ほっとするような暖かな日曜日。
私が、司馬遼太郎氏の小説を始めて読んだのは、中学生の頃だった。
幕末。
日本が、長い鎖国からの眠りから覚めて、国際社会に一歩踏み出す前の・・・所謂、過渡期。
開国か攘夷か・・・。
倒幕か佐幕か・・・。
狭い日本の国土を二分し、列強、フランス、イギリスも、アジアの覇権をかけて、争うなか、新撰組という組織を立ち上げた土方歳三を描く『燃えよ剣』である。
その『燃えよ剣』の中で、土方歳三と供に、将軍の侍医を務めた松本良順という人物が登場する。
近い将来、司馬氏は、松本良順について、作品を書くのだろうな・・・と、その当時思った。
そして、その医師・松本良順を主人公に、そして、もう一方、悪魔的記憶力の持ち主、島倉伊之助を軸に、展開していくのが、今日のお題『胡蝶の夢』。
開国前の日本では、西洋医学・・・蘭学が、主流となりつつあり、特に、外科では、顕著な功績を上げていたようだ。
泰平の眠りから覚め、動乱の時代へと向かっていく中、いくつかの戦乱を交え、外科的処置で、救える命が、あまりにも多かったのだろうと思う。
政権が幕府から朝廷に返還された大政奉還、戊辰戦争と時代が流れるなか、松本良順は、明治政府の軍医となる道を選ぶ。
一方、その天才的な記憶力を持つ島倉伊之助は、その余りある才能が、仇になり、身持ちを崩していく。
島倉伊之助は、所謂、イデア・サヴァンなのだろう。
ひとつの才能が、飛びぬけていると、普通のひとのような、普通の生活が困難になるようだ。
一度みただけで、細部に渡り、写真のように記憶してしまう人達がいる。
島倉伊之助もそのひとりで、オランダ語をあっという間に習得、それでも、奇行と人間関係が上手く行かず、破滅の道を進む。
人間関係を上手く構築できない天才・島倉伊之助を唯一理解していたのが、この『胡蝶の夢』に登場するもうひとりの医師・関寛斎である。
蜂須賀家の侍医となり、その後、市井の町医者となり、後に、北海道へ渡り、生涯、市民を診察する医師としての務めを全うする。
それぞれの蝶は、夢をみる。
私が蝶になったのか・・・それとも、蝶が私となったのか・・・人生、わずかな眠りの間にみる胡蝶の夢なのかもしれない。