まさに、狂想曲が延々と、頭の中で流れ続けているような日々が過ぎ、今やっと一息ついた。
お隣さんとうちが共有している空き地(土地の横幅はうちより広い)を、お隣さんとうちが共同で買い取ることに決めてから、
それぞれの弁護士と話し合い、売り手の言い値をできるだけ値切り、町役場に連絡をし、地質調査を依頼し、
でも、そうこうしている間にも、我々の買値よりも高い金額を言ってくる人が出てきたら、即刻我々の仮契約は却下されてしまう。
だから、できるだけ早く契約を結んでしまいたかったのだけど、地質調査の結果が出てくるまでに2週間かかるというので、
その結果を待ちつつ、深刻な汚染は無いだろうという楽観的予想を前提に、結果報告日の翌日の夜に、契約式を執り行うということにした。
その間にも、空き地には、怪しげな人間が出没。
土地の横幅縦幅を測っていたり、通りからじぃーっと眺めていたり。
本来ならば、「仮契約済み」という付け足しサインが、売地の看板に書かれていなければならないはずなのに、売り手はずっと無視している。
6年前にこの土地を手にしてから、一向に売れる気配が無く、だから彼は毎年、この地域特有の、とっても高額の固定資産税を払い続けなければならなかった。
全然嬉しくも楽しくもないのである。
なので、わたしとお隣のエステラは、気をやきもきさせながら、そういう人たちの様子を伺っていた。
たったの2週間だったけれど、その長いことったら…。
その間に、うちの天井には二つの穴が開き、古い水道管が取り替えられ、これでとりあえず安心だと思っていたらまた水が落ちてきて、
もうこれは呪われているとしか思えん、などと愚痴りながらまたまた修理を頼んだら、
なんと、新しくした浴室の、壁につけられた器具のどれもに、きちんとしたコーキングがされていなかったことが原因だとわかり、またまた夫もわたしも頭から湯気が出た。
コーキングについては、工事中に何度も、夫もわたしも尋ねていたし頼んでもいた。
すると必ず、「いや、この場合は絶対に大丈夫」という答が返ってきて、どの部分もやろうとしなかったのだ。
いったいどこまでいい加減だったのか。
もうこれは訴訟だな。
早々と天井を塞いでいなかったことが幸い?した。
二階の床下、つまりは一階の天井裏はだから、非常に風通しが良く、十分に乾燥しただろう。
やれやれ…。
ということで、あとは契約を無事終えることができたら万々歳だ。
と思いきや、事もあろうにその前日の夜に、どえらいことが発覚した。
ギリギリの前日の夜、地質調査の結果が出てきたので読むと、違う土地の調査をしたことがわかったのだった。
なんで…???
調査をしたのは、売り家のサインが出ているお向かえの家の裏庭だった。
いやあ、売りのサインが出ていたので、間違っちゃったよ、とでも言わんばかり。
でも、でも、でも、我々が依頼したのは更地であって、どこかの家の裏庭ではない。
しかも、番地もあるわけで、土地の調査をするような会社が、こんな単純な間違いをしていいのか?!
さらに、当人はヘラヘラと(これはわたし個人の感じ方ではあるけれど)、調査をし直すにはまた2週間かかるから、などとメールで言っている。
ぐぉらぁ~!!
地質調査無しで契約ができるのか、それをまた弁護士や仲介者と話し合わなければならない。
でも、契約は絶対に終えてしまいたい!
