福井はおおい町の総合運動公園に到着する。野球場以外にも体育館やテニスコート、多目的グラウンド、サッカーグラウンドなどを併設する施設で、多くの人が利用するところである。
入口では福井の選手、地元おおい町の観光大使の女性たちが観客を出迎える。この試合は「おおい町の日」として、おおい町が全面的にバックアップして開催される。おおい町はスポーツ施設が充実していることもあってチームの合宿では使われるそうだが、公式戦は年に1回のみ。また入場料は無料である。これは球場の造りにも関係していて、ネット裏とベンチ上は観客席があるものの、それ以外は外とはフェンスで仕切られているだけで、タダ見しようと思えばいくらでもできる。そのためにいっそのこと入場無料にして、その分お客さんに来てもらおうというところだろう。
飲食物の販売はなかったが、代わりにおおい町のブースが出ていて、地元の具材をつかったそうめんの振る舞いや物産の販売が行われている。茶漬けやチップスといった鯖のへしこのほかにも、梅が特産ということで梅を使った菓子なんかも売られている。
グラウンドではちょうど富山の試合前練習。ローズの姿も見える。富山の若い選手とも談笑しているし、一塁側の福井の外国人選手のところにもやってきて言葉を交わしている。こういう気さくなところがいい。
さて、今季の公式戦もそろそろ終盤に差し掛かっている。BCリーグは福島、武蔵、群馬、新潟の東地区と、信濃、富山、石川、福井の西地区に分かれていて、かつ前後期制である。今季の西地区は吉竹春樹新監督が率いる福井が前期を制覇し、後期も首位をキープ。一時は優勝マジックも出た。これに0.5ゲーム差の2位でくっついているのが富山。富山は前期は地区最下位だったから、シーズン途中で加入したローズ効果というのは大きい。両チームの直接対戦はこれが最後。優勝争いに向けて大きな一戦である。
昨年もこの球場で観戦したが、この時は福井が前期優勝までマジック2として迎え、結果次第では優勝が決まるというもの。BCリーグの村山代表も表彰式を見据えて来場していた。ただ試合は福井が終盤に崩れて大敗。おまけに前期優勝も逆転で富山にさらわれた。今年の試合はどうなるだろうか。
試合前にはおおい町の和太鼓のチームによる演奏、女性グリークラブによる国歌斉唱、おおい町長の挨拶と始球式といったイベントがある。おおい町は大飯町と名田庄村が合併して今の形になったが、今年で現在の町制10周年である。この試合も10周年行事の一環という。
また福井の選手がポジションにつく時にはボールの投げ込みが行われる。大人、子どもに混じって私も参戦。こういうのはなかなか取れるものではないが、この球場は観覧エリアが狭いからチャンスはあるか。そして来たのを手を伸ばしてキャッチ。投げたのは福井の森。おっ、昨年試合を見て俊足と器用な打撃がなかなかいいなと思った選手である。昨年福井に入団し、秋のドラフトには「指名候補」のリストにも載ったこともある。結局指名はなく2年目を迎えているが、盗塁は稼ぐものの打撃が今一つのようだ。この日は9番センターで先発。
先発投手福井が藤井(元ロッテ)、富山は秦(元横浜)。いずれも元NPB在籍で、現在はそれぞれのチームの投手コーチも兼任しながら先発も務める。藤井は福井のエース格存在で、これまでも福井戦を観に来た時はこの人が先発というのが多かった。配布されたプログラムによると在籍7年目でここまで49勝。この日勝てば50勝に到達するが、BCリーグでは元石川の南に次いで2人目のことという。一方の秦は先月金沢で観戦した時に完投勝利を挙げた。「お互い勝ちに来ているよ」というファンの会話が聞こえる。
初回は両投手とも三者凡退で抑え、2回表、4番ローズが打席に向かう。そしてあの独特の構えを取ると、スタンドから歓声が上がる。この球場にローズが来るのも恐らく初めてのことで、地元のファンもナマの姿を見るのは初めてというのが多いだろう。ここは藤井がテンポ良く投げ込んで変化球で空振り三振を取る。
2回裏、福井は5番ジョニー、6番杉の連打で一死一・二塁と先制のチャンス。ここで7番荒道はライトへの大きなフライ。タッチアップで三塁に行けそうな当たりだったが、二塁走者のジョニーはそのまま。一発はあるが俊足とはいかないようで、これにはスタンドからもヤジが飛ぶ。結局無得点。
