風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

香港ではいま

2019-06-16 13:30:39 | 時事放談
 香港では「逃亡犯条例」を巡って大規模デモが続いて大混乱に陥っていたが、どうやら立法会(議会)での審議が無期限に延期されることになった模様だ(しかし撤回ではないから予断を許さない)。香港特別行政区政府、ひいては北京政府は、香港での雨傘運動から5年が経ち、反対運動の盛り上がりを甘く見ていたのではないだろうか。しかし今回は「一国二制度」が法執行面でいよいよ有名無実化されるとの危機意識から、香港のビジネス界までもが真剣に立ちあがった。米中対立のあおりで華為CFOがカナダで拘束されて以来、中国で中国在住カナダ人拘束という嫌がらせが公然と行われており、この法律が成立すれば香港在住のカナダ人など外資系企業に勤務する外国人にとっても他人事ではなくなるからだ。
 一国二制度は、50年もすれば、経済発展する中国で政治的自由も認められるようになるだろうという西欧的な楽観的な見通しに立って纏められたものだろうと思う。まさか50年も経たない内に逆行する動きが二度にわたって出て来ようとは予想していなかったのではないかと思うが、イギリスとの条約で合意されたものである以上、先ずはイギリスが文句を言う筋合いのものだと思うが、かつて7つの海を支配した大英帝国の末裔も、足元に別の火種が燻るどころか燃え始めていて、体力的にも精神的にもそれどころではないのだろうか。中国という異形の超大国の出現は、政治的な価値観や地域の秩序観の対立になりつつあるのが明白になってきた昨今、法の支配は西欧にとって価値観の根幹をなす要素の一つであり、声明の一つでも出して欲しかった。
 この幕引きは、今月28~29日に大阪で開催されるG20首脳会議までに混乱を収拾せよとの中国当局の指示によるとされる。米中貿易摩擦は詰まるところ米国による構造改革要請であって、国家資本主義という中国共産党統治の根幹に触れるものであり、中国にはそうそう受け入れられるものではない。習近平国家主席にとって、中国共産党統治に公然と反旗を翻すかのような「暴動」を見過ごすわけには行かないのだろう。かつて改革開放と表裏一体でイデオロギー・・・反日などの愛国主義教育を徹底することで自由の拡散を抑制して引き締めを図り、天安門の「暴動」抑圧はその後の社会の安定と経済発展で正当化することで居直り、今は情報技術を駆使して史上稀に見る監視社会を作り上げ、中国的に「歴史」の歯車をコントロールして、西欧が思い描くような楽観的な自然発展的「歴史」とは異なる道を歩んでいる。果たして既に自由を謳歌している香港の人々に、人類の自然発展的な「歴史」の歯車を後退させるような事態を簡単に呑ませられるのか疑問であり、それを強要するときの軋轢と悲劇は想像したくない。
 もう一つ重要なことは、香港と台湾が連動するようになっていることだ。少なくとも一国二制度が揺らぐ香港の憂慮すべき事態に、台湾は共振し、共鳴し、明日は我が身と身構える。折しも習近平国家主席は、年初、台湾に平和統一を呼びかけた「台湾同胞に告げる書」の40周年記念式典で演説し、「祖国統一は必須であり必然だ」とした上で、一つの国家に異なる制度の存在を認める「一国二制度」の具体化に向けた政治対話を台湾側に迫った。習近平国家主席にとって、台湾を統一し「中国の夢」実現の成果を挙げることこそ、毛沢東や鄧小平などの偉大な指導者に肩を並べる条件だと言われる。今月初めにシンガポールで開催されたアジア安全保障会議では、中国・国防相が「他国が台湾の分離を図るのであれば、全ての犠牲を払って戦うという選択肢しかない」などと勇ましく演説した。台湾が独立に向かう動きを見せれば中国が牽制することを繰り返してきたので、台湾の世論調査では独立を希望するとは明言しないし、もとより中国との統一も希望しないので、飽くまで現状維持が望ましいと、意思表示してきた。そんな微妙な状況に置かれた台湾では、若い人ほど「中国人」ではなく「台湾人」としてのアイデンティティが着実に浸透しており、こうした状況で時間は習近平国家主席に味方しない。その焦りが1996年の台湾海峡危機のように陰に陽に牽制の手を尽くすだろうと、来年の台湾総統選挙に向けて大いに懸念されるところである。陰に、のところは他人事でもない。
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