というカオスな夜の翌日の木曜日。
朝からわたしは、胃カメラの検査のために、車で30分ほどのところにある手術と検査を専門にする建物に、夫に送ってもらって行ってきた。
胃の検査はいつも、大腸検査の麻酔がかかっている間にやってもらっていたのだけれど、今回は初めての単独検査。
大腸検査と違い、前日からの下剤飲用地獄も無く、夜中から検査まで絶食するだけなので超~気楽。
検査に際しての注意書きに、絶食には固形物はもちろん、水分、チューインガム、飴類も一切禁止しますと書かれてあった。
チューインガムや飴ならいいのか?と、詰め寄ってくる人がいるのだなと思うと、なんだか可笑しくなった。
検査前の準備室で、担当の看護師さんにいろいろと質問されながら答えていたら、あなた、ちょっと寒そうねと、温めた毛布を追加で上から被せてくれた。
準備室では少なくとも3人が、カーテンだけで仕切られた部屋で待機しているのだけれど、だから話が筒抜けで、麻酔医とのやり取りが全部聞こえてくる。
58才のわたしが一番若く?て、普段飲んでいる薬も無くて、アレルギーも無い。
だから一番簡単な患者、ということで、麻酔医がとても嬉しそうだった。
ただ、血管が細い上にビビリだと言うと、麻酔のために必要な血管を獲得するために、通常ほとんど使われないと言われているほどに細い針を使ってくれた。
それでもたっぷり時間がかかり、今は思いっきり青紫のアザができている。
無事に検査を終え、麻酔がちゃんと切れてから、担当医の話を聞いた。
ポリープは無かったが、胃の入り口の辺りに要観察の部分があったので、組織検査に出したと言う。
父を殺した胃がんも、入り口辺りだったことを思い出した。
「今日一日は、運転はもちろん、仕事もだめ、大きな決断をしなければならないようなこともだめ、わかりましたか?」
「え、わたし、今日は、」
夫の強烈な『何も言ってはならぬ目線』を感じ、わたしは口ごもった。
麻酔さえ覚めたら大丈夫とばかりに、時間が急きょ7時から4時に変更された契約式を終え、その後さらに、時間変更をしてもらったレッスンをする予定だったけど、
余計なことを言うなという無言のお叱りに従い、わたしはコクンコクンと頷きながら、黙って看護師の言葉を聞いた。
少しだけ休憩して、やっぱり看護師の言う通り、普通にしているつもりなのにどことなく変、という感じから抜けられないまま、
時間が来たので、少しだけフォーマルな感じの服に着替え、契約のサインをしに再び出かけた。
カエデの爺さんに一目惚れして、だから彼の命を守ることができてすごく嬉しいわたしたちと、結局大損することになって全然嬉しくない売主が、ひとつの部屋に集まってサインする。
とてもではないが、和やかにという雰囲気ではない。
「あんたたち、半々にして買ったんだ。賢いじゃないか」と、最後に一言言って出て行った彼。
多分、もっともっと言いたいことはあったのだろうけど…。
サインが終わり、それから仕事をしたら、もうほんとにヘトヘトになった。
どうしてもできなかったレッスンは、土曜日と日曜日に変更してもらったので、今週は週末も仕事がある。
まだもう少し明かりが残っているので、夫とふたり、空き地に立った。
他人の所有地だった時とは全く違う、やっと終わったという安堵感と、今後はこの空き地に生きる木や植物を、ちゃんと世話していかなければならないという責任感が、じわじわと湧いてくる。
そしてもちろん、敷地が増えたのだから、税金だってドンと増える。
ますます健康に気をつけて、しっかりと働かなければ。
「ほんと、まうみらしいといえばらしいね。木を救いたいがために土地を買うなんてさ」
友人からの褒め?言葉を思い出した。
でも、でも、本当に嬉しい。ふつふつと嬉しい。
ここに越して来てからの6年と3ヶ月の間、一日欠かさず話しかけてきたことが、本当になったのだから。
