ex-skfさんのブログより、ふたつの記事を紹介させていただきます。
【記録】放射線影響研究所論文
『原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14報、1950-2003、がんおよび非がん疾患の概要』-被曝リスクに閾(しきい)値はなかった
米国放射線影響学会の公式月刊学術誌『Radiation Research誌』に、今年の3月に掲載された、
放射線影響研究所の研究員による英語論文の日本語要旨が、放射線影響研究所のサイトに出ています。
今までも、閾(しきい)値はない、という仮定で、放射線防護は国際的になされてきましたが、
特に原子力推進の立場の研究者、専門家は現在でも、
「安全に偏りすぎている、実際は閾値はあり、それ以下では、有意な差は認められない」という立場を崩していません。
研究者、専門家によって、その閾値は20ミリシーベルトであったり、山下教授のように100ミリシーベルトであったり、200ミリシーベルトであったり、
高いところでは、オクスフォードのウェード・アリソン教授の年間1シーベルトでも安全、というのもあります。
しかし、今回の報告論文で、よりによって、悪名高きABCCの後身である放射線影響研究所が、
「総固形がん死亡の過剰相対リスクは、被曝放射線量に対して、全線量域で直線の線量反応関係を示し、
閾値は認められず、リスクが有意となる最低線量域は0-0.20Gy であった」、と発表。
つまり、閾値なし、ということが仮定ではなく、疫学上証明されたことになります。
リスクが有意(statistically significant、統計上有意ということ)となる最低線量域は、ゼロから0.20グレイ、
シーベルトにすると、ゼロから200ミリシーベルト、ということになります。
放射線影響研究所論文日本語要旨:
Radiation Research* 掲載論文
「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14 報、1950-2003、がんおよび非がん疾患の概要」
【今回の調査で明らかになったこと】
1950年に追跡を開始した寿命調査(LSS)集団を、2003 年まで追跡して、死亡および死因に対する原爆放射線の影響を、DS02線量体系を用いて明らかにした。
総固形がん死亡の過剰相対リスクは、被曝放射線量に対して、全線量域で直線の線量反応関係を示し、閾値は認められず、
リスクが有意となる最低線量域は、0-0.20Gyであった。
30歳で1Gy被曝して、70歳になった時の総固形がん死亡リスクは、被曝していない場合に比べて42%増加し、
また、被爆時年齢が10歳若くなると、29%増加した。
がんの部位別には胃、肺、肝、結腸、乳房、胆嚢、食道、膀胱、卵巣で有意なリスクの増加が見られたが、直腸、膵、子宮、前立腺、腎(実質)では有意なリスク増加は見られなかった。がん以外の疾患では、循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患でのリスクが増加したが、放射線との因果関係については更なる検討を要する。
【解説】
1) 本報告は、2003年のLSS第13報より、追跡期間が6年間延長された。
DS02に基づく個人線量を使用して、死因別の放射線リスクを総括的に解析した、初めての報告である。
解析対象としたのは、寿命調査集団約12万人のうち、直接被爆者で個人線量の推定されている86,611人である。
追跡期間中に50,620人(58%)が死亡し、そのうち総固形がん死亡は、10,929 人であった。
2) 30歳被曝、70歳時の過剰相対リスクは、0.42/Gy(95%信頼区間: 0.32,0.53)、過剰絶対リスクは、1万人年当たり26.4人/Gy であった。
*過剰相対リスクとは、相対リスク(被曝していない場合に比べて、被曝している場合のリスクが何倍になっているかを表す)から1を差し引いた数値に等しく、被曝による相対的なリスクの増加分を表す。
*過剰絶対リスクとは、ここでは、被曝した場合の死亡率から、被曝していない場合の死亡率を差し引いた数値で、被曝による絶対的なリスクの増加分を表す。
3) 放射線被曝に関連して増加したと思われるがんは、2Gy以上の被曝では、総固形がん死亡の約半数以上、0.5-1Gyでは約1/4、0.1-0.2Gyでは約1/20と推定された。
4) 過剰相対リスクに関する線量反応関係は、全線量域では直線であったが、2Gy未満に限ると、凹型の曲線が最もよく適合した。
これは、0.5Gy付近のリスク推定値が、直線モデルより低いためであった。
放射線影響研究所は、広島・長崎の原爆被爆者を、60年以上にわたり調査してきた。
その研究成果は、国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR)の放射線リスク評価や、
国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護基準に関する勧告の、主要な科学的根拠とされている。
Radiation Research誌は、米国放射線影響学会の公式月刊学術誌であり、
物理学、化学、生物学、および医学の領域における放射線影響、および関連する課題の原著、および総説を掲載している。(2010年のインパクト・ファクター:2.578)
なお、この件については、中部大学の武田教授が、ブログポストを書かれています。
私のブログにも、時折コメントをくださるめぐさんは、厚労省に電話をしたそうで、
その顛末をブログポストに書かれています。電話部分の追記を転載:
(追記5月1日20時)厚労省に電話した。
「放影研は、厚労省と外務省所管だが、今回の報告で、低線量被ばくでも、被ばく量に応じた発がんリスクなどの健康被害が生じたと、疫学的に証明された、と理解している。
これまで国は、ICRP準拠で、「疫学的証明はないものの、放射線防護上はあるものと仮定して、防護基準を定めている」と理解していた。
今回の報告は、これまでの国の立場を覆すものだが、厚労省として報道発表の予定はあるか。
事実関係の理解としては、今申し上げた内容で正しいか」聞いた。
担当官は「事実の認識としてそれでよい。放影研が発表しているので厚労省としては発表の予定はない」との回答であった。
さすが日本政府というか……。
以上転載終わり。
さて、↓これは、先日書いたモモに関連する記事です。8月4日に掲載されたものです。
今年の福島のモモの安全確認はどのように行われているのか?