先制は富山。3回表、9番佐伯がチーム初安打を打ち、1番岡野は四球。2番大久保が三遊間を破って二死満塁とする。ここで3番野原、4番ローズ、5番大上戸という強力なクリーンアップを迎える。野原がどういう打撃をするか・・・と思うと手首への死球。押し出しで1点先制。スタンドからため息が出る。
続くローズはセカンド後方へのフライ。ライトが来るかと思うがセカンドの小松崎がこれを背走で追いかけ、背番号をこちらに向けたまま捕球。福井は何とか1点でしのぐ。この試合一番の好プレーだった。
早速福井が反撃。この回先頭の森がライトへのクリーンヒットで出塁。1番小松崎も続き、送りバントで一死二・三塁と一打逆転のチャンス。続く3番大松はストレートの四球で一死満塁。ここで4番中溝に押し出しの死球。富山の3回表と同じような形で同点となる。なおも満塁だが、ジョニー、杉が続けて凡退。こちらも1点止まり。
中盤は両チームともランナーを出すものの得点が入らない。4回表は富山が二死一・二塁、5回裏は福井が二死満塁とそれぞれチャンスを作るが無得点。両先発が粘っているというか、攻撃の決め手を欠くというか。5回まで来て結構試合時間が長い。
5回裏終了後にはおおい町の宿泊施設「うみんぴあ」のペア宿泊券や特産品の詰め合わせが当たる抽選会。入場者全員に抽選券が配られていたが、2組当たる宿泊券は私の1番違いの番号が当たりだった。惜しい。
6回表の先頭はローズ。打球は藤井の横を抜けてセンター前へ。「やっぱり打球が速いわ」という声が聞こえる。この後一死一・二塁となり、7番板倉の打球は一塁へ。これがライナーとなりキャッチ。一塁走者が戻れず併殺となった。
これが福井に流れを引き寄せたか。6回裏、先頭の8番浜崎がヒットで出塁。迎えるは森。勝ち越し点を狙うためにここはバント。しかしファウルで2ストライクに追い込まれる。「バントくらいせんか!」というヤジが飛ぶ。結局スリーバントはあきらめて打撃に切り替え、結果はセンター前ヒット。これでこの試合3安打目。う~ん、打撃はいいのだがバントもきちんとできないとNPBにはなかなか・・・。無死一・二塁となり、好守備を見せている小松崎は初球にバントを決めて一死二・三塁のチャンス。
ここで代打・森田の打球はショートへ。ショートの鈴木が捕ってバックホーム。タイミングは際どかったがセーフの判定。鈴木の野選となり福井が2対1で勝ち越す。
・・・とここで、三塁側ベンチから吉岡監督が飛んでくる。ホームベースを指さしての猛抗議。ネット裏まで声が聞こえてくる。一塁側、三塁側の応援席からもヤジが飛ぶ。そこに加勢(?)してきたのはローズ。ローズといえばアレですな、乱闘やら審判への抗議、侮辱行為で退場13回というNPB記録を持つ。ただ年を取って丸くなったのかどうかはわからないが、ここは吉岡監督の腰に手をやって、むしろ抑える側に回っている。それにしても、試合展開は別にしてこうした元近鉄2人が並ぶ姿というのも懐かしいなと思う。
この後、大松への四球で満塁とした後、中溝がレフトオーバーの二塁打を放ち、4対1と突き放す。先発の秦はここで降板し、左のサイドスローの竹林が登板する。続くジョニーの内野ゴロの間にもう1点入り、この回だけで4点。5対1と福井ペースの試合となった。
藤井は7回まで投げて1失点。これでBCリーグ通算50勝に到達かな。8回には2人目の内藤が登板。ただこの投手が不安定で、四球と2本のヒットで二死満塁とする。ここで鈴木にフルカウントの末、四球で押し出し。5対2となる。富山もチャンスは作るが得点が四死球というのももどかしいところ。
8回裏、またも福井が二死満塁として、途中出場の栗田の当たりはショートへのゴロ。ショートの鈴木はフォースアウトを狙って二塁へ送球するが、一塁走者の足が一瞬早くセーフ。これで1点入って6対2。鈴木に「これで3アウト」という油断があったかどうか。
ここまで長々と試合の記事を書いているが、両チームとも常に塁上を賑わせているが得点が思うように入らないという展開。14時に始まった試合も、時間は3時間を超えて17時を回った。この後福知山まで走って19時までにレンタカーを返さなければならず、そのためにはいくら遅くなっても18時には球場を出ないといけないが、まあ残り1回である。このまま福井が逃げ切りそうだが、富山も一人出塁すればローズに打席が回る。何とか最後にもう1打席見てみたい。