爺さんのことは、わたしが必ず守る。
誰にも手を出させないから。
カエデの爺さんの木肌は、ゴツゴツと硬くて荒い。
でも命の温かさと、長い年月を生きてきた賢さが、手のひらにしみじみと伝わってくる。
ここ数年、元気が少しずつ減ってきて、だから葉っぱが縮こまっている。
手遅れにならないうちに、一日も早く、木のお医者さんに診てもらわなければ。
大きな穴が空いた天井と、直径5センチぐらいの青紫のアザと、ちょっと元気が無いカエデの老木。
腹を立てたり、恐かったり、嬉しかったりの1週間。
お隣さんとうちが共有している空き地(土地の横幅はうちより広い)を、お隣さんとうちが共同で買い取ることに決めてから、
それぞれの弁護士と話し合い、売り手の言い値をできるだけ値切り、町役場に連絡をし、地質調査を依頼し、
でも、そうこうしている間にも、我々の買値よりも高い金額を言ってくる人が出てきたら、即刻我々の仮契約は却下されてしまう。
だから、できるだけ早く契約を結んでしまいたかったのだけど、地質調査の結果が出てくるまでに2週間かかるというので、
その結果を待ちつつ、深刻な汚染は無いだろうという楽観的予想を前提に、結果報告日の翌日の夜に、契約式を執り行うということにした。
その間にも、空き地には、怪しげな人間が出没。
土地の横幅縦幅を測っていたり、通りからじぃーっと眺めていたり。
本来ならば、「仮契約済み」という付け足しサインが、売地の看板に書かれていなければならないはずなのに、売り手はずっと無視している。
6年前にこの土地を手にしてから、一向に売れる気配が無く、だから彼は毎年、この地域特有の、とっても高額の固定資産税を払い続けなければならなかった。
全然嬉しくも楽しくもないのである。
なので、わたしとお隣のエステラは、気をやきもきさせながら、そういう人たちの様子を伺っていた。
たったの2週間だったけれど、その長いことったら…。
その間に、うちの天井には二つの穴が開き、古い水道管が取り替えられ、これでとりあえず安心だと思っていたらまた水が落ちてきて、
もうこれは呪われているとしか思えん、などと愚痴りながらまたまた修理を頼んだら、
なんと、新しくした浴室の、壁につけられた器具のどれもに、きちんとしたコーキングがされていなかったことが原因だとわかり、またまた夫もわたしも頭から湯気が出た。
コーキングについては、工事中に何度も、夫もわたしも尋ねていたし頼んでもいた。
すると必ず、「いや、この場合は絶対に大丈夫」という答が返ってきて、どの部分もやろうとしなかったのだ。
いったいどこまでいい加減だったのか。
もうこれは訴訟だな。
早々と天井を塞いでいなかったことが幸い?した。
二階の床下、つまりは一階の天井裏はだから、非常に風通しが良く、十分に乾燥しただろう。
やれやれ…。
ということで、あとは契約を無事終えることができたら万々歳だ。
と思いきや、事もあろうにその前日の夜に、どえらいことが発覚した。
ギリギリの前日の夜、地質調査の結果が出てきたので読むと、違う土地の調査をしたことがわかったのだった。
なんで…???
調査をしたのは、売り家のサインが出ているお向かえの家の裏庭だった。
いやあ、売りのサインが出ていたので、間違っちゃったよ、とでも言わんばかり。
でも、でも、でも、我々が依頼したのは更地であって、どこかの家の裏庭ではない。
しかも、番地もあるわけで、土地の調査をするような会社が、こんな単純な間違いをしていいのか?!
さらに、当人はヘラヘラと(これはわたし個人の感じ方ではあるけれど)、調査をし直すにはまた2週間かかるから、などとメールで言っている。
ぐぉらぁ~!!
地質調査無しで契約ができるのか、それをまた弁護士や仲介者と話し合わなければならない。
でも、契約は絶対に終えてしまいたい!
