久しぶりだった。子どもたちがまだ保育園か小学生の頃、よく友だちの家に集まって会食した。私は出来ないが麻雀をしたり、トランプに興じたり、5・7・5文字を書いてバラバラにして混ぜ合わせ、どの川柳がよいかを選んで遊んだりもした。
昨夜は先生の「お疲れさん会」で、久しぶりに食べ物を持って集まった。夫妻が旅行したフランスのワイナリーで仕入れてきたワインをいただいた。この日の先生の講演の話から、カミさんを亡くした友だちに話題が移った。彼は今、ひとりで暮らしている。「食事はどうしているの?」と聞くと、「外食が多い」と言う。
「やっぱり、みんなで食べるのはいいね」と、日頃は口にしないと言うワインを美味しそうに飲んだ。「カミさんを亡くして思った。時間をくれたんだと」。専業主婦だったので、食卓に着けば食事が出来、仕事以外の面倒なことに何も煩わされることがなかったと振り返る。豪快なカミさんのイメージだったが、よく気の付く女性だった。
6時から始まり、いつしか8時を過ぎ、9時を回ったのに、話が尽きなかった。両親が教員という環境も、彼が次男という点も私と似ていた。どこでどのようにして、人は人と出会い、ドラマを作り上げていくのだろう。
どうしてなのか覚えていないが、博物学の南方熊楠の話になった。すると、先生夫妻が部屋を飛び出して行き本を持って来た。先生は学生の時に古本屋で買ったという南方熊楠の著書で、1500円の値段の紙があった。印刷は大正15年とあるから、今なら相当いい値になるだろう。それにしても当時の学生にとって1500円はかなり支出だ。工学部の彼がどうして南方に関心があったのだろう。
私が南方のことを知ったのは大学1年で、図書館にあった新聞で読んだ。反権力の独学の人の印象が強い。彼女が持って来たのは、南方熊楠の生涯を描いた水木しげるのマンガ本だった。ふたりが共に南方熊楠に関心があったのも不思議だ。放課後子ども教室に水木しげるが大好きな女の子がいる。早速、借りて読んだ。