すると先頭の岡野が出塁。この走者が残ればローズまで打席に回る。よしよしと思うと、続く大久保もヒットで続く。無死一・二塁でクリーンアップの左3人を迎えるところで、福井は右の内藤から左の川部に交代。
ところが続く野原にストレートの四球を与え、無死満塁とする。ローズに打席が回ればいいなと思っていたのが、無死満塁という絶好のチャンスで回ってきた。三塁側の富山ファンは沸くし、ネット裏からは「これでホームランが出たら大変だ」とざわつく。マウンドに選手、コーチが集まるが、川部も心なしか緊張した表情。
ローズは「絶対に初球ストライクを取りに来る」と思っていたか、甘いボールをきっちり合わせてセンター前へ。これで2人が生還し、6対4と2点差に追い上げる。なおも無死一・二塁となりローズはここで代走が出て退く。富山の選手、ファンは大喜びで、これで流れは向こうに行ったかな。ただまだ2点差ある。
左の3人を抑えるために出てきた川部だが、結局一死も取れずに右の佐々木に交代。しかし大上戸もセンター前に運び無死満塁。そして望月もセンター前に運び、また2人が生還する。とうとう6対6の同点になった。終盤に来ての富山の猛攻。「集中力が違うんじゃろ」という声が聞こえる。それとも、福井のリリーフ陣に難があるのか。これで藤井の勝ち星、通算50勝も消えた。前回の登板でも終盤に追いつかれて勝ち星を逃したという。
続く板倉は凡退したものの、まだ一死一・二塁で鈴木がライトオーバーの二塁打。これで一人が還ってとうとう7対6と富山が逆転した。ここで佐々木も降板。続いてトラヴィスが登板する。「またこれが、ストライクが入らないと来ている」という声が聞こえる。いろいろと見ているファンならわかるのだろう。果たしてというか案の定というか、岡野に四球を与えて満塁とし、続く大久保にも四球で押し出し。8対6となった。続く野原が三振で倒れてようやく9回表の攻撃が終了。この回だけで打者12人、6安打、3四球で6得点。攻撃も30分以上続き、いやはや、最終回にえらいことになった。この展開だと、試合が終わるのは18時前になるか。試合終了とともに球場を出なければならない。試合終了後の選手のお見送りやサインやらというのはあきらめることに。
いっぺんに劣勢、最後の攻撃となった福井だが、8回途中から登板の元気から先頭の浜崎がヒットで出塁。続いてここまで4安打の森。2点差なのでランナーを貯めたいところだが、見逃し三振。ヒットは4本出たが、バントが決められなかったり、センターからレフトに回った時にはシングルヒットの当たりをファンブルして打者走者を二塁まで進めてしまったり、牽制で刺されたりと、ミスのほうで目立った感があった。
それでもこの後富山のエラーも出て二死一・三塁と最後のチャンスを作る。最後は途中出場の片山が凡退して試合終了。4時間を超える熱戦は8対6で富山勝利となり、順位が入れ替わった。直接対決を終えたため、今度は富山に後期優勝のマジックが点灯した。
試合終了後はグラウンドと外の間が短いためか、選手たちはすぐに外に出て来てファンのお見送り。ただ、選手に声をかけるだけの時間はなくなった。急いで駐車場を後にする。迷うことなく大飯高浜インターから舞鶴若狭道に乗り、何とか走ったが福知山のインターに着いたところで19時5分前となった。インターから駅までは5~6キロ離れており、時間的に無理ということでインターを出たところで一旦クルマを止めて営業所に連絡。営業所じたいが19時までの営業で、私が戻らなければ閉められないのだが、延滞金のことは何も言わずに、ガソリンだけ満タンにしてから戻るように言われる。市内もさほど混雑しておらず、給油の後結局駅に戻ったのは19時15分頃。レンタカーを返却し、売店で夕食を買い求めて19時31分発の丹波路快速に乗る。
先に書いたように、昨年のおおい町での試合も終盤に投手陣が崩れて福井は大敗、前期優勝がするりと逃げて行ったが、今年は9回表に4点差を逆転され、後期優勝を目前にして首位陥落となった。たまたま2年続けて乱戦を観たわけだが、何かあるんじゃないかと思わせる。最後にどういう結果になるか、これも注目したいものである・・・・。