というカオスな夜の翌日の木曜日。
朝からわたしは、胃カメラの検査のために、車で30分ほどのところにある手術と検査を専門にする建物に、夫に送ってもらって行ってきた。
胃の検査はいつも、大腸検査の麻酔がかかっている間にやってもらっていたのだけれど、今回は初めての単独検査。
大腸検査と違い、前日からの下剤飲用地獄も無く、夜中から検査まで絶食するだけなので超~気楽。
検査に際しての注意書きに、絶食には固形物はもちろん、水分、チューインガム、飴類も一切禁止しますと書かれてあった。
チューインガムや飴ならいいのか?と、詰め寄ってくる人がいるのだなと思うと、なんだか可笑しくなった。
検査前の準備室で、担当の看護師さんにいろいろと質問されながら答えていたら、あなた、ちょっと寒そうねと、温めた毛布を追加で上から被せてくれた。
準備室では少なくとも3人が、カーテンだけで仕切られた部屋で待機しているのだけれど、だから話が筒抜けで、麻酔医とのやり取りが全部聞こえてくる。
58才のわたしが一番若く?て、普段飲んでいる薬も無くて、アレルギーも無い。
だから一番簡単な患者、ということで、麻酔医がとても嬉しそうだった。
ただ、血管が細い上にビビリだと言うと、麻酔のために必要な血管を獲得するために、通常ほとんど使われないと言われているほどに細い針を使ってくれた。
それでもたっぷり時間がかかり、今は思いっきり青紫のアザができている。
無事に検査を終え、麻酔がちゃんと切れてから、担当医の話を聞いた。
ポリープは無かったが、胃の入り口の辺りに要観察の部分があったので、組織検査に出したと言う。
父を殺した胃がんも、入り口辺りだったことを思い出した。
「今日一日は、運転はもちろん、仕事もだめ、大きな決断をしなければならないようなこともだめ、わかりましたか?」
「え、わたし、今日は、」
夫の強烈な『何も言ってはならぬ目線』を感じ、わたしは口ごもった。
麻酔さえ覚めたら大丈夫とばかりに、時間が急きょ7時から4時に変更された契約式を終え、その後さらに、時間変更をしてもらったレッスンをする予定だったけど、
余計なことを言うなという無言のお叱りに従い、わたしはコクンコクンと頷きながら、黙って看護師の言葉を聞いた。
少しだけ休憩して、やっぱり看護師の言う通り、普通にしているつもりなのにどことなく変、という感じから抜けられないまま、
時間が来たので、少しだけフォーマルな感じの服に着替え、契約のサインをしに再び出かけた。
カエデの爺さんに一目惚れして、だから彼の命を守ることができてすごく嬉しいわたしたちと、結局大損することになって全然嬉しくない売主が、ひとつの部屋に集まってサインする。
とてもではないが、和やかにという雰囲気ではない。
「あんたたち、半々にして買ったんだ。賢いじゃないか」と、最後に一言言って出て行った彼。
多分、もっともっと言いたいことはあったのだろうけど…。
サインが終わり、それから仕事をしたら、もうほんとにヘトヘトになった。
どうしてもできなかったレッスンは、土曜日と日曜日に変更してもらったので、今週は週末も仕事がある。
まだもう少し明かりが残っているので、夫とふたり、空き地に立った。
他人の所有地だった時とは全く違う、やっと終わったという安堵感と、今後はこの空き地に生きる木や植物を、ちゃんと世話していかなければならないという責任感が、じわじわと湧いてくる。
そしてもちろん、敷地が増えたのだから、税金だってドンと増える。
ますます健康に気をつけて、しっかりと働かなければ。
「ほんと、まうみらしいといえばらしいね。木を救いたいがために土地を買うなんてさ」
友人からの褒め?言葉を思い出した。
でも、でも、本当に嬉しい。ふつふつと嬉しい。
ここに越して来てからの6年と3ヶ月の間、一日欠かさず話しかけてきたことが、本当になったのだから。
爺さんのことは、わたしが必ず守る。
誰にも手を出させないから。
カエデの爺さんの木肌は、ゴツゴツと硬くて荒い。
でも命の温かさと、長い年月を生きてきた賢さが、手のひらにしみじみと伝わってくる。
ここ数年、元気が少しずつ減ってきて、だから葉っぱが縮こまっている。
手遅れにならないうちに、一日も早く、木のお医者さんに診てもらわなければ。
大きな穴が空いた天井と、直径5センチぐらいの青紫のアザと、ちょっと元気が無いカエデの老木。
腹を立てたり、恐かったり、嬉しかったりの1週間。