11月26日、金沢から乗車した「サロンカーなにわ」も敦賀まで走り、いよいよ新大阪までの終盤である。もっとも、敦賀の発車は17時19分だったが、新大阪着は20時14分。この先は湖西線を経由するのだが、特急なら1時間10分~20分、新快速で2時間のところ、所要時間3時間である。途中駅での列車退避の待ち時間が多いためだが、少しでも長く「サロンカーなにわ」の風情に浸ってほしいというクラブツーリズム鉄道部の思いもあるのかな。
敦賀を発車した後に通るのが、北陸線上りの鳩原(はつはら)ループ線。1957年の北陸本線新鮮として建設されたところである。乗務しているJR西日本のレジェンド・長尾車掌からループ線の案内がある。ループ線を上る途中、進行方向左手には、先ほどいた敦賀の市街地の景色を眺めることができることでも知られている。日が落ちた後の時間帯、私が座っていたのとは反対側の車窓となるが敦賀の夜景が広がっていたことだろう。
長尾車掌の案内だと(画像は、車内イベントのじゃんけん大会のシーン)、日本にはループ線が6ヶ所あるという。その一つがこの北陸線の鳩原ループ線。あとの5ヶ所はどこかというところだが・・・私が思い浮かべたのは肥薩線の大畑ループ線(肥薩線は現在長期運休中で、果たして大畑ループを列車が走る日は来るのやら)、上越線の湯檜曾ループ線、松川ループ線、そして予土線と土佐くろしお鉄道が分岐する川奥ループ線だが、あと1ヶ所は・・・おろちループ?? 違うか。
湖西線に入ると、長尾車掌から琵琶湖を月明かりが照らしているとの案内が入る。反対側なので見ることはできないのだが、秋晴れに恵まれた1日、琵琶湖にも月明かりが映えることだろう。トワイライトからムーンライトへの移り変わりだ。ムーンライトか・・・かつて各地を走っていた夜行快速列車の名前だったは。その代表格は「大垣夜行」こと「ムーンライトながら」だが、大阪出身の私とすれば、「ムーンライト山陽」、「ムーンライト九州」、「ムーンライト八重垣」、「ムーンライト高知」などがなじみである。青春18きっぷに指定席券をプラスするだけで利用したのも懐かしい。
この「サロンカーなにわ」だが、夜行列車としての運用も想定されていたそうである。そのために高速バスを意識した3列シートを採用したという。そしてこのツアーにおいて、車内の消灯、そして翌朝の再点灯という夜行列車ならではの場面を、長尾車掌による「おやすみ放送」、「おはよう放送」とともに演出するという。
「トワイライトエクスプレス」の札幌行きをイメージした「おやすみ放送」が流れ、車内が消灯される。長尾車掌の落ち着いた語り口がよい。「クロスオーバーイレブン」の津嘉山正種さん、「ジェットストリーム」の城達也さんとまではいかないにせよ、夜の雰囲気を演出している。
そして約10分後、長尾車掌による「おはよう放送」が流れる。外は真っ暗なのだが、そこは日の出が遅い冬の時季をイメージする。そしてふたたび車内が明るくなる。こうした演出ができるのも新大阪行きの復路ならではである。申し込んだ当初は、後半暗い中を走って外が見えないので退屈になるかなと懸念していたが、むしろこうした演出の復路を予約してよかったと思う。客室内からも「たまらんわ~」といった雰囲気がにじみ出ていたし、隣の東京からの男性も感激の様子。
おごと温泉に運転停車。この停車時間中、最後尾・5号車の展望室の利用時間となる。5号車には車掌室があるが、長尾車掌が「どうぞどうぞ」と中の撮影を勧める。車内で流れる「ハイケンスのセレナーデ」の音源もここにある。
展望室には先ほどと同じような顔ぶれが集結する。同じ展望車形式のスロフ14だが、先ほど利用した1号車とは違って、車両の半分は一般客室で、同じようなリクライニングシートが並ぶため、展望室のスペースとしては小ぶりである。
おごと温泉を出発。写真はきれいに撮れないのだが、大津から京都にかけての区間を快走し、すれ違う列車のテールランプを追いかける。ほんの少しの時間、夜汽車の風情を追体験する。
東海道線と合流し、京都に到着したところで展望車両の交代時間となった。同じように、無人の展望車両を2~3枚撮影する一時があった。ホームには多くの人たちが「サロンカーなにわ」目当てに集まっていたようだ。2分停車ですぐに発車するが、5号車車掌室から長尾車掌がホームにいた人たちに手を振って別れを惜しんでいた。
京都まで来れば新大阪までは30分かからない距離だが、途中の山﨑で36分運転停車する。19時台といえば夕方の列車本数の多い時間帯で、臨時列車はその間を縫っての走行となる。
この時間、サプライズ企画ということで、もう一度夜行列車の疑似体験として減光、消灯が行われた。「おかわり」じたいはよいとして、やはり走行中の消灯とはちょっと違うなと思う。夜行列車というよりは、途中のサービスエリアで乗務員の休憩のため1時間くらい停車している夜行バスに近いものを感じた。夜の乗り物、途中で長く停まっているのに反応して目が覚めるという、あのパターンである。
それはさておき、再点灯後もまだ停車時間があることから、クラブツーリズム鉄道部からの挨拶、今後のツアー告知があった。クラブツーリズム鉄道部としてはこれまでJR東日本、あるいは親会社である近鉄を利用した鉄道ツアーの実績をあげてきたが、JR西日本エリアではライバルの日本旅行が食い込んでいる関係で、なかなかツアーを企画できなかったたそうだ。
この「サロンカーなにわ」に乗車するツアーも、これまで日本旅行が独占する形で食い込めなかったという。その中で、長年にわたらさまざまな方向からのアプローチを続けた結果、ようやくこの10月のツアーで、最後の北陸線を舞台に実現にこぎつけたという。これをきっかけに、西日本でも今後さまざまな企画をやっていきたいという。西日本エリアなら私もまだ参加しやすいので、これからも情報をチェックするとしよう。
山崎を出発し、長い旅もラストスパートとなる。
20時14分、新大阪到着。6時間あまりの長旅を終え、列車はしばらく停車後、回送される。ホームには乗客のほかに、あらかじめ待ち構えていた人たちが一斉に集まる。
「サロンカーなにわ」は製造からちょうど40周年。北陸線での運行はこれで最後だろうが、客車じたいの引退の話は出ていないようで、もうしばらくは西日本のあちらこちらで走る姿を見ることができそうだ。今回、「サロンカーなにわ」は最初で最後かな・・という思いで乗車したのだが、またチャンスがあれば乗ってみたい。何せ「客車列車」そのものに乗車する機会がごく限られたものになっているし・・。
車内で隣だった東京江戸川からの男性はこの後夜行バスで東京に戻るそうで、先ほど車内の洗面台で髭を剃ったという。夜行バス2連発、きつかろうがどうぞご無事で。そして私は、この時間ならまだバリバリ走っている山陽新幹線で広島に戻る。そう遅くないうちに帰宅できそうだ。
次に北陸に行く時は同じ鉄道でもずいぶん違った感覚になるだろう。それはそれで楽しみ。久しぶりに富山県、新潟県にも足を踏み入れたい・・・。