社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「赤ちゃんの死へのまなざし-両親の体験談から学ぶ周産期のグリーフケア-」

2011-08-24 14:57:33 | その他
竹内正人・編著/井上文子・井上修一・長谷川充子・著

死産を体験した両親と、そのお産に立ち会った助産師の振り返りを中心に、編著者である産科医が周産期におけるグリーフケアの重要性を説いている。
周産期のグリーフケアのありようについて、体験者の言葉はとても重く、自分のものとして咀嚼するのは少し大変であった。しかし周産期の領域に限らず、医療従事者や医療の現場に出ることを検討している方たちにとっては、気付かされることが多い本だと感じた。

引用
・(胎内で赤ちゃんが亡くなっているという)宣告が医療者にとってもストレスでないはずがありません。その大変さは理解できるのですが、最初の告知のあり方が、家族の赤ちゃんの死の受け止め方にも大きな影響を与えることを医療者には理解してほしいです(p.27)。
・(退院後、夫婦で周りからの連絡を遮断する方法を選択)社会から完全にひきこもるという時間というのは、悲嘆過程にはやはり必要不可欠なプロセスだと実感しました(p.71)。
・死産後すぐは無気力で、「死ぬ気力がないから生きる」日々が続きました(p.133)。
・(父親に対するグリーフケアの必要性について…)戸籍には載らない命であっても、死産という経験は夫婦や家族に想像以上のショックとダメージを与えます。死産後の身体的・精神的ケアのためにも夫婦で向きあう時間が必要であるという認識が、社会的に認められることを望みます(p.147)。
・(死産という出産の過程において、医療者に感謝していること…)出産の過程で担当者が代わらなかったことです。どんなことがあっても見届けるのだという、医療者の気持ちが伝わってきました(p.171)。
・医療者に望むこと…①赤ちゃんの心音が取れない時点から危機介入的なアプローチをして欲しい。②医療者にグリーフケアを学んで欲しい。③チームで対応することを心がけて欲しい(チームには医療職に限らず、事務職員や配膳係も含む)。④退院後も関わり続けて欲しい(p.202).
・(退院後に病院とコンタクトを取る手段として…)電話だけでなく、メールやファックス、手紙といったいろいろなチャンネルがあればいいなと思います(p.204).
・周産期のグリーフケアのコンセプトは、ずばり「生きて産まれてきた子と同じように接する」です(p.230)。
・グリーフケアに関わる者には、"伝える"と"伝わる"は違うということを心得ておいてほしいです(p.234)。



グリーフケアというと、「がんの終末期患者を看取った家族」を対象とした文献等が多い。しかし実際には、日常生活のなかに多くの「喪失」があり、医療の現場にも日常的にあふれているのだと思う。
周産期に焦点を絞ったものを初めて読んだが、これは周産期に限定せず、多くの場面に共通する「信念」のようなものが含まれていると感じた。

医療者は時に、責任追求を逃れるために組織から「謝罪」をしないように言われることがあるという。しかし真摯に向き合い、最善を尽くした結果としての「謝罪」であれば、それは間違ったように受け取られるのではなく、本来の意味を持って受け取られるのだと、本書を通して考えさせられた。
そのためには、医療者が逃げずに向き合い、そして時間をかけて信頼関係を作っていくことだと思う。
忙しい医療の現場で、これを実行するのは容易ではないだろう。しかし医学の本来の目的は何か?と考えたときに、医療行為以外のものに時間や労力を少しだけでも費やせるのではないだろうか。その可能性を信じたい。



赤ちゃんの死へのまなざし ―両親の体験談から学ぶ周産期のグリーフケア
クリエーター情報なし
中央法規出版
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