風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

オウムの闇

2018-07-07 00:40:30 | 日々の生活
 地下鉄サリン事件など、国家を転覆せんとする、現代の平和な日本にあっては荒唐無稽とも思える史上最悪のテロを計画・実行したオウム真理教の教祖・麻原彰晃ら幹部7人の死刑が、今日、執行されたらしい。1995年5月の麻原逮捕から実に23年、2004年の一審での死刑判決(弁護側は即時に控訴したが、裁判を受ける能力がないなどとして控訴趣意書を提出せず、控訴審は一度も開かれないまま死刑判決が確定)から14年もの歳月が流れた。
 私は地下鉄サリン事件当時、アメリカに駐在していたので、日本がどれほどの衝撃に見舞われたかの肌感覚がない。その年の1月に阪神・淡路大震災があって、大阪の実家に電話連絡すると、私が残していた本棚の本が全て崩れ落ちたばかりでなく、古い家の壁にも亀裂が入ったと聞いて、むしろそれで済んだことに安堵したのだったが、その二ヶ月後、両親はたまたま首都圏の姉のところに遊びに行って、事件前日に地下鉄・日比谷線の該当区間に乗るというニアミスがあったと後から聞いて、驚愕したものだった。この事件は、その筋によるとむしろアメリカ政府の方が衝撃を受け、化学製剤によるテロ対策を真剣に検討し強化するきっかけになったと言われ、実際にTime誌は麻原彰晃の無表情だからこそふてぶてしい不気味な顔を表紙に掲載したのを覚えている(そのTime誌は、今も押入れの奥のどこかにある)。
 一体、オウム真理教とは何だったのだろう。
 Wikipediaは冒頭、「かつて存在した麻原彰晃を開祖とする新興宗教。日本で初めて化学兵器のサリンを使用し、無差別殺人を行ったテロ組織でもある」と書き、産経記事は「教団では『正大師』『正悟師』といった序列を作り、ホーリーネーム(教団内の宗教名)を与えるなどして、財産の寄進や信者の勧誘を競わせたほか、薬物などを使って信者をマインドコントロール。やがて武装化を進め、教団内に省庁制を導入、疑似国家的な組織を形成した」と短く紹介する。麻原の確定判決では一連の動機を「(麻原死刑囚が)救済の名の下に日本国を支配して自らその王になることを空想。その妨げになる者をポア(殺害)しようとした」と認定した。しかし麻原本人の口からはついぞ語られることはなかった。全く、闇の中である。
 もう一つの疑問は、なぜ今頃、死刑執行されたのかということだ。今なお死刑制度を維持し、一度に7人もの執行をした日本のことを、欧米社会は白い目で見ているかも知れない。
 産経新聞電子版は、来年は天皇陛下の譲位と皇太子さまの即位・改元に伴う行事があって「慶事が続く年の執行は回避すべき」(法務省関係者)であり、再来年には2020年東京オリ・パラと、京都で開催される「国連犯罪防止・刑事司法会議」(コングレス)が予定され、欧州を中心に死刑制度反対国も多く来日する国際イベントを控えた時期の執行も、外交上、適切ではないとされ、結果、「年内執行は法務省の命題」(政府関係者)だったと説明する。更に年内と言っても、9月には自民党の総裁選が予定され、今の上川陽子法相が交代して執行命令に難色を示す人になると厄介であり、更に今月下旬に中央省庁の大型人事を控え、11日からの安倍首相の外遊を踏まえ、日程が固まったと解説する。
 刑事訴訟法によれば、死刑執行は判決確定から6カ月以内に法相が命じなければならないと定めているらしい(但し共犯者の逃亡中や公判中には執行をしない運用)。その意味では、教団最古参の信者の一人だった高橋克也が、特別手配を受けてから17年に及ぶ逃亡の末に逮捕され、一連の事件の「最後の被告」として殺人罪に問われて、今年1月に最高裁が上告を棄却する決定をして、無期懲役とした1、2審判決が確定したので、一応、今月がその期限となる。それもあってか、法務省は今年3月には、死刑囚13人のうち7人をそれまで収容していた東京拘置所から執行施設のある5拘置所に移送していたらしい。因みに、死刑囚が再審請求中の場合も執行が回避される傾向にあり、実際に現在収容中の100人以上に及ぶ確定死刑囚の内、7割は再審請求中で「大半は執行引き延ばし目的」と指摘されながら執行を猶予されており、法務省によれば、ここ10年で死刑確定から執行までにかかった平均年数は約5年に及ぶという(オウム事件の13人の死刑囚の収容期間は既に平均を超えていた)。
 こうして十分に予想できた事態のようだが、公安調査庁は、オウムの後継団体であるアレフなどの動向で、何か過激化する兆候を掴んでいたのではないかと、つい勘繰りたくなる。
 かつて2000年には、麻原奪還を目的に日本国内で連続爆破テロを計画、自動小銃などを準備していたロシア人の動きが発覚したらしいし、現在でもアレフなどは麻原への帰依を深めているとされ、死刑執行命令を出した上川法相が報復される懸念もあるとされる。最近の公安の立ち入り検査では、アレフ内部に、麻原が殺人を示唆的に勧めた教義「タントラ・ヴァジラヤーナ」の説法教材が存在することも判明し、警察幹部は「危険な体質は消えていない」と見ているらしいし、麻原が神格化されると、遺骨や遺品などは後継団体の正統性を示すために重要になるので、(遺骨などを奪い合う)内部抗争に警戒が必要だと懸念する声もあるらしい。エリート大学出身者も多く関わったとされるオウム問題が終ったと見るのは早計ではないだろうか。
 日本では、狂信的な宗教団体に対する抗体が乏しく、お人好しで忘れっぽい日本人はなおのこと、このまま改元だのラグビーW杯やオリ・パラだの、慶事に浮かれるのであろうが、オウム問題は闇に葬られたまま、今後、長きにわたってその潜在的な脅威に苛まれるのかと思うと、空恐ろしいものがある。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする