リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロックリュート奏法の歴史的根拠と実践(6)

2022年11月09日 19時17分21秒 | 音楽系
今度は装飾の記号について見ていきましょう。



タブの文字の横に付けられているコンマの様な記号は17世紀後半頃から18世紀前半頃の作品で最もよく見られるものです。これについてはいくつかのソースで解説がなされています。例えばドニ・ゴーティエの「リュート作品のタブラチュア集」(1680年頃)の前文には具体的にどう弾くのかの記述があります。


第7の規則
文字の後にカンマがある場合、その弦を左手の指のどれかで引っ張るべきことを示している。すなわち音符のリズムサインにカーブ型の印(=八分音符)がひとつあるときは一度だけ、垂直線(=四分音符)のときは2回、垂直線に付点があるときは複数回、カデンツの終わりまでトランブルマンという装飾を行う。しかしそれぞれの作品の旋律と速さ、曲想にしたがって装飾(アグレマン)の種類を扱ってよいことを心に留めておくべきである。


註)
この訳文は小川伊作氏の論文「17世紀フランス・リュート音楽研究(1)ドニ・ゴティエの2冊のリュート曲集の緒言をめぐって」にある日本語訳を元に中川が一部分かりやすく書き直しました。30年くらい前に知り合いのスイス人の友人にこのドニ・ゴーティエの前文の英訳をお願いしたことがありました。中川による一部書き直しはこの英訳と小川氏の脚注を元にしています。多分正確だと思いますが。