11月の下旬といえば冬型の気圧配置が強まる時期。東京は空気が澄んで、雲ひとつない快晴となった。
いくらか暖かくなった昼下がり、西武池袋線は江古田駅に現れる。「お散歩だんらんの会」というところの、まち歩き・お散歩のイベントに参加するためである。このサークル、東京近郊を中心に散歩を楽しむ活動を行っており、東京に来てからというもののなかなか限られたスポットしか訪れることのない私にとってみれば、東京近郊のさまざまなスポットを歩いてみたり、またいろんな方との交流を深めることができるのではということから、今回初めて参加申し込みしたものである。
この日のコースは江古田駅を基点として、練馬、中野、新宿の3区に渡る「紅葉スポット」を眺めつつ、JRの中野駅まで歩くというもの。私を含めて総勢7名の一行で出発。
西武鉄道といえばほとんど西武ドームに野球観戦に訪れる時くらいしか乗ることがなく、途中駅での下車・散歩となるとほとんど初めて(そんなに印象のありそうなスポットも思い浮かばない・・・)。ただグループで歩くことで、これまで見えなかったものが見えてくるだろう。
江古田の駅を出て、駅の南側に広がる住宅地を歩く。敷地の広い家があるかと思えば、昭和の風情を残す住宅、一方通行の幅の狭い道や、そこを通行する最近の大きなワンボックスカーなど、古いものと新しいものが混在しているような一角である。
中野区に入り、北江古田公園で一時休息。ここでは親子づれがのんびり歩いていたり、バドミントンなどで楽しむ家族連れの姿も見られる。穏やかな天候と合わせて、都会の中の憩いの場である。
23区内といえばゴミゴミしたイメージがあるのだが、結構こうした公園もあるものだ。参加者の皆さんも「のんびりしているね」「都内にもこんなところがあるんだ」と、しばし芝生に腰を下ろして公園の雰囲気を楽しむ。元国立療養所中野病院の跡地に整備された公園とあるが、地図などをみると何だか戦国時代の城郭のような形をしているようにも見える。
再び住宅街。比較的早い時期に整備されたのか、ゆったりした空間に個性豊かな住宅が並ぶ。中野区といえばマンガ文化をはじめとしたアートがさかんというイメージがあり、この地に住む人も芸術性というか、個性というものをどこかに表現しようとしているのか。
住宅街を歩くといきなり前方に巨大なモスク状の建物が姿を現す。なんだこれは?? 同行の人たちによればここは「水の塔」公園の建物で、かつては配水用の塔、そして現在は災害時の給水施設として使用されているとか。昭和初期の建築というが、その当時にこういうデザインにしたという人々のセンスには拍手ものである。
中野区にあって京都の風情をかもし出すという、哲学堂公園へ。哲学博士であり、東洋大学の創設者でもある井上円了の手によって整備されたというが、建物や森の名前などが哲学によるネーミングで、一般の凡人には何のことやらわからない。哲学をいろいろ考えるよりは、説明文を読んで余計に「モヤッと」してしまいそうである。ただ、まだ時期が早いものの紅葉との取り合わせは、見方によっては確かに京都の風情と言われてもおかしくないほどである。
東京の公園に紅葉を求めての散歩だったが、さすがに紅葉にはもう少し早かったかなと思う。でもまあ、紅葉の予測というのは桜前線よりも難しい面があり、日程を組むには難しいところなのかと思う。
この後は西武新宿線・新井薬師前駅に出る商店街を歩く。途中、昭和の頃の懐かしいおもちゃや駄菓子を扱った店をのぞいてみたり(テレビ朝日の「ちい散歩」で訪れた俳優の地井武男さんのサインもしっかりありました)、世界中から集めた、子どもの情操教育用のおもちゃの店やら、輸入雑貨の店などをのぞき、JR中野駅につながる昔ながらの商店街に出る。
新井薬師から中野駅にかけての通りではそれぞれの店が独自の商品を扱い、地元の人たちで大いに賑わっている。郊外型の大型店などこの地にとっては無用なものなのだろうか。この時期は日が落ちるのが早く、テレビではまだ大相撲の幕内前半の取組の時間だがすでに店を開けて、カウンターに座ってグラスを傾ける人の姿も見える。なかなかディープな一角である。
少しずつ暗くなり、街灯や看板に灯りがつくようになる。この昭和の通りと、筋一本横に入った「中野ブロードウェイ」を散策し、新宿の西にあって多くの人たちを受け入れ、また独特の文化を発信しつつある中野の界隈を十分に楽しむことができた(私の場合どうしても「一杯飲み屋」の佇まいで街の様子を見ることがあるのだが、ここ中野の場合は、こちらのほうに自宅があったら途中下車して開拓してみたいなという気にさせる)。
予定の17時ちょうどに中野駅に到着。ここで一時お開きとなり、希望者については駅近くで慰労を含めて一席設けられた。その場でもさまざまなことを話しあったりしたが、話の中身とか、参加者同士の波長とか、結構合っているものを感じた(意見がぶつかるところもあったが、それはそれで後に引くようなものではないし)。またこれからも会員同士の話などから散歩の行き先を決めるとのことで、そうとなれば私もできる限り参加してみたいものである。身体を動かすことで気分転換にもなるし。
やはり、鉄道や自動車での移動ではなく、歩行者の視線でないと気づかない「面白モノ」がたくさんあるものだな、と実感できた一日であった・・・・。