事故からもうすぐ17ヶ月。
ここ3ヶ月ほど、特にこの1ヶ月は、関西電力の大飯原発の再稼動反対、
再稼動してしまってからも、再稼動反対の「シングル・イシュー」とかいうことで(英語で表記すると“Single issue”)、
東京の首相官邸近辺、関電の本社で、毎金曜日に行われているデモに焦点、関心が集まっているように見受けられます。
ここ数日のツイッターを駆け巡る「はやり(流行)」は、これに加えて、「カリフォルニアの漁業禁止」(デマです)、
「ロンドン五輪開会式で、日本選手団が退場させられた」という「ニュース」。
そんな中でも、フォローさせていただいている方々から流れてくるツイートを見るたび、
「シングル・イシュー」デモよりも、遠いカリフォルニアのマグロよりも、
こっちに関心を持ち続けることの方が肝心なのではないか、と思うことの多いトピックが、二つあります。
一つは、下火になったとはいえ、広域がれき処理、もう一つは、食品の放射能汚染。
このポストでは、後者について、今日目に留まったニュースを、ご紹介したいと思います。
なぜ目に留まったかといえば、ちょうど去年の8月、モモのシーズンに、福島県の中学生が、修学旅行先の横浜で、モモを配って、風評被害に抗議していたニュースを思い出したからです。
遠く(カリフォルニア)のマグロより近く(福島)のモモ、と言ってはなんですが、
英語で言えば“First things first”、何はさておき日本の食品が第一、ということで、まずは2012年8月4日のNHKニュースから:
福島の桃 安全を確認して出荷
福島特産の桃の出荷が3日から本格的に始まり、今年はすべての農家を対象に、放射性物質の検査を行い、安全を確認したうえで出荷しています。
桃の生産量が、全国の市町村で2番目に多い福島市にある選果場には、収穫されたばかりの桃が、次々と運び込まれています。
担当者は、桃を1つずつ手に取って、傷がないか確認したあと、専用の機械で糖度や熟し具合などを測って、丁寧に箱詰めしていきました。
福島市の農協によりますと、主力品種の「あかつき」は、春先の天候不順で小ぶりになったものの、味は濃く、甘みが強いということです。
また、今年は、放射性物質の測定器を46台用意して、すべての農家を対象に、桃を測定器にかけて、放射性物質の有無を検査しています。
2日までに、2000を超える検体を調べた結果、いずれも安全性に問題がないことが確認されたということです。
JA新ふくしまの斎藤隆営農部長は、「すべての農家のすべての品目を検査して、安全性が確認された桃だけが出荷されているので、安心して召し上がってください」と話していました。
すべての農家対象とは言っても、全量検査であるはずもなく、検体が2000ということは、サンプル調査なのでしょう。
NHKニュースには「安全性に問題がない」とありますが、
それは単に「セシウムがキロ100ベクレルを超えていない」という以外の意味はなく、実際にどのような数字が出ていたのか、全く分かりません。
そこで、直接の情報を探して、福島県のサイトを検索したら、出ていました。ここです↓
「ふくしまの恵み安全対策協議会 放射性物質検査情報」。
サイトの情報によると、
検査期間 2012年06月20日~2012年08月02日
現在までの検体数 5,354点
NaIシンチレーションサーベイメータによる、協議会による簡易検査で、
検査の結果放射性セシウムが50ベクレル/kgを上回った場合は、福島県がゲルマニウム半導体検出器による検査を実施
福島県全域、全期間の検査結果:
セシウムキロ当たり25ベクレル以下:5297点(99%)
25ベクレル~50ベクレル:57点(1パーセント)
50ベクレル以上:なし
個別の市を見てみると、伊達市と桑折町で、25~50ベクレルが検出された割合が1パーセントを超えています。
伊達市は3パーセント(1532点中39点)、桑折町は2パーセント(730点中12点)です。
シンチの計測で、50ベクレルを超える検体がなかったため、ゲルマニウム半導体検出器の検査は行われていないものと思われます。
シンチでの測定時間が、どれくらいだったのかについて、「検査方法」のリンクをクリックしてPDFファイルを見てみましたが、一切情報はありません。
結構、ちいさな容器に詰めての検査のようです。
私は、この測定時間が気になります。
というのも、つくば市による測定で、NaIシンチを使った市の測定の時間が短かったために基準超えを検出しきれていなかった、という情報があったからです。
(茨城市民放射能測定プロジェクト;自家用大麦)
ともあれ、この自主検査のお墨付きですべて「安全」、出荷OKになって、全国に出荷されています。
「福島の生産者が、心を込めて育てた桃です」とのアピールは、去年と同じですね。
心を込めれば放射能が消えるのならどれほど良いことでしょう。
ちなみに、キロ当たり25ベクレルというのは、去年南カリフォルニア沖で捕獲されたクロマグロのキロ当たりセシウム量(10ベクレル)の2倍以上です。
”First things first”。