風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

安倍首相のイラン訪問

2019-06-22 00:01:00 | 時事放談
 安倍さんがイランとアメリカの間の仲介の労をとったところ、よりによってイラン訪問中に日本のタンカーが何者かに攻撃されたことで、ガキの使いやあらへんで~とばかりに、内外のメディアから厳しい批判の目を向けられている。日本のタンカーとは分かっていなかったのではないか、だから日本のタンカーが攻撃されたのは偶然だったのではないかという見方もあり、ちとあんまりではないかと思う。そもそもアメリカのメディアの目線はトランプ大統領に対して厳しく、トランプ大統領の名代に過ぎない(トランプ大統領に使われる憐れな!?)安倍さんに対してと言うよりも、トランプ大統領のやり方を冷ややかに見ていることだろうし、欧州のメディアにはトランプ大統領に取り入ることが出来た安倍さんという「ドナルド」「シンゾー」関係に対する「やっかみ」もあるだろう。そして言うまでもなく、日本のメディアはアベ憎けりゃ袈裟まで憎いタイプの、批判のための批判に過ぎるように思う。
 正直なところ、今回の安倍さんのイラン訪問に対して多くを望んでいなかった(!)私には、失敗と言い切るのは勿体ないと思う。まさか40年間も国交がないイランとアメリカの間を取り持って、たった一度の訪問で問題解決を託されたとはとても思えないし、安倍さんだってそんな高望みをしていたとは思えない。しかもトランプ大統領のようなクセのある人物がアメリカ大統領なのだから、なおさらである。あのキューバのときですら、ローマ法王が立ち上がって仲介したと言われたものだ。中東のことに、東洋の島国の首相が関与するのは、本来であればちょっと荷が重過ぎる話だ。とりあえず安倍さんは、トランプ大統領は話す相手には値しないけど安倍さんならと、ハメネイ師から厚遇されるなど、イランから熱烈歓迎され、あらためて日本とイランとの関係が良好であることが確認できた(笑)。恐らく、イランとアメリカの両国それぞれのメッセージを伝えて、こじれた関係を修復に向かわせる環境づくりの第一歩になったに違いない。タンカー攻撃が意図的だったとしても、それで水を差されたのは関係改善を快く思わない人たちがいるからで、両国関係者の中からも勇ましい発言が聞こえて来るが、確かに両国ともにメンツがあるのは分かるが、さりとて両国とも戦争を望んでいるわけではなく、両国の動きを見ていると、そこには至らない一定の了解があるように思う。
 そもそも問題の発端は、トランプ大統領が、「反・オバマ」という一点でイラン核合意から離脱したことにあった。娘婿のクシュナーはユダヤ教徒だし、国内の福音派(有権者の28%とも?)は親・イスラエルなので、イランを叩くことは支持率アップに繋がり、トランプ大統領にとって選挙対策として正当性がある。では対案は、と言うと、もう一度交渉し直すこと・・・では話にならない。今のイラン核合意は、NPT(核不拡散条約)と同じで、単に時間稼ぎのところがあって必ずしも良策とは言えないが、他にalternativesがない以上は仕方ない、というのが安保理・常任理事国5カ国+ドイツが到達した現実的なオトナの合意だったと思う。因みに、このイラン核合意からの離脱は、TPPからの離脱と、オバマケアの廃止を加えて、「反・オバマ」としてぶち上げた公約の中で大いに問題アリの三傑とも言うべきものだと思う。いずれも、恐らくトランプ大統領本人が、ちょっと失敗だったかな・・・と、心に引っ掛かるもの(敢えて「反省」とまでは言わない、サルでも反省できるが、トランプ大統領には無理だ 笑)があるのではないだろうか。その証拠に、例えばTPPは、本人の面前で口にすると感情的に反応するので「禁句」になっていると言われる。でも真面目なトランプ大統領のことだから、公約した以上、なかなか引くに引けない。かと言って、安保理常任理事国5カ国+ドイツと仲が良いわけではないのでアテにも出来ない。膠着状態に陥った本件で仲介を頼めるのは、結局、イランと良い関係を保っている、そしてトランプ大統領本人とは溺愛の、日本の安倍さんしかいない、というのがアメリカから見えてくる現実である。
