久し振りに雨が降った。北から黒い雲が広がってきて、カミナリを伴う雨ではあったが、そんなに強い降りにはならなかった。にわか雨で、しばらくすると止んでしまったが、それでもなんとなく涼しくなったように思う。土曜日と日曜日は本当に暑かった。暑さの中での祭りは厳しかったが、終わってみればやり遂げた充実感に満ちていた。
メインの通りからは離れた場所にポツンと置かれたテントが私たちの屋台の場所だった。南にある駐車場から祭りにやってくる人々からは全くの死角になるし、屋台を楽しむ人々はつながりのない私たちの屋台まで足を伸ばすことはないようだった。かろうじて西側から来る人たちが立ち寄ってくれる。それでも私たちの最大の目標は祭りを楽しむことにあり、やって来た人たちに気持ちよく過ごしてもらうことである。アユの塩焼きは例年通り人気がある。何しろ釣り人でアユ焼きにこだわる友人が長い時間をかけて焼くので、販売は二の次なのだ。
適当なところで妥協せず、じっくり時間をかけて焼くので確かに美味しい。しかし、今年はスタッフの誰も食べられないほど買い手が続いた。販売は午後5時からと申し合わせで決まっている。そう言っても、午後からアユ焼きの準備にかからないと午後5時の時点までに焼き上げることはできない。焼いていれば珍しさもあって人が寄ってくる。美味しい匂いが食欲をそそる。「2本欲しい」と客が言い、「販売は5時からですから」と断るが、「売れないの!」とせがまれれば、「分かりました」と言うしかない。「いらっしゃい!アユの塩焼きはいかがですか」と呼びかけない消極的な販売である。
ところが、そこにある市議がやって来て、「販売は5時から。守れない場合は来年からは参加できなくなる」と言ってきた。彼もまた、私たちのところよりもよい場所で屋台を開いている。昔から人が良く、おそらく来年参加を拒否されるよとおせっかいから言ってきたのだろう。お客に不愉快な思いをさせるよりも停止処分を受ける方がマシと考えるのが私たち仲間で、「ありがとう」と聞き流す。中にはカッとなって、「怒鳴り込んでくる」と言い出す仲間もいるけれど、「絶対に言い争わない」と押さえてもらう。
午後5時からというのは祭りの開始に合わせるということだけれど、何時から販売したってかまわないと私は思っている。屋台の売り上げを伸ばしたいならそういう努力をすればいい。他の人がイチャモンをつけけては品がない。私たちの屋台で飲み物を売っているのは小学生だ。もう3年から4年ほど続けている。声がよく通るので、道行く人までも、「いい声しているね」と褒めてくれる。「子どもに販売などさせていいのか」と心配する人がいるけれど、私たちの仲間は積極的に責任を持たせている。
子どもたちは道行く人に「冷たい飲み物はいかがですか」と声をかけ、「ビールを2本」と言われれば、取り出してタオルで拭き、「ハイ、ビール2本です」と頭を下げて渡す。「2本で600円頂きます」とお金を受け取り、「ありがとうございました」と頭を下げてお金を受け取る。今年は3歳のひ孫も小学生と全く同じことをしていた。働くことの楽しさや仲間がいることの楽しさを彼らは身体で覚えていったと私は思っている。