風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

たかが炊飯器と言う勿れ

2014-10-24 01:59:12 | ビジネスパーソンとして
 日経朝刊に連載されている「食と農」シリーズの月曜日の記事に「世界に広がる炊飯器」のタイトルのもと、コメ卸最大手の神明ホールディングがアメリカ西海岸にコメ加工工場を設け、来春から、ライスバンズ(表裏をこんがり焼きあげた手のひらサイズの薄いコメのパテで、電子レンジで1分間温めて、サーモン、アボカド、半熟卵を載せて食べる)を売り出す話や、中国の富裕層の間で「日本製の高級炊飯器でごはんを炊くのがステータス」という象印の奮闘ぶりや、ローソンのハワイの店舗が日本風おにぎりのコメを日本米に変えたところ、おにぎりに適したコメのもちもち感が現地で受けている、といったエピソードが多数取り上げられていました。食の安全を求める声も加わって、外食や小売りが国産米に回帰していること、また、コメの食べ方を突き詰めて来た日本の加工技術を通して、まだまだ消費拡大を狙えるという、元気の出るテーマ記事です。
 食品会社やメーカーの開発物語は、それは涙ぐましい、しかし実に興味深く、日本人に勇気と元気を与えてくれるような職人芸の世界が今なお色濃く残っていて、テレビや雑誌で取り上げられますので、必ずしも珍しいことではないのですが、受け手(読み手)である私の気の持ちようによって、感涙にむせぶこともあります。この日の日経に、続けて取り上げられていた2つのエピソードを再録します。
 一つは、大阪・堺の大衆食堂「銀シャリ屋 ゲコ亭」のご主人・村嶋孟さん(83歳)の話です。「飯炊き仙人」の異名をもつご主人の美味しいご飯を求めて、店には午後1時までの間に約200人がひっきりなしに訪れるそうですし、これまで多くの炊飯器メーカー社員が弟子入りし、釜の内部15ヶ所の温度を測ってムラのない炊き方を科学的に分析し、コメが重ならない広く浅い釜や二枚重ねの蓋などの工夫を量産化に繋げ、ヒット商品に育てたメーカー(象印「極め羽釜」)もあるのだそうです。83歳のご主人もご主人なら、メーカーもメーカーです。
 「かまど炊きのご飯を再現せよ」というのが炊飯器の開発担当者に共通する合言葉だそうで、それでもなお「食べ比べるとどんな高級炊飯器もかなわない」(東芝ライフスタイル)のが現実だそうです。
 もう一つは、パナソニックの「ライスレディー」の話です。開発中の炊飯器で炊いた白米を食べることを業務とする女性社員8人は、ご飯の味で炊飯器の機種が分かるほどの実力の持ち主だそうで、レディーたちに「美味しい」と言わせなければ発売できない徹底ぶりです。
 たかが炊飯器と言う勿れ。旅行にくる中国人が大挙して銀座や秋葉原で化粧品や炊飯器をお土産に買い求めるのは、日本で売られているのが偽物ではなく間違いなく「本物」だからですが、彼らだって(多分に流行に乗っているとはいえ)良いモノは分かっていると見えます。だからと言ってモノづくり大国・日本の復権を期待するといった大風呂敷を広げるつもりはありませんし、日本経済を牽引して欲しいといった途轍もない夢を語るつもりもありませんが、面目躍如に溜飲が下がる思いがするのは誰しも同じではないでしょうか。このあたりのこだわりはいつまでも失って欲しくない気がします。
コメント (3)
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