪華列車の風格を現代的に昇華させたレトロ調ながらも新しいデザインで企画されました。これが10形電車で、1997年4月18日より営業運転を開始しています。 

在来車とは全く異なる紫紺とクリームにボールド書体のレタリング表記が目立ちますが、この装いはオリエント急行をモチーフにしつつ紺紫が鎌倉の歴史と文化の象徴、クリームがそれらを守り育む人々の心を表すとされています。車体塗装と共に、上部が弧を描く窓の形状やダブルルーフ屋根を思わせる屋上機器を隠すカバー、また救助網を模した形状のスカートなど極めて独特なデザインで、導入のコンセプトからかその後の増備は実施されることなく、今日に至るまで唯一無二の存在となっています。

500形と連結したため電制の関係で4基全てのパンタグラフを上昇させて走行する場面。現在主流になっているシングルアーム式パンタグラフは江ノ電では10形が初採用になりました。

車内はロングシートを主体にしつつ車端部にクロスシートを配置するリニューアル前の2000形に近い設備ですが、木目調部品や難炎木材などを多用して極力金属の部品が目立たないようにしている他、天井周りはダブルルーフのイメージで中央部を高くし照明装置も丸型蛍光灯を配置してレトロ感を演出しています。また通勤通学輸送にも対応する為1300mm幅の両開き扉になりました。なお、1956年に登場した初代500形でも車内設備にクロスシート、両開き扉を採用し当時は稀有な存在として大変な注目を浴びましたが、後年の改造工事で全て解消されてしまっており、それらの設備が間を置いて10形で完全に復活しているのも興味深い点です。

ドア上には江ノ電初となる車内案内表示器が設置されましたが、LEDスクロールが主流になる中、ランプ点灯式の路線図式を採用して登場しました。またドアチャイムも現在のところ設置されていませんが、1990年代後半の車両としては比較的珍しい設備です。

本形式は導入直後にレトロ調電車としてマスメディアにも頻繁に取り上げられたことから、営業運転を開始した1997年には定期外利用客数が増加し、最初の目的であった旅客誘致に貢献しました。現在は300形305編成と共に、江ノ電のイメージリーダーと言える同系ですが、さすがに登場から23年も経過しているので設備には疲労も目立って来ました。今後も特別な車両として活躍は続くと思いますが、近い内のリニューアル工事にも期待したいですね。

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小田急全線で運用中の赤い1000形

2020年08月15日 | 小田急電鉄

小田急では8月1日より、通常は小田原〜箱根湯本間で運用している赤い1000形を8月31日までの期間限定で全区間で運用を開始しました。台風19号の被害を受け、復旧工事が実施されていた箱根登山鉄道の全線運転再開を記念しての特別運転ですが、普段は出入庫を除いて箱根登山線区間しか走らない車両が定期で全線に姿を見せるとあってか沿線が賑わいを見せています。 

2009年に箱根登山鉄道のレーティッシュカラーに変更されて以来、久しぶりに新宿へ姿を見せた1059F。通過直前で雲が出てしまいましたが夏の朝は影落ちが酷いので、まぁまぁ良かったと妥協しています・・・。箱根登山線では小田原〜箱根湯本間は小型の登山線車両では輸送力に難がある為2000年12月で日中の小田原乗り入れを終了し、小田急車を主体とする運用にシフトしていました。2006年3月には僅かに残存していた登山線車両による小田原発着の列車を全廃し旅客車を小田急車の運用で統一しており、入生田駅より先の区間は自社の車両による運用が完全に消滅しています。このような経緯から、2009年には案内の明確化もかねて1000形4両3編成(1059F〜1061F)をレーティッシュカラーに改めて運用を開始しました。この時点では他形式による運用も存在しましたが、2012年からは原則として赤い1000形による小田原〜箱根湯本間折り返し運転を基本とし、追加で1058Fもレーティッシュカラーに変更されています。

SE車の最後の公開時に奥に展示され、晴れ姿を披露した際の1060F。赤い1000形が新宿発着の列車に運用されるのは今回が初めてではなく、2012年までの間にダイヤ乱れ発生時に乗り入れた実績があり、その際には8255Fと組んだこともありました。また旅客営業ではない試運転では4両単独で複々線区間を走る姿も見せています。

今回の10両編成組成に当たって、連結相手となる6両編成には1254Fが選ばれました。カラーリングが変更されたことで大幅に印象が異なっている様子が良く分かります。2代目5000形の登場で1081Fが廃車になったことから、未更新のまま残る1000形も危うくなって来たので、1254Fにとってはこれが最後の花道にならないことを願いたいですね。

