先日、今年で首長を退任するという友人と話した。「辞めた後はどうするの?」と聞くと、「考えるとワクワクする」と言いながら、自分が立ち上げた会社の「営業種目を広げるつもりだ」と言う。いつも何かを追っている男だが、やっぱり大きな仕事をやり遂げてもなお自分ができることを夢見ている。
今は、私たちが若い頃のように何をやっても成功できる時代ではない。人口は必ず減少するから購買力の低下は必然である。そして金融経済はいずれ破たんするだろう。資本主義社会は形を変えるだろうが、それは人々の生活スタイルが変化するからだが、すでにその兆候は表れてきている。
成功することが人生の到達点だったアメリカンドリーム。先に観た演劇『セールスマンの死』はそんなアメリカを象徴していた。ところが今、アメリカの若者たちはアメリカンドリームにそっぽを向いている。車を買い、女の子を乗せ、恋して家を買う。そうしたアメリカの青年の夢は消えてしまった。車も家も持たない青年が増えているのだ。
彼らは車を持たないから郊外の広い土地に家を求めない。そうなると大型ショッピングモールではなく、歩いていけるスーパーで必要な物しか買わない。成人していながら親と暮らすことを恥ずかしく思っていたのに、最近では親と同居するブーメラン現象が起きている。親と同居しなくても、都会の中古の家やアパートをリホームして共同で住む生活スタイルになってきている。
この現象は日本でも見られる。そこで友人が考えている新しい仕事は不動産業のようだ。「リノベーション」という言葉をよく聞くが、中古の物件を若者の好みに合わせてリホームして売り出す不動産業らしい。
正社員なのに勤続10年になっても手取りは13万円の若者がいる。「残業代はない、有給休暇もない。あるのはミスした時の罰金だけ」というブラック企業である。先の見通しが立たなければ生活を切り詰めるしかない。生活を切り詰めれば、物は買わない。物を買わなければ経済は落ち込む。なのに、どうして「アベノミックスで経済はどんどん良くなる」と言えるのだろう。