「お散歩だんらんの会」の「江戸っ子下町散歩」も荒川放水路を渡って葛飾区から墨田区へ。鐘ヶ淵の商店街に入る。
いきなり出迎えてくれたのは昔ながらの帽子屋さん。海釣帽、町会帽など、これでもかといわんばかりの帽子一本勝負。カワハギ釣り同好会の「剥」の一字の帽子がりりしい。何かこう、追剥をイメージさせるというか、よく外国人向けの店でよくわからん漢字をデザインした帽子やTシャツが売られているのに似ているというか。
「奥様公認の店」とある看板も立つ(安くて明朗会計、浮気の心配もないってことでしょうな)居酒屋も見ながら、旅の侍さんの先導でどんどんと細い道に入る。小さいながらも地元の人たち相手に商売が成り立っているのだろう。
そんな中、コーヒーブレイクということで訪れたのが「カフェ・エフォート」。町屋を改装したような風情のこじゃれた喫茶店である。
ここの売りは「水出しコーヒー」という。「水出しコーヒー」、何だか引かれるなということでそれぞれホットやらアイスやらを注文。確かに出されたコーヒーはいつも飲むようなあっさりしたものではなく、味が濃いというか、グッと凝縮された感じ。コーヒーの違いがわからない私ですら、いつもとは違う何かがあるなと思わせるものであった。
さて、「水出し」とはどういうことだろうか。特殊な水を使っているのか、豆が違うのかどうか。メンバーの皆さんも「そういえば・・・」ということで結構話になる。そこで、マスターを呼んでそこのところの話を聞いてみることに。
普通にコーヒーを入れるのなら湯を使うことでそのほうが早く入れることができるが、この「水出し」は常温の水を使用して、8時間かけてゆっくりと抽出するとか。そうすることで加熱や冷却による味の変化もなく、豆の本来のうまみ成分をじっくりと引き出せるという。大胆にも、ちょうど「水出し」中の容器を出していただいての解説である。
解説を聞くうちに、何だかこれって日本酒の醸造にも似た感じがするし、ビールならまさに「一番搾り生」だろう。そら美味いわ。ちなみにここでの私のコーヒー代、旅の侍さんにおごっていただきました。ありがとうございます。
この時期は日暮れも早く、そろそろ暗くなる中差し掛かったのが玉ノ井いろは通り。まさにかつての墨東綺譚、昔ながらの賑わいを思わせる商店街である。
その中にあって、「これは何?」と思わせる植物。見た目はアサガオ。それにしても秋にアサガオはないよな。おまけに木になっているし・・・。ちょうど交番の前に植わっており、まさにAPEC開催中で厳戒ムードの警官にメンバーが声をかけてみると、話好きそうな、いかにも「下町のお巡りさん」という人が出てきて、「これはエンゼルトランペット。今ぐらいのシーズンに咲く花で、ちょうどこのくらいの時間から花を咲かせて結構臭い(匂い?)を出すんですよ。まるで夜の町の女性みたいね」と言う。
ただ、メンバーによっては「結構この臭い来るよ!」という人と、「全然わからな~い」という人とが綺麗に分かれる。ちなみに女性メンバーは臭い分からず、分かったのはアラフィフの男性2人だけだったから、これって性別、年齢によって何か因果関係あるんだろうか。もっとも、アラフィフの一人の男性メンバーが後で言うには、女性メンバーのヘアスプレーの香りを花の臭いと勘違いしていたというのだから、ホンマにどうなんだか・・・。ちなみにこのエンゼルトランペット、漢字では「朝鮮木立朝顔」というそうな。
ここで今回のゴールとなる東向島駅を一度通過し、向島百花園から鳩の街通り商店街へ。すっかり暗くなり、今度は商店街から洩れる灯りを楽しみに歩く。昔ながらの商店や惣菜を売る店があったかと思えば、昔の長屋を改装した喫茶店とか、靴下をリサイクルして人形をつくろうかというような店があったり、ペット同伴可能のカフェがあったり、結構変わった売り物の商店が目立つ。空き店舗の活用方法だろうが、若い人たちが活き活きして商売しているのを見るのは悪くない。
そんな中、「鈴木荘」の二階に怪しげな影。これはライブハウスか?それとも怪しげなパーティーでも行っているのか?とメンバー一同ギョッとする。
実はこれ、家屋を利用したアートなのだという。NPOが主催するところの「墨東まち見世2010」というイベントがあり、その一環として光の芸術家である池田光宏さんの「by the Window "墨東バージョン"」という作品を、実際の家屋を使って展示上映しているのだという。
家の窓に浮かぶ影絵。これは映像を撮影したものを幻影として窓ガラスに上映しているもので、窓の向こうに本当に人間がいるかのような効果を持つ。まさに不思議な光景である。池田氏本人も路上に出て作品の紹介をしており、そこは会主・旅の侍さんが「取材」を試みていた。池田氏も数々の現代アート展覧会に出展しているが(昨年の「水都大阪2009」にも参加していたらしい)、こんな形で作品に接することができるとは。これからも活躍が楽しみである。
この辺りの東武線の駅区間はごく短く、最後は曳舟駅に到着。ここで今回のお散歩は終了となり、一旦解散。ただここで私を含め6人が残り、散歩の後の二次会ということで再び東向島駅まで歩く。
向かったのは、東武のガード下にある秋田料理店「酒呑童子」。この日は仕事の都合で参加していなかったが、メンバーの中に秋田にご縁のある方がいて、もし仕事帰りで顔を出してもらえれば・・・ということで、土曜日の夜ということもあり予約していたのだという。もっとも土曜日であるがさほど混んでおらず、むしろ平日のほうが賑わうのかなという店である。
ヒノキだろうか、巨大な木をそのままくり抜いたテーブルを囲む。秋田料理ということだが、「秋田料理とは何ぞや?」ということでメンバーもやや戸惑う様子で、ならばとそちら系統のメニューをあれこれ注文する。やはりハタハタときりたんぽがツートップである。ハタハタ・・・先日鳥取で食べることがあり、最近の水揚げはむしろ秋田を上回る勢いで「ハタハタ=鳥取?」というイメージに傾いていたのだが、ここで出された塩焼きは大きく、卵もたっぷりと乗った豪快なもの(写真撮るのを忘れた)。いや~、やはりハタハタは秋田のもんやな。
秋田といえば美味い米を使った日本酒のイメージが強いが、酒好きのメンバーのツボにはまったのは米焼酎「なまはげ」。「純米がないから」という消極的理由で米焼酎を注文したところ、「これは飲みやすい」と絶賛。これには、途中メールを送った秋田好きメンバーも「じゃんじゃん飲んで」とお喜びの様子。
人数もいることからきりたんぽ鍋にしょっつる鍋をダブルで注文することもでき、まさに上機嫌。初参加の方もアラフィフ談義に大いに花を咲かせ、しっかりと溶け込んでくださったのが喜ばしい。私も、こういう仲間同士のつながりや楽しさがあるからわざわざ関西から遠征するだけの(とはいっても半年に一度のペースだけど)面白さがあると思っている。
さて、こういう時間はあっという間に過ぎ、明日朝早いから・・というメンバーが出たところからお開きとする。墨東か・・・また酒を飲みに来てもいいなと思わせるエリアである。
ここで東武線両方向に別れて解散。結局旅の侍さんと今夜の宿泊地である浅草までご一緒した。
地下鉄駅で別れ、再び一人旅モードに。ふと吾妻橋に出て、夜空にそびえるスカイツリーを改めて眺める。こちら側から見ると結構近代的な風景に見えるのが面白い。しばし隅田川の夜風に吹かれる。
・・・・と思うのもつかの間、急いで横断歩道を渡り向かったのは「台東区浅草1丁目1番1号」。そう、神谷バーである。
せっかくこちらまで来たのだからと、久しぶりにデンキブランを味わうことにする。時刻は21時20分、間もなくオーダーストップという時間帯。食券売り場でデンキブラン2杯分を注文。
この時間でも大人の社交場としての賑わいを見せる神谷バー、「ビールをチェイサーにして飲む」デンキブランである。決して辛くなく、甘いような旨いような微妙な味わいを楽しむ。今日出会った仲間たち、そしてかつてここでテーブルを囲んだ仲間たちのことを思い出しながら、やや駆け込みではあったがこれも下町の一こまとして味わう・・・。
今回の散歩、決してガイドブックに載るようなスポットではないが、下町にあってそれぞれの地域を活性化させようと頑張っている人たちの姿、そして若い人たちが自己表現の舞台として選んだ商店街の活性化の可能性、決して「街中の商店街はさびれる一方だ」というワンパターンの論調だけで語られるものではないということを感じた。私としても昔ながらの商店街を見直すというのかな、じっくり歩いてみれば面白いなと思う。そして、決して内輪だけにとどまらず、どんな人でも受け入れる東京という都市の多様性(関西には足りない部分だと思う)。その面白さを感じさせてくれる「お散歩だんらんの会」の存在。いろいろと思うところがあった。
ぜひまた、違った墨東綺譚を味わいたいものである・・・・。