わたしの祖父は、彼の親族の中でただひとり、ホロコーストから生き残り、ポーランドからイスラエルに移住しました。
彼が生き残ってくれたので、わたしが今、こうやって、アメリカで生きているというわけです。
祖父は生きている間中ずっと、とても怒っていました。
行動せずに留まった挙げ句に、おめおめと殺されてしまった親族全員のことを。
その祖父が亡くなった時、彼の父親から送られてきた、分厚い手紙の束が見つかりました。
そこには、どうして移住を決意できなかったかの理由が、つらつらと、どの手紙にも書かれていたそうです。
そして、ここポーランドでの暮らしも、それほど悪くないとも。
住み慣れた暮らしを捨て、どうなるともわからない、知らない土地に移ることは、本当に大変なことです。
安易に決められることではありません。
移ったからといって、そこに、それまでよりマシな暮らしが待っているわけではなく、大抵は、困難なことが大なり小なり待ち受けています。
イスラエルの人々はずっと、住み慣れては追われ、また住み慣れては追われる運命を背負ってきました。
今もいつ、空の上から恐ろしい爆弾が落ちてくるかも知れない町で生きている子ども達も少なくありません。
アメリカの人は言います。
「どうして逃げないのだ。なぜ、死ぬかもしれない所で留まっているのだ」
そしてわたしに、「どうして、イスラエルに住む家族を、自分の所に引き取らないのだ?」と、とても不思議そうに聞きます。
自分のことを世話するのに精一杯のわたしが、いったいどうしたら他の人の人生を受け入れられるでしょうか?
地下室にでも閉じ込めておけというのでしょうか?
英語もろくに話せず、わずか半年も経てば不法滞在になってしまうのに、『死』の可能性が少し高いからといって、人の人生を左右するようなことはできません。
そういう大きな変化をもたらすようなことは、人から言われてするものではないのです。
その人が決心をしないと、大きな変化というものがもたらす大渦から抜け出し、しっかりと大地に立ち直すことはできません。
けれどもわたしは、渦に巻き込まれていたせいで足元がよろつく人に、手を差し伸べて支えることなら、なんとかできるのではないかと思っています。
だから、その思いを叶えるためにも、わたし自身が本当に元気で、健康な心を保っていなければならないのです。
人を、実際に、生身で支えるということは、そういうことです。簡単なことではありません。
今、日本のみなさんは、自分の国がいったいどうしてしまったんだろうと、とても混乱されていると思います。
いったいいつから、こんなひどい観念のもとに成り立っていたのだろうと、驚かれた方もたくさんおられるでしょう。
けれども世界はずっと、こんなふうに成り立っていました。日本も例外ではありません。
もう、気づいていらっしゃると思いますが……。
世界を動かしているのは、最近馴染みのある言い方をすれば、0.1%の、ほんの一部の金持ちの人間です。
彼らはやりたいことを、やりたいふうに、自然や人間や生き物の現状や未来のことなど全く無視して叶えます。
彼らが、自分達の望みが全部叶って退屈したり、あるいはうまくいかなかった時はどうするか?
戦争や紛争を起こします。
理由や原因も簡単に作ります。
それに巻き込まれ、死んでいくのは市井の市民です。
だから、今回起こった原発の重大事故は、本当に大変で悲しいことですが、世界の歴史の中の、ひとつの現象に過ぎないのです。
もちろん、放射能の汚染は深刻な問題ではあるけれど……。
そして、日本は核物質のゴミをどうすることもできずに抱え込まされている、地震大国なのだけど……。
市民は静かに、粛々と、命を冒されているのです。
ここアメリカでも然り。
アメリカの一番の死亡原因は心臓マヒです。癌を軽々と抜いています。
食べ物の質を悪化させ、量をケタ違いに増やし、巨大企業と金持ちが仕組んだ劣悪な食事環境の中で、
まあ、こんなもんじゃないのと、考えること、注意することに疲れさせ、抵抗する気持ちを萎えさせる。
そのための誤摩化し術は、山ほど用意されています。
モンサントのような邪悪な会社をのさばらせ、根本から生態系を崩し、製薬会社、保険会社の言いなりになりながら、我が国はNo.1だと、虚勢を張る政府は、
これからもずっと、なにか大きな、とてつもなくダメージのある事故や事件が起こらない限り、愚かな姿を晒し続けると思います。
それでもわたしは、ここアメリカが好きです。
すばらしい人がたくさんいます。
すばらしい自然がたくさんあります。
日本の、世界でも希有な、食をはじめとする様々な文化が、今回の事故によってどんどん痛めつけられています。
今回事故が起こった東北は、それはそれは美しい自然の宝庫だったと聞いています。
それが一瞬にして、死の町に成り果ててしまいました。
国に暮らしながら、その様を見なければならないみなさんの辛い気持ちを思うと、心が痛みます。
ただひとつ、これまでと違う、インターネットの普及という幸運を生かし、どうか、大きなものと闘う勇気を失わないでください。
その国の子ども(未来)は、その国の大人でしか救えないのです。
アリだって、とてもたくさん集まれば、大きな家を丸ごと倒します。
あきらめないで、とにかく前に進もうと、気持ちを強く持ってください。
継続は力なり。
これはイスラエルでもよく言われる諺です。
そのためにも、みなさんひとりひとりが、真剣に、ご自分の健康を保てるために努力してください。
このとてつもない苦しみを共用する者として、遠くアメリカから、わたしの気を送ります。
日本の再生を信じて。
ミリアム(気功・太極拳講師)