「日本のマチュピチュ」というキャッチコピーがつき、今の日本で最大級に熱い観光地になっているところの一つが、但馬は朝来市にある竹田城である。
もちろん城自体は昔からあったものだが、最近になって誰が最初に言い出したか「天空の城」という名前で一気にブームとなり、地元にとどまらず全国的に有名になった。
有名になった要因は秋から発生する雲海もそうだが、「にわかに注目を集め、大混雑している」という混雑ぶりも、人が人を呼んで拍車をかけているようだ。山城の中腹に駐車場はあるのだが、とてもそれでは捌ききれないという。
そんな過熱ぶりや、後はネットでも見られる雲海の景色・・・、混雑しているとはわかっていても、一度どのようなものか見てみたいという気持ちになっていた。
そんなある日、このブログでも登場人物として出てくる鈍な支障さんが、ドライブで鳥取まで行ったというメールが来た。鳥取か・・・1泊のドライブとしては手頃な距離だし、あちこち立ち寄りながらというのも面白そうである。それに触発されて、鉄道の日記念の西日本一日乗り放題きっぷを利用して山陰方面に行こうかと思った。
ただそこで出てくるのが竹田城である。播但線に乗れば竹田城の麓を通過するし、何だか避けて通るのももったいないように思えた。ただ竹田城の魅力は早朝の雲海にもあると言えるし、なかなか難しいものである。結局、宿泊も鳥取ではなくその手前の香住として、その他に観光地も絡めることとして、竹田城は早朝のなるべく早い時間帯にクルマで出かけるとしよう。いくら混雑しているとはいっても、朝の5時とか6時に現地に着くように出発すれば大丈夫だろう・・・。こうなると、単なる見学というよりは「攻略!」という言葉が似合ってくる。
竹田城自体は24時間開放されている。それまでは無料で入ることができたのだが、この10月からは史跡保全等の目的で入場料300円徴収することとなった。急激に増えた観光客のために、石垣の一部等に崩落の危険性が出てくるなど、観光客も含めて保全に向けた取り組みが必要になってきたところである。ただ、城自体は通常期は24時間開放しているという。とすると、深夜早朝に入場料を取るという行為が発生するわけか。受け入れ側も大変である。
ちょうど10月の世間でいうところの3連休。その中日の未明に出発。阪神高速と中国道、そして播但道を走って和田山インターに到着。ここから少し戻ると竹田城の北から西にかけてのルートに出る。竹田城近辺に到着したのが早朝5時前。外はまだ真っ暗である。
ところがどうだろう、竹田城の案内矢印を見ながら来ると、こんな時間にどこから現れたのかというくらいの数のクルマである。斜面の上に続く道に向かって駐車場の案内矢印があるが、そこに上がるのも大渋滞である。周りのクルマはといえば、駐車場の列に加わるのを早々にあきらめ、先ほど通った播但道の高架橋の下とか、あるいはその辺の農道の両側に停めようとする。街灯も何もなく、それぞれのクルマのライトが頼りである。やむを得ず私も前のクルマに続いて農道のほうに向かい、そこで1台分縦列で停められるスペースを見つけた。
周りからもゾロゾロと人が出てきて、中には防寒対策バッチリのフル装備の人もいる。そうかと思えば半袖の軽装姿のカップルもいたり、とにかくさまざまな層の客が城を目指す。上空はオリオン座をはじめとしたいろいろな星が見える。暗い中、他の人の影を頼りに山上を目指すが、こういう楽しみ方があるのかと新鮮な感じである。
坂道を15分ほど上がったところにある休憩所の山城の郷に停めるクルマも多いが、そこに入るのも行列である。いよいよこの先は登山道として道幅も狭くなる。この時点で先に上がろうとするクルマは山城の郷でガードマンに静止されていた。おそらく上に行けば余計に混雑するだろうから。
