リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(15)

2022年11月27日 17時32分22秒 | 音楽系
先述しましたように、ヴロツワフ大学図書館にあるMf.2002手稿本の始めの方のページに22項目にわたって奏法や諸記号、調弦の解説などが書かれています。アメリカ・リュート・ソサエティのジャーナルVol.IX(1976)にダグラス・オールトン・スミスとピーター・ダナー共著の論文が掲載されていて、同手稿本の解説とそれら22項目の翻訳が掲載されています。それらをいくつかかいつまんで紹介していきたいと思います。

22項目中3番から17番までの15項目がルサージュのものをほぼ引き写しているようです。次のような感じです。

ルサージュ(1695)の15項目→Mf.2002の3番~17番。

そして追加された部分はいつ頃書かれたかということに関して、スミスらはルサージュの出版からまる一世代後くらいだろうという推測をしています。その根拠として次の2点をあげています。

(1)13コースリュートは1830年代にならないとドイツ語圏諸国では一般的とは言えなかったが、件の解説では13コース楽器を扱っている。

(2)同手稿本に収められている曲のうち1720年頃に書かれたヴァイスのパルティータ(ソナタ)ヘ長調に1739年という筆記の年号が書かれているので、同手稿本の筆記は1720年頃以前はありえず、また1740年頃以降に完成していたこともありえない。

手稿本は何年もかけて筆記していった可能性がありますので、(2)の根拠はなかなか実証的です。