11月19日のNY金は、ウクライナ情勢の緊迫化を懸念した買いに続伸した。
通常取引は前日比16.40ドル高の2631.00ドルで終了した。17日に一部米系メディアがバイデン米政権がウクライナに供与した長距離ミサイルをロシア本土への攻撃に使用することを容認したと伝えていた。さっそくウクライナ側が攻撃に着手したと19日に報じられ、情勢の緊迫化を懸念した逃避需要を集め上昇した。
ただし、一時2643.40ドルまで買われたものの上値は限定的だった。
ロイターによるとロシア国防省は19日、西部ブリャンスク州の軍事施設を狙い、ウクライナ軍が同日未明に米国製の長距離地対地ミサイル「ATACMS」を撃ち込んだと発表した。こうした動きに反発し、ロシアのプーチン大統領は19日、核兵器の使用条件を示した核ドクトリン(核抑止力の国家政策指針)を改定した。ロシアが核兵器使用基準を引き下げると発表したことに市場は反応し、米国債が買われ利回りは低下、ドルも上値を抑えられたことでNY金は買いが向かいやすかった。
折しもトランプ次期政権誕生が固まり、ファンドの買いポジションが大きく減少、売りが一巡しており値動きが軽くなっているタイミングでもある。
ただし、午前中盤にかけての上昇が一服した後は、米金融政策を巡る不透明感などが重しとなり、買いの勢いは鈍化した。ロシア側の威圧的な行動が伝えられる中で、米政府がロシアの核ドクトリン改定に公式に反応しない方針を示唆したことも(つまり相手にしなかった)、その後の反応が沈静化した背景とみられる。
ウクライナ侵略戦争が新たな段階に入ったことは間違いないものの、このまま一気にエスカレートするとの見方は少ない。 核兵器使用については、プーチン大統領は以前からその可能性をちらつかせて来た経緯がある。ただし、ロシアのラブロフ外相は19日、核戦争の勃発を阻止するためにあらゆる手段を講じると発言している。
米金融政策を巡っては、19日カンザスシティー連銀のシュミッド総裁がネブラスカ州オマハで講演。「金融政策の引き締めを緩和し始める時期ではあるが、金利がどこまで下がるか、最終的にどこで落ち着き得るかはまだ分からない」とした。13日のダラスでの講演でも同様の意見を表明していた。
夏以降の米経済指標は堅調さを維持しており、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)にて0.5%の大幅利下げを実施したものの、ここに来て米利下げサイクルの見通しは大きく変わっている。実際にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長も14日の講演で「経済は利下げを急ぐ必要性を示していない」と発言している。
なお、12月の0.25%利下げは濃厚と見られるが、その先25年1月は金利水準据え置きの可能性も高まっている。この点でも、金市場を取り巻く環境は変わっている。