山城の郷からも舗装された道が続き、そこを大勢の人が歩く。少しずつ空が白々としてきた。話し声も結構響く。下のあぜ道の路肩に駐車した人も結構いることだろう。すでに40分ほど上っている。途中に駐車場が一つ、そしてその先には最高点となる駐車場がある。
ただ、その駐車場にたどり着くのに、どのくらい時間がかかるかがはっきりしない。堪えきれずに路肩に停めたり(それらに対して駐車違反のキップは切らなかったようだ)、あるいは道の真ん中に停めているクルマも多い。一方通行なので前後のクルマに挟まれて身動きが取れないようだ。どうせ2~3時間は待つだろうとシートを倒して本格的に睡眠モードになっている人、運転席と助手席に毛布を広げ、その中でくっつくようにしているカップル、5時台の山上でこの賑わいである。早い時間、あるいは前の晩から竹田城に近づき、途中で車中泊をするくらいでなければ、絶好のタイミングで雲海を見るということにつながらないのだろう。恐るべき執念である。
そして中腹の駐車場に到達。クルマはここまでで、後は山道を歩くことになる。この駐車場に停める人はおそらく前日から乗り込んでここで一泊ということだろう。それはいいのだが、朝の5時半過ぎで駐車場には二重の大行列ができていた。入口で入場料を支払うのを待つ行列である。私が列に加わった後もあっという間に人が増え、駐車場の外まで行列が伸びた。その間に日は昇ったようで、城の上から日の出を見るということはなくなった。後は雲海がどうだろうか。
30分以上並んでようやく入場口へ。ここで300円を支払い山道へ。途中までは舗装された坂道だが、そんなにしんどいということはない。
途中で朝日と、わずかながらの雲を見る。雲海というよりは雲の水たまりかな。
途中からは木の階段。上がる人、下りてくる人がすれ違う。そしてようやく城内に入る。櫓も天守の建物もなく、石垣が並ぶところだが、その上には写真を撮る人たちがズラリと並ぶ。
やはり、噂どおりの素晴らしさ。時間をかけてやってきた甲斐があった。
ところどころに立ち入り禁止のロープが張られており、損壊の恐れがあるというのは本当のところだろう。入場料を取るというのは当然というところで、300円なら安いもの。500円でもいいくらいの眺めである。
城の周りに雲海が広がる・・・とはいかなかったが、自然現象であれば仕方ないだろう。遠くに広がっているのが見られただけ、よしとする。
眺めに満足して来た道を歩いて引き返す。入場待ちの列はさらに伸びている。来た時に駐車もできず引き返すこともできず立ち往生しているクルマはそのままで、ドライバーも降りるわけにはいかず車内で虚ろな表情を見せている。上までクルマで上がるよりは、下に停めて歩いて上がったほうが早かったということになる。
中腹の駐車場がこのような状態なので、下の山城の郷では警備員が出て、やってきた車両をここに流すようにしていた。ただ、その山城の郷に入るための行列も伸びている。私が停めた下のあぜ道の両側にもクルマがびっしりと並んでおり、そのエリアは広がっている。警察も混雑にはお手上げのようで、駐禁を切るわけにもいかず「地元の人たちの迷惑にならないよう注意してください」と呼びかけてクルマを整理するしかないといったところ。私もこの先に向かうべくクルマを出したが、数百メートル先までもクルマの列が並び、そこからトボトボと歩いてくる人を見る。年配のご夫婦から「お城ってどこまで歩くんですか?」と聞かれたので山のほうを指さすと呆れた顔をしていた。
シーズン中の日中にはシャトルバスを走らせるという話もあるし、駐車場の問題は以前から言われていたが、ここまでのものとは思わなかった。これは、ひょっとしたら数年先にはこのあたりの田んぼの何枚かが駐車場に変わっていたりして。
まだ朝の8時だが、ふた仕事くらいやったかのような感じでこれから国道を北上する・・・。