昨年12月、トランプ大統領と習近平国家主席との間で貿易戦争の一時休戦が約されてから5ヶ月、閣僚級協議(米通商代表部代表のライトハイザー氏と習氏側近の劉鶴副首相)で中国の産業補助金削減や知的財産権保護、為替政策の透明化など7分野について150ページにわたる合意文書(案)が纏められたが、突然、105ページに修正・圧縮されて、一方的にアメリカ側に送付されたらしい。アメリカとしては中国による構造改革の実行を担保するべく法的拘束力をもたせようとしていたところ、中国指導部によって「不平等条約」に等しいと判断され、軒並み削除・修正されたのだという。「不平等条約」って何やと思ったら、アヘン戦争後の南京条約や日清戦争後の下関条約などを指すらしい。「中華民族の夢」として「中華民族の偉大なる復興」を掲げ、帝国主義時代の屈辱の歴史を晴らさんとしているとは、つとに聞かされていたが、まさか民族意識高揚キャンペーンのレトリックとしてだけではなく具体的な外交交渉においても百数十年前の屈辱が語られるとは、あらためて中国人の執念深さには恐れ入る。しかも今回の合意内容(案)が果たして「不平等」なのかどうか・・・内政干渉に近い押しつけがましさはあるが、中国のビジネス・プラクティスがとてもフェアとはいえないシロモノなのは、世界中のビジネス・パーソンは誰しも常日頃感じていることだろう。
劉鶴副首相は「中国は原則にかかわる問題では決して譲歩しない」と強気の発言をしていたが、「原則」=「中国の主権と尊厳の尊重」、すなわち中国共産党の一党支配を揺るがしかねない構造的問題については譲らないという主張をあらためて明確にしたことになる。かつて、習氏は政府が管理・監督する国有企業について「経済の根幹であり、改革が進む中でも政府は市場のように盲目になることを避けなければならない」と慎重に進める考えを示していた。既得権益層の抵抗や社会的な混乱を懸念するからだが、天安門から30年の節目にあたり、北京は政治の季節に入って神経質になっている側面もあるだろうし、かつて日米構造協議によって日本が骨抜きになり、その後の失われた10年なり20年と言われる凋落の歴史を一つの教訓として学んでいることだろう。
早速、トランプ大統領は「中国が約束を破った」と激怒し、制裁関税第四弾発動の指示を出した。
かねてトランプ大統領は貿易赤字のことしか理解しないと揶揄されていたが(苦笑)、昨年8月の国防授権法(政府調達から華為などの中国製通信機器や監視カメラを排除、中国向け機微技術の輸出規制強化、中国によるアメリカ内投資への規制強化を含む)は超党派で採択されたし、中国に対する長年にわたる関与政策が失敗に終わった挫折感と、技術(ひいては軍事)覇権を巡る対決姿勢は、もはやアメリカ内で与野党を問わず共有されているので、安易な妥協が許される雰囲気ではなさそうだ。それに、次期大統領選挙対策として、アメリカ国民の雇用を奪っているとされる(というのは誤解だと思うが)中国に強く出るのは、トランプ大統領の支持層には強くアピールするだろうし、チベットやウイグルに住む少数民族に対する弾圧を問題視し人権を重視するグループや、同じくチベットやウイグルで信教の自由が奪われていることを問題視し信教の自由を重視するグループにもアピールするので、トランプ大統領としては比較的安心して利用できるテーマだろう。
外交交渉にはWin-WinかLose-Loseしかないと言われるが、昨年、アメリカの対中輸出は1200億ドルだったのに対して、中国の対米輸出は5400億ドルと4倍以上の規模の差があり、制裁関税の応酬はアメリカに有利とされているし、中国は対抗措置として(中国に進出しているアメリカ企業の)アメリカ製品の不買運動など、何をしでかすか分からないところもあるにはあるが、昨年の制裁関税によって既に年約1650億ドル相当の貿易の流れが変わったとされるように、中・長期的には、中国に進出している外資が生産拠点を東南アジア等に移管する流れが強まるだろうから、中国に厳しい展開となりそうだ。世界経済の減速など、お互いに経済の共倒れなど望んでいないので、どこかで手打ちが行われるだろうが、ディールの達人・トランプ大統領の「仁義なき戦いぶり」に注目したい。
劉鶴副首相は「中国は原則にかかわる問題では決して譲歩しない」と強気の発言をしていたが、「原則」=「中国の主権と尊厳の尊重」、すなわち中国共産党の一党支配を揺るがしかねない構造的問題については譲らないという主張をあらためて明確にしたことになる。かつて、習氏は政府が管理・監督する国有企業について「経済の根幹であり、改革が進む中でも政府は市場のように盲目になることを避けなければならない」と慎重に進める考えを示していた。既得権益層の抵抗や社会的な混乱を懸念するからだが、天安門から30年の節目にあたり、北京は政治の季節に入って神経質になっている側面もあるだろうし、かつて日米構造協議によって日本が骨抜きになり、その後の失われた10年なり20年と言われる凋落の歴史を一つの教訓として学んでいることだろう。
早速、トランプ大統領は「中国が約束を破った」と激怒し、制裁関税第四弾発動の指示を出した。
かねてトランプ大統領は貿易赤字のことしか理解しないと揶揄されていたが(苦笑)、昨年8月の国防授権法(政府調達から華為などの中国製通信機器や監視カメラを排除、中国向け機微技術の輸出規制強化、中国によるアメリカ内投資への規制強化を含む)は超党派で採択されたし、中国に対する長年にわたる関与政策が失敗に終わった挫折感と、技術(ひいては軍事)覇権を巡る対決姿勢は、もはやアメリカ内で与野党を問わず共有されているので、安易な妥協が許される雰囲気ではなさそうだ。それに、次期大統領選挙対策として、アメリカ国民の雇用を奪っているとされる(というのは誤解だと思うが)中国に強く出るのは、トランプ大統領の支持層には強くアピールするだろうし、チベットやウイグルに住む少数民族に対する弾圧を問題視し人権を重視するグループや、同じくチベットやウイグルで信教の自由が奪われていることを問題視し信教の自由を重視するグループにもアピールするので、トランプ大統領としては比較的安心して利用できるテーマだろう。
外交交渉にはWin-WinかLose-Loseしかないと言われるが、昨年、アメリカの対中輸出は1200億ドルだったのに対して、中国の対米輸出は5400億ドルと4倍以上の規模の差があり、制裁関税の応酬はアメリカに有利とされているし、中国は対抗措置として(中国に進出しているアメリカ企業の)アメリカ製品の不買運動など、何をしでかすか分からないところもあるにはあるが、昨年の制裁関税によって既に年約1650億ドル相当の貿易の流れが変わったとされるように、中・長期的には、中国に進出している外資が生産拠点を東南アジア等に移管する流れが強まるだろうから、中国に厳しい展開となりそうだ。世界経済の減速など、お互いに経済の共倒れなど望んでいないので、どこかで手打ちが行われるだろうが、ディールの達人・トランプ大統領の「仁義なき戦いぶり」に注目したい。