5月の大型連休の後半。暦の上では5連休で、当初の計画では4日に福岡でのホークス対バファローズのデーゲーム観戦後、九州八十八ヶ所百八霊場の前回のゴール地点である大分まで移動して宿泊、そして翌5日~6日にかけてレンタカーで大分県の札所を回ることとしていた。大分県も残り5ヶ所で、豊後大野に2ヶ所、臼杵に1ヶ所、津久見に1ヶ所、そして佐伯に1ヶ所である。5日は佐伯に宿泊し、翌日は県境を越えて宮崎県の2~3ヶ所くらい回れるかなと考えていた。
早々に宿やレンタカーを手配していたのだが、どうしても仕事の都合がうまい具合に行かず、5連休については4日の福岡行きは何とか死守したものの、結局5日は広島に居ざるを得なくなり、6日の朝移動で大分に向かい、6日~7日での巡拝となった。結局飛び石連休の形で、普通の土日に出かけるのと何ら変わりないが、大分からのレンタカー2日間利用と、6日の佐伯の宿は何とか確保することができたのでよかった。ただ気になるのは天気で、週間予報では6日~7日は西日本で雨の予報・・。
さてその前に、飛び石での休日となった5月4日である。ペイペイドームに向かう前にどこかに立ち寄ることにしよう。乗るのは広島6時43分発の「さくら401号」である。連休期間の中日、そして朝の時間帯ということで指定席も十分空席が見られた。徳山、新山口と停車した後に新関門トンネルで九州入り。小倉からはそこそこ乗車があった後、博多に到着。「さくら401号」は鹿児島中央行きで、むしろ博多から熊本、鹿児島方面に向かう客のほうが多かった。
博多に着いたのは8時前。ペイペイドームに向かうまでの時間をどう過ごそうかと、新幹線の中でもいろいろ考えていた。新しく博多まで開通した地下鉄に乗るとか、九州西国霊場めぐりの後でパスした九州国立博物館まで足を延ばすとか、海の中道から志賀島もいいかなとか・・・。
乗車券は福岡市内行きなので、とりあえず在来線乗り換え口から在来線ホームに出る。そして、門司港行きの快速に乗り、香椎で下車した。
2022年秋の九州西国霊場めぐりの時、福岡東部の札所を回るのに和白のホテルに泊まった。ホテルで日本シリーズのテレビ中継を観たというのもあったが、西鉄とJRの乗り換え駅として香椎を経由し、香椎宮にも参拝している。また、松本清張の「点と線」の舞台ともなったところである。駅周辺は開発により当時の面影はほとんどないそうだが、松本清張とも触れ合ったとされる桜の木は場所を変えて今でも乗客を出迎えている。
そんな駅前の理髪店で散髪する。香椎に来たのは、ちょっとこのところバタバタしていて散髪の機会がなく、合間の時間で刈っておくか・・ということもあった。
さっぱりしたところで西鉄貝塚線に乗る。天神から南に延びる西鉄各路線からは独立した存在で、軌間もこちらだけ狭軌である。ガタゴト走り、終点の貝塚に到着。そのまま改札を抜け、地下鉄箱崎線に乗り継ぐ。かつては地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線を直通運転する構想もあったが(ちょうど西側で福岡地下鉄とJR筑肥線が直通運転しているが・・)、費用対効果が薄いとして凍結されたそうだ。
そのまま地下鉄に乗り、筥崎宮前で下車。午前中の途中下車スポットとして筥崎宮を選んだ。これまで参拝したことがなく、九州西国霊場めぐりの時は香椎宮に立ち寄ったが、私の頭の中で香椎宮と筥崎宮がごっちゃになっていたこともある。
地上に出るとそこは参道の一角で、そのまますぐに正面の鳥居に着く。福岡県には何度も足を踏み入れているが、筥崎宮が初めてとは・・。
筥崎宮は日本三大八幡宮の一つとされる。あと2ヶ所は宇佐神宮、そして石清水八幡宮である。遅くとも平安時代には創建されており信仰を集めていたが、筥崎宮が歴史の表舞台に登場するのは鎌倉時代の元寇の時である。博多の地、朝鮮半島、そして中国大陸との表玄関である。当時の亀山上皇が「敵国降伏」を祈願したとされる。
