ほっぷ すてっぷ

精神保健福祉士、元新聞記者。福祉仕事と育児で「兼業」中。名古屋在住の転勤族。

人生への深入り

2008-01-17 00:28:58 | Book
誰もが、人生の一貫性を求める。
それが「自分」というものを定義するような気がするから?

じゃあ何に一貫するべきか。
そうやって悩む。
悩んで、何かに挑戦して、何か結果が出て、
そこに思いがけないアクシデントが加わる。

有島武郎、この人は、よりによって文学者の道を選んだ財産家だ。
米騒動が起きた大正時代、
トルストイを読みながら自らの農場を農民に明け渡したような人だ。
一貫した理念、人生にこだわっていた。
それを達成できないうちに、もしくはやや反する形で
人並みに妻を持ち、子供を持った。

小さき者、すなわち彼の子供たちの成人を思ってこう書く。

「ある時はお前たちの誕生を憎んだ。
 なぜ自分の生活の旗色をもっと鮮明にしない中に結婚なぞをしたか。
 妻ある為めに後ろに引きずって行かれねばならぬ重みのいくつかを、
 なぜ好んで腰につけたのか。
 なぜ二人の肉慾の結果を天からの賜り物のように思わねばならぬのか。
 家庭の建立に費やす労力と精力とを自分は他に用うべきではなかったか。」

こんなにも深く難しく悩まなくとも、なんとなく、こういう気持ちは理解できてしまう。

でも彼は、妻の若い結核の死から、自らの結果を得た。

「私たちは、この損失のお陰で生活に一段と深入りしたのだ。

 人生を生きる以上、人生に深入りしないものは災いである。」


人生を生きる以上、人生に深入りしないものは災いである。

一貫しない、矛盾したように感じる部分とどう付き合っていくかに悩んだときに、
もう一度頭に浮かんでくる気がする。
だいたい、自分に納得がいってから満足な選択をするようじゃ
どれだけ長生きしても足りないのだ。

『小さき者へ』有島武郎(1918)