リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(7)

2022年11月11日 10時44分36秒 | 音楽系
トランブルマン(tremblement)というのは英語だとシェイク(shake)にあたることばです。ブサールの論文にもシェイクについての言及がありました。歌のコブシみたいに震わせるということですが、ゴーティエの本には具体的に書かれています。タブに書かれたコンマが、タブの文字の1音上から弾くという根拠がここに示されています。



第7の規則
文字の後にカンマがある場合、その弦を左手の指のどれかで引っ張るべきこと・・・



この記述のあと、1回、2回「引っ張る」・・・という記述が続きますが、この「引っ張る」は明らかに今のギター奏法で言う「プリング・オフ」に相当し、開放弦にもその記号がついていることからタブの文字の(音階上の)1音上から弾くということがわかります。

同じコンマ様の記号でも、付いている音符の長さによって弾き方が変わることがわかりました。この記号はとても多義的なものだということです。

第7の規則の終わりに次のような記述もあります。


・・・しかしそれぞれの作品の旋律と速さ、曲想にしたがって装飾(アグレマン)の種類を扱ってよいことを心に留めておくべきである。


ここが重要なところだということです。しかしこの記号の多義性に加えて装飾自体の自由度があるということがわかっても、それだけでは全く不十分です。実はその先にあることこそ本質的なことです。