 他方、イランはすっかり経済が停滞し、このまま制裁が続くようでは、ハメネイ師もロウハニ大統領も穏健派としての立場がなくなるし、国内の強硬な保守派を抑えきれないと危惧していたと思う。だからと言って、今回はトランプ大統領から売られた喧嘩であり、自分から言い寄るのは癪に障るが、トランプ大統領を説得するのに英・独・仏ではアテにならないので、トランプ大統領と昵懇の安倍さんに仲介を求めたのだろう。イランの外相が急遽、来日して河野外相と会談したのは5月下旬、トランプ大統領が国賓として訪日する直前のタイミングだった。イランの思いを日本に伝え、それをトランプ大統領に伝えるよう要請したと考えるのが自然だと思う。そして安倍さんが、世界が注目する中でイランを訪問することで、あらためて世界はイランの立場を理解したと思う。極論すると、それだけでイランは先ずは満足だったのではないかとさえ思うが、そんなことはオクビにも出さない。国内に強硬な保守派を抱えており、ハメネイ師にしても穏健派のロウハニ大統領にしても、トランプ大統領のアメリカをそう簡単に許すわけには行かないのだ。
 では、タンカー攻撃は誰がどういう意図で行ったことなのか・・・アメリカとイランはそれぞれ、「(イランは)安倍首相を侮辱した」(ポンペオ米国務長官)、「米国は証拠のない主張をして、安倍訪問を含む外交努力を破壊した」(イランのザリフ外相)と、いずれも安倍さんのメンツが潰されてしまったことを気遣うそぶりを見せているが、お互いにメンツを保ち、国内向けにポーズをとる必要があるという意味では、何でもあり得る状況だと思う。ユーラシア・グループの専門家は「(日本のタンカーに対する攻撃は)ペルシャ湾岸地域の安全保障は、自国経済の安定が条件だと示そうとするイランの組織的な行動(イラン革命防衛隊のことか?)の一環だろう」との見方を示したが、イラン革命防衛隊が直属上司であるハメネイ師の顔に泥を塗る行為をやるとは俄かに考えづらく、そうだとすればせいぜいイラン革命防衛隊の一部の強硬派が暴走したと考える方が妥当かも知れないし、安倍さんによる緊張緩和を望まない勢力、緊張を維持しイラン封じ込めを続けたいという意味では、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イスラエルなどの反・イランの国々か、そこに繋がる組織が偽装した可能性もある。イラン側が仕組んだのか、アメリカ側か、はたまた第三勢力か・・・結局、真相は闇のままかも知れない。
 今のイラン情勢は、「核拡散・不拡散」という一点において、朝鮮半島情勢と連動していることも、話をややこしくしているポイントだと思う。イランは、アメリカによる制裁解除を望んでいるが、他方で米朝協議の動向をしっかりwatchしているはずで(逆に金正恩委員長も関心をもってイラン情勢をwatchしているに違いない)、アメリカが北朝鮮制裁をなかなか解除しないのを見て、直接交渉ではラチがあかないことは理解しているものと思われる。トランプ大統領としても、北朝鮮に厳しく対処している手前、イランとの中途半端な合意は許せなかったのは理解できるが、だからと言って、このままイランに核開発を再開させるようなことになっては、戦後一貫して国際社会が唱えてきた「核不拡散」のタテマエに瑕がつく。理念や価値観に興味がないトランプ大統領でも、交渉上の立場を悪くすることは望まないように思う。勿論、戦争は望まないけれども、軍事的な威嚇を控えることはないだろう。
 米国のトビアス・ハリス氏という学者は「軍事という要因にまったく無力な日本はこの種の紛争解決には効果を発揮し得ない」「日本にとっては、米国とイランの間の緊張を緩和するという控えめな目標さえも、達成は難しいだろう。日本は確かに米国およびイランの両国と良好な関係にあるが、両国の対決を左右できるテコは持っていない。なぜなら日本には軍事パワーがまったくないからだ」などと失礼な発言をしたらしいが、むしろ「非軍事」にこそ日本の強みがあるのは、昔も今も変わらないのではないかと思う。もう少し安倍さんの出番があって、何がしか進展があることを期待したい。
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