車内広告は全て箱根観光に関するもので統一された車内。小田急車ではありますが箱根登山線の路線図(右のドア上)も掲出しています。なお箱根登山線内では自動放送を開始しましたが、小田急線内ではそれは行われないのが残念です…。

遠くない内に赤い1000形にもリニューアル工事が及ぶことになるでしょうから、未更新での全線への入線はこれが最後の機会になる可能性が非常に高く、31日まで沢山記録しておきたいですね。

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伝統カラーを纏う最後の形式、小田急8000形

2020年08月13日 | 小田急電鉄

2012年で初代5000形が運用を終了し、8000形は1969年から採用のアイボリーホワイトにロイヤルブルーの帯を纏う最後の形式にして最古参車両になりました。2002年から車体更新工事が施工されており、在籍する160両全車に施工されました。一番最初に更新を受けた8251F・8255Fは走行機器を界磁チョッパ制御のまま存置していましたが2003年度の更新車から走行機器を当時最新形式だった3000形3次車並みの性能にすべく、同型式と同様のVVVFインバータ制御方式に改造する工事が8254Fを皮切りに開始され一連の改造・更新工事は年度毎にグレードアップし工事は2013年まで続いた為、結果として複数のバリエーションが生まれています。更新工事完了後は160両全車が安定して活躍していましたが、2019年6月19日に発生した踏切事故で8264Fが被災し、復旧しないまま2020年4月に初の廃車になってしまいました。今後は2代目5000形の増備で、6両2編成のみの界磁チョッパ制御車から徐々に置き換えられると思われます。

急行線を快走する8260F+8060Fによる10両編成。8260F6両は2007年に更新改造を施工されており、フルカラーLEDによる行先表示などを採用する一方、ブランドマークが制定される以前だった為、車体のOERロゴが存置されています(2008年からの施工編成では撤去)。また、行先表示は当初3色LEDを採用している編成と同様に明朝体でしたが、はね・はらいの表現があると文字の形態を認識しにくくなる視覚障害者に配慮してか2012年にゴシック体に改修されています。

VVVF化改造後は、車両番号の末尾を揃えて8000形同士の10両編成を組むのが主流ですが、検査周期の違いや走行距離調整などから別々に運用されることもあり、写真は多摩線各停運用に単独で充当されている8256Fです。比較的初期に更新を受けたため、正面・側面は3色LEDを採用しており2018年のダイヤ改正時に表示内容を改修しましたが、明朝体の文字は踏襲されました。増設された2段電連と改造されたスカート周りが物々しい雰囲気ですね。

10両編成組成時に見られる先頭車同士が向き合う連結部。通勤車に於いても分割併合が頻繁に行われていた当時、6両編成は他形式と組む姿も見られましたが、現在は8000形4両以外と10両を組む事は無くなりました。

登場時はエメラルドグリーンの化粧板にダークブルーの座席モケットと、小田急通勤車で主流だった寒色系の車内でしたが、更新に際しては化粧板を白系とし座席は赤のバケットシートに改めた為、大幅に明るい印象になった車内。サービス面でもLEDによる車内案内表示や自動放送装置の新設で格段にグレードアップしました。

現在は2代目5000形の増備が始まったものの置き換えの対象になっているのは界磁チョッパ制御の6両2編成と1000形ワイドドア車の為、急速に姿を消して行くことは当面無さそうですが、車両増備と廃車の計画に変更があったようで8000形より先に1000形の1081Fが廃車になる衝撃の展開を見せたため、今後は増備だけでなく在来各形式の動きに注意を払うと共に、VVVFの8000形も来たら取り敢えず撮るくらいの気構えでいた方が良いかも知れません。

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風祭駅前に佇む箱根登山鉄道107号車(えれんなごっそCAFE107)

2020年08月11日 | 小田急グループの鉄道・路線バス

2019年7月20日、大正・昭和・平成・令和と4つの時代を走り抜け、実に100年余りの活躍に終止符を打った箱根登山鉄道のモハ103+107号車(通称サンナナ)は引退後はどうなるのか動向に注目が集まりましたが、107号車は小田原名産の蒲鉾で知られ、1865(慶応元)年の創業の老舗企業、鈴廣かまぼこ株式会社が引き取る事が決定し、風祭駅前の直営レストラン「えれんなごっそ」の前に据えられ、「えれんなごっそCAFE 107」として営業しています。

かつては何回も往来した古巣の前に置かれ、カフェとして再起する事になった107号車。屋根には箱根登山鉄道の全線復旧を祝う横断幕が掲出されています。車体は現役時代と見紛う程に美しい姿を見せていました。この至近の位置には鈴廣の風祭工場と、かまぼこ博物館も所在しています。

