酒田駅から羽越線の旅を「きらきらうえつ」で送ることにする。ホームには既に星をあしらった車体が姿を見せており、喜びいさむように車内へ。広く取られた窓にリクライニングシート、中ほどの2号車はラウンジ車両に売店を備えている。
全車指定のこの列車、当てられたのが1号車だが、座席の周りを団体が取り囲むような形になったので敬遠し、酒田出発時から2号車のラウンジに陣取る。普通の車両より座高が高く、また窓も広く取られているので展望はよい。
酒田の駅を出て、先ほど通った最上川橋梁を渡る。橋の手前では極端に減速し、ソロソロと川を渡る。ちょうど半年前の脱線事故も川面を流れる強風が原因だった可能性が高いということで、JRとして取れる最も安全な策がこの減速ということになる。ふと見ると献花台に多くの花が手向けられていた。
橋梁を過ぎるとぐんとスピードを上げる。まずは最初の「きらきら」どころ、庄内の広大な田園地帯を走る。今は田植えが済んで苗が大きくなるのを待つ時期だが、これが秋になるとこの一帯が黄金色に輝くことになる。まさに「きらきらうえつ」。
この秋の恵みを期待しつつ、舌のほうは「米の恵みよありがたや」を味わおうということで、ラウンジ横の売店へ。ここで見つけたのが「銘酒飲み比べセット」。いくつかある銘酒の中から3種類を選ぶもの。そこで、「羽前ノ雪」、「大洋盛」、そして「越乃寒梅」をセレクト。ちょうどこの列車の走る「羽越」にまたがる銘酒揃い。
そうするうちに日本海に出た。ちょうど太陽が西の空におり、海面を照らす。その光が車内にも差し込み、こちらも「きらきらうえつ」。なるほど「きらきら」は日本海と庄内の米どころを指すのだと感心。天候に恵まれた旅である。
ただ残念なのは、途中で減速するとか、観光停車するというのがないこと。この手の列車はたいてい単線のローカル線を走ることが多いのだが、この羽越線は一見列車が少ないように見えて貨物列車が数多く走るし、複線区間も入り混じる幹線である。そんなわけで、普通の快速列車並みのスピードで海岸区間を走りぬける。
ラウンジにも団体客がやってきて騒がしくなったので、最後部の展望座席に引っ越す。海側に面してベンチシートがあり、大きな窓を流れる車窓と、女性車掌のきびきびした動作を見ることができる。普通の快速列車並みのスピードとはいうが、普通の列車を利用するのとはまた違った車窓の展開である。旅行記のあちこちにも「乗ってよかった」と記されるのもうなづける。
本当は終点まで乗っていたかったのだが、新潟県に入り、山北町は桑川という駅で下車する。名勝笹川流れの遊覧船の最寄駅でもあるが、漁港というよりは、海水浴客目当ての民宿の看板が目立つ小さな町。実はこの旅の宿泊地を決めるにあたって、「海に面した宿」というのがあった。その中で目についたのがこの桑川である。