
阿波池田の町歩きを終えて、徳島行きの列車に乗る。途中の穴吹まではワンマン運行、穴吹からは車掌が乗るという。この列車、8月の第2回の時に、第10番の切幡寺から阿波川島駅まで歩いた後に乗ったのと同じ便である。夕方になって、ようやく前の行程とつながることになる。


伊予街道の国道192号線、そして吉野川に沿って走る。阿波池田から1時間20分あまりで鴨島に到着する。まだ16時前だが、この日の行程は終わりで、ここで宿泊である。ようやく、今回の目的地である「徳島の」藤井寺最寄りの駅に着いた。ここは駅員のいる時間が限られていて、この時間はもう不在だった。構内に小型のセブンイレブンが入っている。
鴨島は第11番の藤井寺、そしてその後の第12番の焼山寺に続く「遍路ころがし」という坂道の玄関駅で、これらを歩いて踏破するベースキャンプのような位置づけとなっている。遍路ころがしに挑む前の日はここで泊まり、体調を整えて翌朝早くに出発していく人が多いそうだ。

駅前のロータリーには、歩き遍路を歓迎するかのような案内板がある。弘法大師も歩いた道として、切幡寺~藤井寺、そして藤井寺~焼山寺のルート図が表示されている。

その後ろには、「ノンキナトウサン」と書かれた記念碑らしきものがある。円の中には親父の絵。後で検索したところでは、曽我廼家五九郎という、明治から大正にかけて活躍した喜劇俳優を記念したものである。鴨島出身で、「ノンキナトウサン」というのは、主演映画の役名だとか。キャラクター的にデザインされることから親しまれた存在だったのかな。

この日の宿は、駅から5分ほど歩いて国道192号線との交差点にあるビジネスホテルアクセス鴨島。駅から藤井寺への道の途中にある。寺には、明日11日の朝イチにここから行くつもりだ。ホテルも四角い建物ではなく、小洒落たアパートみたいな外観である。少し早いがチェックインして、部屋でしばらく休憩。

そろそろ夕方となり、再び駅前に戻る。別に列車に乗るわけではなく、ここで夕食である。国道沿いにいろいろ店が集まり、駅前のほうがひっそりしているのだが、「あじろ」という店に入る。家族経営の店のようだ。
まだ客が少ない時間とあり、カウンター席に座ると主人が話しかけてくる。
「旅行ですか?」
「ええ、まあ一応寺めぐりということで・・・」
「そうですか。明日は焼山寺まで上るんですか?」
「いや、明日は藤井寺だけで・・・市内のほうに行って、家に帰らなければならないので・・・(本当は、明日は鳴門で四国アイランドリーグ観戦なのだが、市内のほうに行くのは一緒だから、嘘は言っていない)」


ここは豆腐料理が自慢の一つのようで、いただいたのは味噌田楽や、豆腐をベースにした「とうふたこ焼き」をいただく。たこ焼きは中に具材も詰まっていて、ソースもよく合っている。

他には、阿波牛のイリカス。要はホルモン炒めだが、油炒めというよりは、脂を抜いて炒ったものである。ある意味徳島の郷土料理だというのを初めて知ったが、河内の「かすうどん」のかすの部分の原型と言ってもいいだろう。うーん、藤井寺から藤井寺を目指す旅で、イリカスというのに出会うとは思わなかった。牛肉のそのような料理を目にすると、どうしても「」「路地」というキーワードが頭に浮かぶのだが、掘り下げて行くと当ブログのテーマから外れて行くのでここまでにする。
遍路ころがし。四国八十八所めぐり最大の難所とされていて、藤井寺から挑む昔ながらの山道(もちろん歩きでしか行けない)もそうだし、クルマでも徳島市内から神山町を経て上る道は狭く、カーブが続き、ガードレールもない難路である。
公共交通機関をベースとして、歩かざるを得ないところは歩くというのが、私の四国八十八所めぐりのベースである(だから、遍路を名乗る資格はないのだが)。この焼山寺にしても、完全な登山道で、私など行けるものではない。ちょうど途中まではバス乗り継ぎで行くことができる。徳島駅前から神山町の寄居中までバスで来て、そこから町営バスで焼山寺まで行ける。ただしこの焼山寺バス停というのは寺のはるか下で、そこから3キロ以上の歩きである。また、町営バスは一日3往復だけで、朝の1便は土日運休のため、使えるのはわずかに2本。公共交通機関やローカル線好きなら、本数が少ないこのバスルートをどのように攻略するのかが楽しみだし、腕の見せ所(注・歩くから足の見せ所かな)である。
・・・というルートをこの先に描いていたのだが、「あじろ」の主人はそれを見抜いているかのように声をかける。
「焼山寺へは遠いけど、休み休み歩けばええんや」
「焦って歩いて早く着いたはええけど、早すぎたらバスの時間まで長いで」など。

合間には「これはお接待で」と一品置いてくれながら、
「私もこれまで6周くらい回ってるけど、何でもいいのよ」と、最近の写真を見せてくれたり、「何か楽しみながら行けばええんよ。私もクルマでどこかに着けてそこから歩いたり、釣竿持って魚釣りしたり、これ(右手で飲むポーズ)も楽しみやし。全部やなくて、歩いたらおもろそうなとこだけ歩いたらええと思うし」など。料理を出してくれる奥さんも「楽しんで回ったらええんよ」と声をかけてくれる。
うーん、明日は予定通り藤井寺参詣のみで鳴門に向かうとしても、次をどうするか。これまでは徳島から神山町でのローカルバス乗り継ぎにこだわっていたのが、鴨島駅前の居酒屋にて、「どうすれば遍路ころがしを踏破できるのか?」という心境になっていた。八十八所めぐりにおいて現地の人とこのことで会話したのが初めての中で、何やかんやで、ならば歩いてみるかという方に多少傾いてきた。実際にはさまざまな準備もいるが、気持ちの上で後押ししてくれているようにも思えた。
いろいろごちそうになってホテルに戻る。ちょうど東京ドームでのジャイアンツ対カープ戦が、国営放送で大野豊、小早川毅彦の解説で放送中である。試合はカープの勝利で、見事に25年ぶりのリーグ優勝を果たした。元・広島市民としてもうれしいこと。毎年「バファローズ対カープの日本シリーズ」を願っている中で、カープ優勝の陰でバファローズが最下位なのは非常にもどかしいのだが・・・。
長々とした記事が続いたが、これは言わば前段階。ようやく次の記事で、元々の目的地である藤井寺に到着する・・・・。