城崎温泉から山陰線の気動車で西へ。気動車といっても最近は性能の良い、外観もステンレスの鮮やかな車両が多く出ており、これなら「電車」といってもおかしくないというものもあるのだが、現在乗っているキハ47は国鉄の風情を残す車両。エンジン音も高らかに、しかしのんびり走る図は「ローカル線に来たな」と思わせる。
北前船の寄港地で資料館もある竹野を過ぎ、トンネルの合間にチラリと日本海が見える。雨は上がったがどんよりとした雲が広がっており、まるで冬の車窓である。
香住、鎧を過ぎ、トンネルに入る。トンネルの中でそろそろ速度が落ちてきたなと思うと、ふっと空中へ放り出される感触。そう、餘部鉄橋である。
鉄橋をゆっくりと渡る間、乗客の目は外に向けられ、立ち上がって下をのぞき込んだり、カメラを向けたりする。やはりここは多くの人が注目するところである。
鉄橋を渡ると餘部駅到着。ここで何人かの乗客(ほとんどが「その筋」の人たち)とともに下車する。
餘部鉄橋といえばご案内のとおり、老朽化に伴う架け替え工事が2010年の完成を目指して進められている。私は工事が始まる前の2007年に最後の「原型」を見物に来て以来の訪問となるが、現在の工事の具合と、それにより景観がどのようになっているのかを見に来たというわけだ(写真は2007年撮影のもの)。
餘部駅はその工事の真っ最中。ホームにはフェンスが張られ、山側は全く行けなくなっている。ちょうど山側に新たなコンクリートの橋脚が出来上がりつつあるところである。餘部鉄橋の撮影ポイントであった丘も削り取られているのだろうか。となれば、新しい橋が出来た後は、あのアングルでの写真というのは産まれなくなるということか。
ともかく、橋の下に行ってみよう。従来はいったん山側の斜面を下りて、線路の下をくぐっていたのだが、現在は踏切(工事現場の警備員が警戒中)を渡り、海側の斜面を下りる道ができている。
途中で元の道に合流する。この角度で鉄橋を眺めるが、コンクリートの橋脚や、その上の重機が目に付く。それはそれで豪快な光景で、そういう筋の人には面白い光景に見えるんだろうな。私も、この時しか見ることのできない建設中の光景はしっかりと目に焼き付けておこうと思う。
それにしても、この新しい橋脚を見るにつけ、全国のあちこちで見られる道路の建設現場と変わらないな、と思う。やはり完成した暁には、高速道路の高架橋が伸びているような風景になるのだろう。電化区間なら架線があるのでまだ鉄道とわかるが、非電化区間だし・・・。
餘部鉄橋の架け替えについては賛否両論あった話だが、忘れてはならないのは1986年に起きた列車転落事故。この事故がきっかけで改めて安全性と定時性の確保が課題として浮き彫りになり、架け替えのきっかけにつながったといってもよい。今、事故現場に立つ観音像の前に立ってみて、事故で亡くなった方やご遺族はこの架け替えをどう見守っているのかなと考える。
その観音像の脇に駅の時刻表がある。そこには間もなく大阪からの特急「はまかぜ1号」が通過するという。別のところに移動するだけの時間がなかったため、鉄橋のほぼ真下から見上げるアングルでカメラを構える。青空に映える、とは行かなかったが迫力のある光景である。渡るだけでなく、見上げる楽しさ。それが餘部鉄橋にはある。
少し山側に小屋を見つける。そこにはスタンプ台が置かれ、餘部鉄橋関連のグッズなどの無人販売が行われていた。写真や図録に交じり、珍しいところでは「餘部鉄橋のボルト(なぜか合格祈願グッズになっていた)」や、「餘部鉄橋のサビ」なんてのもある。まるで形見分けのようだ。
こうして遠くから見ると、やはり妙な光景である。橋脚の一部保存という話もあるようで歴史を語り継ぐものは残されるということで、その時はまたどのような表情を見せるのかまた見に来たいものである。あ、その前に青空と赤い橋脚のコントラストも見たいものだが・・・。
さて今日はここで折り返すことにする。城崎温泉行きの列車に乗り、もう一度車窓から鉄橋を眺める。やはり何度来ても印象に残るところである。
香住駅に到着。ここでは特急「はまかぜ4号」に道を譲る。先ほど撮影した列車が浜坂で折り返したものである。ふと、「気動車特急に乗ってみたいな」と出来心が生じた。餘部鉄橋の架け替えとなると、それを潮に国鉄型のキハ181系の引退も予想される(いまや全国でこの列車だけ)。となれば、今のうちに乗っておくのがよいだろう。青春18の効力がなくなり全額正規料金支払いになることを承知でホームを移る。
自由席はガラガラ。ちょうど座ったところの下にエンジンがあるようで、発車時の轟音と振動がモロに伝わってくる。そう、これも昔懐かしい(といっても気動車の特急はほとんど乗ったことなかったのだが)走りである。最初は豊岡か和田山あたりまで乗ろうかと思ったが、思い切って播但線もこのまま突き進むことにして、車内で姫路までの乗車券と自由席特急券を購入。3500円あまりの追加となったがこれもいいだろう。
豊岡で自由席が半分くらいの乗車率となり、和田山から播但線へ。この線を通過するのも久しぶりである。生野の深い峠をエンジン音高らかにかけるのも、鈍行列車とはまた違った味わいがある。沿線には三脚を立てた人の姿もちらほらと見かける。
沿線には播但線の全線電化を願う看板も立てられているが、生野の峠を越えるトンネルが小さく、架線が引けないという話を聞いたことがある。まあ、気動車特急も最近は高性能の車両が登場しているから、特に電化にこだわることもないと思うのだが・・・。
但馬から播磨に出るにつれ、空も明るくなってきた。姫路の市街地にさしかかり、このアングルで姫路城を見る。やはり存在感があるなあ・・・。
一昔前とはすっかり様子が変わった姫路に到着。ここで「はまかぜ4号」を見送り、気動車特急の旅を終える。後は新快速に乗り換え、まだ日が暮れる前だが尼崎まで戻ることにする。
夏の青春18きっぷの旅。関西に戻ったこともあるため、時間が取れれば山陰・山陽を中心としたところが回れればなと思う。今回はその序盤というわけではないが、ローカル線の風情を少しでも楽しむことができてなかなか有意義だったことである・・・。