リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(10)

2022年11月16日 14時32分46秒 | 音楽系
ザ・スクール・オブ・ミュージック(音楽道場)は現在ロンドンの大英図書館にあります。私が持っている資料はかつての大英博物館ミュージックルーム時代に手にいれたものです。

右手薬指使用に言及している部分が下のページです。



赤の↓が示しているところが該当箇所です。譜例の下の解説にあるように3つのドットは薬指を表します。なお、青色の矢印で示した箇所は、3つのドットが付いていて薬指で弾くという指示になっていますが、譜例の解説(青色の下線部)では中指で弾くとありますので、多分誤植だろうと思います。

青下線部の原文:
& last of the 4 followes d in the small Meanes, striken upward with the second finger
([最初の小節の]4つの[タブの]文字のうちの最後、2コース上にある d は2番目の指[=中指]でもって上方に弾かれます。)

ロビンソン自身および彼の弟子たちはこのような指使いで演奏していたわけです。ではダウランドはどのような指使いで弾いていたでしょうか。それははっきりとはわかりません。ダウランドがロビンソンの曲を弾いたら(そいうことがあったかどうかはわかりませんが)、ロビンソンの指使いではなかったかも知れません。反対にロビンソンがダウランドの曲を弾いたら、これは技術的なエビデンスがあるので、この「音楽道場」で示されているような指使いをするでしょう。

イギリスのルネサンス音楽の時代に薬指について言及している理論書が伝えられている以上、前回のエントリーの1.については、間違っているということがおわかりになったと思います。まぁいろいろな指使いをしていたということでしょう。我々としてはどうすればいいのかというと、薬指は使っても使わなくてもどちらでもいいということになります。ただし、ロビンソンが薬指を使うケースは、音が離れた位置(弦と弦が離れている)にあるときということなので、拡大解釈して例えばディミニューションでも薬指を使うということはありません。いくら「流派」が異なるとは言え、時代的に共通点しているところは沢山あります。現代ギターの指使いの考え方をリュートに持ち込んではいけません。