通常国会が始まってしばらく経つが、やれ政治とカネの関係がどうの、閣僚の不適切な経理処理や失言がどうので、ちっとも建設的な議論が進む気配がない。もちろん、政治家の倫理を質すというのは国会の仕事なのかもしれないが、与野党の議論がかみ合っていないために、いろんな課題が置き去りにされている。教育改革、格差是正、国防問題、近隣外交、年金問題・・・。いずれも議論を避けてはならないものである。それを、議員の足の引っ張り合いで終始してどうするのか。結局、国民が置き去りにされているのである。政治家のスキャンダルよりもっと深刻な問題はいくらでもあるのになあ・・・。
と、こんな気持ちでいるわけだが、このところ都市と地方の格差と、地方自治のあり方というのがさまざまなところで問われている。大規模な合併の動きもその中に含まれる。夕張市をはじめとして、財政的に破綻を来たしている自治体があるかと思えば、談合政治、与野党の馴れ合い政治にNOを突きつけられて辞任やら逮捕される知事、そしてその後に誕生した東国原知事のような新しい風・・・・。自治体は自治体で大きく揺れている。
「急成長する町 淘汰される町 全市町村の5年後10年後」 佐貫利雄著、大和書房刊。
長年に渡り都市の盛衰を「人口」をキーとしてデータ的に分析してきた著者の一冊である。日本の全市町村の人口動向をデータ化し、その動向や増加率を取りまとめたものである。そして、その増加・減少率によって、「急成長」「成長」「停滞」「衰退」「自然淘汰」の5段階評価を加えたというものである。「自然淘汰」という言葉にインパクトがあったために購入したようなものである。
著者は「まえがき」でこう書いている。
・・・ここで改めて浮き彫りになったのが、「少子高齢化」と「東京一極集中」である。このために、地方の多くの都市で地盤沈下が加速し、自体は「衰退」よりさらに深刻な「自然淘汰」へと進んでいる。すなわち、このままでは数年後に消滅するおそれのある都市が少なくないのである。これは、県庁所在地も例外ではない。(中略)現象として明確に現れているのは、都市間の大きな較差であり、しかもその格差は拡大するばかりだ・・・。
このことはこれまでも多くの人が報道などで実感していることと思うが、改めて「人口」というものをキーワードにしてそれを裏付けたようなものである。最近の「都心回帰」による東京都市部の人口増加、あるいは成長産業で景気のより地域の人口増加の一方で、過疎に苦しむ地方、それは産業がなかったり、交通の便に恵まれていない地域での人口減少というものについて、都道府県ごとに解説している。その中では、地方の県庁所在地の市ですら、「自然淘汰」に属するところもあり、県単位で淘汰されてしまうのではないかという警鐘も鳴らしている。「勝ち組」と「負け組」の発生、それによる格差の広がりというものを、数字が物語っている。
氏の理論では、仮に観光地や伝統工業で有名な歴史的な町であっても、「観光ではメシは食えない」とバッサリ斬って捨てるような、徹底した現実主義に基づいている。確かに、誰もが知っている観光地でも、人口減少が見られるところが多い。
そうかと思えば、地方の活性化には「公共事業を行う」とか「空港、新幹線、高速道路を整備すべきだ」という「提案」が目立つ。確かに都市インフラを整え、それで成長産業の工場なりを誘致するという考えも一理あるのだが、今は「公共事業」とか「新たな交通網」は、赤字を垂れ流すだけだとして一般世論のウケは悪い。そのところをもっと計画的・効率よくやれというのがホンネなのだろうが・・・。
まあ、こうした「提案」は一つの意見として読むのがよい。それ以上に、現在の日本の「実情」というものを読む一つの資料としては、なかなかに面白い。合併合併を繰り返した結果の、現在の市町村の名前も全て載っているのもよい。いつの間にか知らない名前の自治体が増えているし、勉強になる。
さて、あなたの住んでいる市区町村の「成長度」は、どのランクに入っているでしょうか・・・・?