正面の楼門には「敵国降伏」の扁額が掲げられている。この楼門を建立したのは毛利氏の勢力拡大で豊前、筑前を治めていた小早川隆景だが、その際、亀山上皇の御宸筆を拡大して奉納したものだという。なお、この「降伏」とは、武力で相手に「参りました!」と言わせるのではなく、徳の力で相手を導き、相手自らこちらになびかせるという意味だという。もっとも、そんな理屈が通じる相手だったかどうかはさておき・・。
元寇、特に文永の役の時は筥崎宮の周辺も含めて元軍のなすがままになったが、暴風雨の影響で元軍は撤退、そしてその後築いた土塁、石塁により弘安の役では元軍を退けることができた。この時も暴風雨があったとされ、これらを含めて筥崎宮の「敵国降伏」が叶ったとされた。
小早川隆景の後は黒田長政に受け継がれ、現在まで海上交通、海外防護の神として信仰を集める。やはり必勝祈願のスポットであり、御神木の周りには福岡ソフトバンクホークスやアビスパ福岡などが祈願に訪れた際のサインが掲げられている。おお、これからペイペイドームに行く身としては格好のスポットだ。「めざせ世界一!」・・元軍よりも野望は高い。
ちなみに・・・この後訪ねた試合はホークスがバファローズにサヨナラ勝ち・・。福岡の神様側から見ればまさに「敵国降伏」であり、試合前にここで手を合わせた私に対して、バファローズファンからは「いらんことすんなボケ!!」てなもんだろう・・。
ふたたび地下鉄に乗り、中洲川端で下車。ここでもう1ヶ所と立ち寄ったのが「福岡アジア美術館」。アジアを対象とした美術館というのはそうあるものではなく、ここは日本におけるアジアの玄関口を自負する福岡ならではのスポットである。
企画展として「古代エジプト美術館展」が行われている(5月28日まで)。渋谷の「古代エジプト美術館」のコレクションを紹介するもの。古代エジプトと言われてもピラミッドくらいしかイメージできないのだが、先王朝時代を含めると3000年の歴史を持つ。
ここは展示物のあれこれを見て、ファラオ(国王)を頂点とする国家の営みや、古代エジプトの人たちの衣食住や死生観を今に伝える品々を通して感心するばかりである。エジプトは現在も砂漠が広がるが、そうした乾燥した土地だったから古代からのさまざまな品物がよい状態で出土するとされている。
エジプトといえば、テレビ番組の「世界ふしぎ発見!」とか、エジプト考古学者の吉村作治氏が連想されるなあ・・。
福岡アジア美術館の通常展示のコーナーに向かう。通常展示といってもさまざまな企画展、コレクション展と豊富にあり、アジアの近現代美術を広く取り扱っているのが特徴である。
アジア・・・日本や韓国、中国という東アジアもあれば(そして、中国の領土は広い・・)、ベトナムやタイ、インドネシアなどの諸国がある東南アジア、そしてインド、パキスタンを中心とした地域、さらには現在の中東やトルコといったところまで含まれる。それぞれの地域やお国柄が現れる絵画もある。
もっとも、いわゆる現代美術となると国境は関係ないようだ。一応、作品の紹介文を見てどこの国の作者なのかはチェックするが、それを確認したところでどうということもない。欧米よりもアジアにゆかりある方たちの作品ということで親近感を増すだけのことである。
インドネシアの「ケチャ」にまつわる作品も1コーナーとなっていた。
一通り鑑賞した後で地上に出る。この日(5月4日)は博多どんたくの最中である。博多の街全体がお祭り会場で、各地でさまざまなイベントが行われる。福岡アジア美術館も入るリバレインセンタービル前にはステージや屋台も出ていた。
また、少し先の博多座の前では、当日の上演を楽しみに訪れる客の前で「オッペケペー節」が舞われていた。外国人観光客含め、足を止めて見物する人も多い。「オッペケペー節」は、博多生まれの川上音二郎の出し物で、明治の自由民権運動に絡めた歌詞が当時大いに人気を博したそうだ。もっともこの演者、上流座敷での余興のように大人しい歌声で、こういう場ならもっとはじけてもよかったのではないかと思う・・。