車体の後部から。現役時代は余り見れなかった妻面もじっくり観察出来ます。107号車は連結相手だった103号車と共に、両運転台車を片運転台化改造して2両固定編成にした車両ですが、改めて見ると元は乗務員室があったことが伺えますね。

車内にはカフェとして小型テーブルが配置され、軽食を楽しむことが出来るようになっています。元々は非冷房車でしたが、鈴廣への譲渡時にクーラー(天井に見える吹き出し口が後付けの冷房)も設置されました。なお、店名にもなっている「えれんなごっそ」とは神奈川県西部の方言で、色んなご馳走の意味です。

車内の吊り手や座席は引退時の状態を保っていますが、最終日にドアに貼られた引退記念ステッカーも存置されています。現在の登山電車で使われているステッカーの一世代前のデザインを模したもので、関東地方の鉄道事業者でよく見られる円型ながら、手のイラストが描かれておらず文字による注意書きのみとなっているのが特徴的でした。

過去にも引退した車両が保存されるケースは存在しましたが、何れも適切な整備が行われないまま解体されてしまい、サンナナの2両も廃車解体かと思われたところで107号車は地元に根差した名門企業に、そして103号車は埼玉県の日本工業大学から引き取りの打診があり、技術者を養成する為の教材として活用されることになりました。100年余りという長寿はもちろん、引退後も活路が開かれる辺り実に強運な車両だったな・・・と心から思います。

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登場から15年、今なお人気の小田急50000形・VSE

2020年08月09日 | 小田急電鉄

小田急の特急ロマンスカーは長らく箱根への観光輸送を目的として設定されて来ましたが、1990年代に入ると箱根への観光客が減少する一方で通勤利用のビジネス客が目立つようになりました。その利用者の変化を受けて1996年には初めて展望席を持たないボギー連結車の30000形EXEを導入しますが、この後も更に箱根特急の利用率は減少の一途を辿り、2001年に実施したアンケートではロマンスカーを利用したいとする旅客の大半が展望席の存在を挙げていました。この結果を受けて展望席を備えているもののハイデッカー構造でバリアフリーに対応出来ない10000形HiSE車を新型特急車で代替する事が決定し、登場したのが50000形VSE車です。

早いもので、2005年3月に営業運転を開始してから15年の歳月が経過し、その間に70000形GSE車も就役しましたが今なお箱根特急のフラッグシップトレインとして君臨しています。7000形LSEが引退した現在、長らく小田急ロマンスカーの伝統だった連接構造を採用する唯一の車両になりました。

車体のデザインについては外部デザイナーを起用することになり、原点に立ち返りつつ過去に例が無い車両を作るというコンセプトで、関西空港の人工島と旅客ターミナルビルの設計・施工技術を手掛けたことで知られる岡部憲章氏が担当していますが、岡部氏の作品では初の鉄道車両となりました。走行機器にも過去の1961年に実施された車体傾斜制御、1967年の自己操舵台車など当時の技術では実用化が難しく日の目を見ることが無かった技術を21世期の水準に改良して採用し、革新的ながら過去の成果も活かしている大変画期的な車両になっています。

住宅のリビングルームのような落ち着いた移動空間を目指した車内。座席は景色を存分に楽しめるように全て窓に向けて5度の角度を付けています。円弧を描く高い天井が特徴的ですが、この室内空間がVSE(Vault Super Express)の愛称の由来になりました。なおVaultとはアーチ型の天井様式で日本語では穹窿と称しますが、その種類はBarrel vault,Groin vault,Rib vault,fan vault,Byzantine vaultsと非常に多岐に渡り、初期の建築に応用された例では紀元前4000年頃のエジプトやメソポタミア文明まで遡ることが出来ます。 

高い天井と遮るものが無い大型曲面ガラスで非常に見晴らしの良い展望席。HiSE・LSE車の展望席は14名だったのに対し、VSEでは16名に増加させました。乗務員室は当然2階部分に設置している為、自動で展開する梯子で出入りするようになっていますが、運転席は運転士が立ち入るまでは後ろ向きになっており、着座すると前を向きコンソールに向かって前進する独特の構造です。

今年7月23日は2019年10月に発生した台風18号により被災し不通になっていた箱根登山鉄道が全線で運転を再開する事になり、折しも日本政府からは新型コロナウイルスにより疲弊した景気・経済の復興を目指してGo Toキャンペーンが実施され、箱根もまた多少観光客の姿が見られるようになりましたが、箱根湯本行きロマンスカーは空席が目立ち展望席でさえ空きがある状況です。また大勢の観光客で賑わいを取り戻す日が一日も早く戻る事を祈りたいですね。

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