株に出会う

独自開発のテクニカル指標で株式市場の先行きを読む!

どうも腑に落ちない

2008-08-16 14:32:37 | 金融全般
このところのマクロな市場の動きですが、どうも腑に落ちません。

1.穀物やゴールドは大きく下落しておりますが、原油はまだ抵抗線上にある。
2.アメリカの消費者物価上昇率は、前年比5.6%にも達している。
3.米国債の金利は10年債で3.9%、2年債で2.4%程度であまり変化ない。
4.NYダウは上昇していない。むしろ停滞している。

こうやって事実関係だけ書くと、何が腑に落ちないのかというと、債券も株も穀物も原油も駄目な中で、世界のファンド(年金基金、政府基金、ヘッジファンド等々)は、一体どこで利益を上げているのかということです。もちろん空売りでの利益という手法はありますが、一時的な効果しかなく全参加者がそれで儲けることはできないでしょう。

今日はヘッジファンドだけを取り上げてみます。2007年末で2兆ドル(1万本)の運用資金があると言われております。平均レバレッジは5倍。約10兆ドルの資金運用です。1本あたり200億円で運用はその5倍の1000億円です。差額の800億円はプライムブローカーと呼ばれる欧米の銀行からの借り入れです。(新聞をにぎわせている世界の名だたる金融機関16社からです。)

ところが、今年の上半期だけで世界のヘッジファンドの平均運用益は-2.1%です(エコノミスト誌)。個別のファンドの成績はマイナス方向へは-20%、プラス方向へは18%程度の分布かと思われます。マイナス運用のヘッジファンドは、当然ながら出資者から資金の返還を求められます。

出資者から200億円の元本の返還を求められれば、1000億円の証券、株、商品、ゴールドなどを市場で売って、何とか返さなければなりません。仮に20%の評価損が出ているファンドの場合、保有資産を全部売っても800億円しかならず、借り入れた銀行への返済でチャラとなります。つまり、出資者には返還できません。10%の含み損失の場合でも100億円しか返還できません。(この際、1000億円を証拠金にして、更にその5倍から10倍のレバレッジを効かせた取引での損失云々には、あえて触れないでおきます)

ところが、ヘッジファンドがバタバタと倒れたという話は、一向に伝わってきません。しかし、この運用成績では出資者からは矢のような返還の催促があるに違いありません。今のところは、1部の返還要求には応じながら、銀行からの借入金の返済を利息程度に収めて何とか凌いでいるのではないでしょうか。バブル崩壊後の日本の会社が子会社に債務を飛ばし、子会社は銀行から支払い利息についてまで追加融資を受けながら、時間稼ぎをしていた、その様相にかなり近い状態ではないかと推測します。

そうはいってもそうした綱渡りが何時までも許される訳もなく、何が何でも現金を手にする必要にいよいよヘッジファンドは追い込まれ、これまで上げに上げてきたコモディティのうち、いわば政略的に大きく下げることが出来ない原油(注)を除いて、一斉に換金行動に走ったのではないでしょうか。(もちろん、事前に周到に空売りを仕掛けておいて)

こうした国際コモディティ価格の下落は、インフレ圧力の緩和にも繋がります。折しもユーロ圏を始め、各国のGDPはいよいよマイナス成長入りしそうです。リセッション回避のためにも、世の中には今回の下落は概ね歓迎されているのではないでしょうか。

しかしながらです。アメリカの消費者物価上昇率は何と、前年比5.6%にも上昇しました。経済成長率がゼロでも、消費者物価上昇率分の金利に収斂するのが、いわゆる中立的な金利水準です。アメリカでは5.6%の金利が中立的な水準です。ところが、長期金利は4%にも達しておりません。本当に景気悪化が続けば日本のように長期金利は1.8%程度に低止まりしますが、日本では比較的消費者物価上昇率がおさえられておりました。ところがアメリカは5.6%にも達しております。

何故、現在の10年債の金利がそこまで達しないのか?仮に今より1%でも金利水準が上がれば、レバレッジ5倍(200億円X5倍)のヘッジファンドは、800億円X1%=8億円の金利負担増となります。元本に対しては4%の損失です。

この物価上昇下で長期金利が上昇しない、これが腑に落ちないことの元凶です。1つ考えられることは、FRBはほぼ無制限に金融機関に対して流動性の確保を約束して信用収縮を防いでおります。その代わり米国債の金利を上げない(つまり我先に米国債を投げ売りしない)暗黙の了解が、あちこちの内外の機関との間にあるのではないかと言うことです。外国からのアメリカへの証券投資は、今のところ変調の兆しがありませんが、これも不思議なことの1つですが、こうした見方の裏付けでもあります。

もし、ヘッジファンドがこうした換金行動を取ったとして、2兆ドルを元本としての、運用資金はその5倍の10兆ドルのうち、仮に5%が返還不能で毀損したなら、5000億ドルの損失を出資者と欧米の金融機関16社は被ることになります。10%なら1兆ドルです。(高レバレッジをかけていればもっと大きな損失になります。)

サブプライムで1兆ドルの損失が出そうな時に、簿外になっているであろう、こうしたヘッジファンド向け融資の損失が加われば、一体金融システムはどうなるのだろうか?

これが、今回のコモディティ価格の暴落の1つの背景ではないかと思います。

今回の1件が落ち着いた後の世界に、一体世界経済にとってどういう事態が待っているのかが問題ですね。 金融危機再燃からの米ドル信認崩落により、より強烈な不景気とハイパーインフレの台頭がなければ良いのですが、その予兆を少々感じる次第。


注)原油を暴落させると、アラブ諸国がドルペッグ政策を止める可能性があり。アメリカへの最後の命綱の資金環流を、中東から絶やさないためにも原油を暴落させることはできない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする